「この技術いつ流行った?」を12年間の開発コンテストと比較して振り返ってみた
2006年より名前や主催、運営チームの姿を変えながら続いてきた開発コンテスト「Mashup Awards」(現在は改称し「ヒーローズリーグ」)は、それぞれの時代におけるITモノづくりやプロトタイピングの現場を見てきました。
今回は、2006年の第1回から名称変更前の2017年までの12年間のコンテストを、その時々の技術トレンドなどとあわせて振り返ってみたいと思います。
過去の開催を振り返りながら気づくのは、技術トレンドの移り変わりの速さと、その移り変わりをいち早く嗅ぎつけ様々な形でプロトタイピングするプロトタイパー達の姿です。
モノづくりのゼロイチにおいて、シーズ(技術)がニーズ(課題や要望)にフィットするまでは一定の時間がかかります。
その一定の時間にシーズを起点に生まれるプロトタイプを見ていると、まさに時間を超越する感覚を味わえます。(ニーズベースのプロダクトが少し遅れて世間にやってきます)
その超越する感覚を読者の皆さんにも味わって頂きながら、今から少し前のITモノづくりの姿を感じていただければと思います。
◆2006年〜2008年:WEB APIでのMashup全盛期 〜地図時代〜
Mashup Awardsは2006年に、リクルートとサン・マイクロシステムズの共同主催によって、WebAPIの活用コンテストとしてはじまりました。(初回はリクルートの提供するWebAPI利用が必須)
2005年はGoogleMapのAPIをを活用した事例が国内でもチラホラ見え始めた頃であり、TwitterのオープンAPIが登場するのはその1年後2006年という時代でした。
企業サービスでWebAPIがでどのように利用されていくのかは、まだまだ実験的要素が強い時代だったと思われます。
※2008年 Mashup Awards 4th 最優秀作品:「ChaMap」の画像
実際2006年〜2007年にかけてはMap APIを活用し、POI (Point of Interest)などの情報を表示したり、投稿・共有・削除できるような作品が多く見られたようです。
また、2007年の段階でWebサービスで取得した情報を組み合わせて表示するというのは既に出尽くし、2008年にはGPSやPlaceEngineなど現在地を軸にした作品も増加したように、表示された情報をどうすれば活かせるか、という成熟フェーズに入りました。
このように、回が進むにつれ作品はより複雑になり、ブログやSNS、動画共有サイトのAPIとMashup(かけ合わせ)した作品や、ゲーム端末やカーナビなど、PC以外のデバイスに対応した作品なども誕生しましたが、その多くはMap APIを軸にした「地図時代」でありました。
<参考:MA優秀賞作品>
2006年 Sun×RECRUIT Mash up Award 最優秀作品:「みんなの水遊びMAP」
2007年 Mash up Award 2nd 最優秀作品:「出張JAWS」
2007年 Mash Up Award 3rd 最優秀作品:「ONGMAP」
2008年 Mashup Awards 4th 最優秀作品:「ChaMap」
※2006年〜2008年までは合計4回の大会があり、最優秀作品名のほとんどに「MAP」が付いているのがこの時代をあらわしています。
ちなみに、「O2O」というキーワードが国内で流通し始めたのは2012年ほどからっぽいです。
参考:オンライン・ツー・オフライン(O2O)コマースに1兆ドルの可能性がある理由(TechCrunch)
◆2009年〜2010年:WEBAPIでのMashup全盛期 〜ソーシャルグラフ時代〜
※2009年 Mashup Awards 5 最優秀賞 「SocialCombat V」の画像
2006年にTwitterAPIがリリースされ、翌年2007年は、複数のSNSで動作するアプリケーション開発のための共通API「Open SocialAPI」がGoogleの声がけによって提供されました。(参考資料)
このような背景もあり2009年に開催された、MashupAwards5 では、全作品の23%がTwitterAPIを利用するというSNS APIの全盛期を迎えました。
ある程度予想されたこととはいえ、当時の運営事務局の予想を上回る数だったようです。
この頃にはAPIのMashupというキーワードも一般的になり、日常に使えるようなツールやサービスも増え、総合的な完成度が向上していると運営が述べており、ものづくり文化の充実がわかります。
<参考:MA優秀賞作品>
2009年 Mashup Awards 5 最優秀賞 「SocialCombat V」
2010年 Mashup Awards 6 最優秀賞 「育児日記EmiriSystem」
またMashupやものづくり文化の充実と共に、参加者は多様化し、2009年付近ではハードウェアとソフトウェアの融合作品もみられはじめました。
2009年に応募されたCastOven( http://www.persistent.org/castoven.html )
2010年に応募されたtag tansu( https://mobiquitous.com/tagtansu/ )
ちなみに、クリス・アンダーソンの「Makers」が出版されたのは2012年です。https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000815762012.html
◆2011年〜2012年:スマホアプリ全盛期
2018年に行われたAppAnnie(Android限定)の調査によると、アプリの数を2018年と比較すると1/33程度という黎明期でしたが、2011年のMashupAwards 7では応募作品に占めるスマホアプリの割合が急増しました。
<参考:MA優秀賞作品>
2011年 Mashup Awards 7 最優秀賞 「ミブリ・テブリ -QUIZ kinect」
2012年 Mashup Awards 8 最優秀賞 「Voicepic」
また、アプリマーケットを介し、個人の開発者でも手軽にマーケットとユーザーにリーチできるようになったこともあり、ソフトウェアエンジニアが起業する事が身近に感じられるようになりました。
実際にMashup Awards7に参加をし、その後起業や事業を起こされた方は多かった印象があります。
<参考Mashup Awards 7における応募作品と受賞例(起業編)>
・ニュースがどんどん読みたくなるで賞 「Gunosy」(現 株式会社Gunosy)
・マイコミジャーナル賞 「ソーシャルランチ」(2012年にdonutsが買収)
・Social Shopping賞 「ミナオメ!」(現 MUGENUP株式会社)
・Developer, Developer, Developer!!賞 「Facematch」(株式会社Pitapat その後解散)
・Happy Life Sharing賞 「My365」(現 株式会社シロク)
※2011年 Mashup Awards 7 最優秀賞「ミブリ・テブリ -QUIZ kinect」画像
一方で、2010年Kinectが発売され、新しい入力インターフェースとして話題になると共に、MashupAwardでもMA7の最優秀賞に輝いた「ミブリ・テブリ -QUIZ kinect」や、「Air書道」などいくつかの作品が発表されました。
スマホやデバイスとは異なる新しいインターフェースの民主化の始まりでした。
また、テクノロジーのトレンドが少し早く顕在化されるMashupAwardsでは、2011,2012年頃にはいくつかのIoT作品が発表され、その存在を示し始めていました。
<参考:2012年に発表されたIoT作品>
・「手首装着型ネットガジェット お〜い、おまえねむっTEL」 ( http://jksoft.cocolog-nifty.com/blog/tel.html )
・「寝顔認識めざまし Facekick」 ( https://2ngen.jp/ma8/ )
ちなみにこの頃、ガートナーのハイプ・サイクルでの「IoT」というキーワードはまだまだ黎明期。(ピークは2014年)
◆2013年〜2014年:ハード×ソフトウェアの融合期
スマホアプリ全盛期を経て、時代はハードウェアとソフトウェアの融合を見据えたAPIエコノミー第3期に突入。
<参考:MA優秀賞作品>
2013年 Mashup Awards 9 最優秀賞 「1Click飲み」
2014年 Mashup Awards 10 最優秀賞 「無人IoTラジオ Requestone (リクエストーン) by Team Edi」
2013,2014年はNTTドコモのAPI提供開始、IBMのクラウド参入発表、Intel Edisonの提供開始、ビックデータ・オープンデータの名の下に自治体や企業がデータの開放に参加するなど、様々な技術やデータが一気に開放された年となりました。
また、これに呼応するように応募作品の多様性が一気に広がり、新領域の作品の受賞が多く見られる多様化の年でありました。
※2014年CEATECでは過去の応募作品よりIoTやハードウェア作品など展示しました
<参考:2013,2014年のIoT・ハードウェア作品>
MashupAwards 9 優秀賞 「vinclu(ウィンクル)」
MashupAwards 9 ハードウェア賞 「Tempescope」
MashupAwards 10 最優秀賞 「無人IoTラジオ Requestone (リクエストーン) by Team Edi」
MashupAwards 10 ウェアラブルデバイス部門賞 「おなかのげんじつ by WAISTON Chobit Healthcare」
<参考:2013,2014年の新API・オープンデータ作品>
MashupAwards 9 優秀賞 Drive Do「Quiz Drive(クイズドライブ)」
MashupAwards 10 ハードウェア部門賞作品 「うまいドライブ」
※2014,2015年にかけ、仮想車体データなどの提供があり、新しい潮流として参加者の注目を集めました。[参考]
MashupAwards 9 Tech総研賞「LinkData.org」
MashupAwards 10 オープンデータ部門賞 「GEEO(あらゆる不動産の価格を予測します)」
◆2015年〜2017年:あらゆる技術の民主化
2015年の最優秀賞作品である「参式電子弓」は、APIを使わない初めての最優秀賞作品としてMashupAwardsにおいて非常に大きなインパクトをもたらしました。
OculusDK2が日本に出荷されたのが2014年。
グーグルが機械学習システム「TensorFlow」をオープンソース化されたのが2015年。
ひと型サイズのロボット「Pepper」の開発者版が提供されたのも2015年。
あらゆる技術の民主化・開発者の手に渡るスピード感の加速により、開催当初の「WebAPIの活用コンテスト」という役割は終え、あらゆる技術が開発者の手に渡り、ものづくりの異種格闘技戦の様相を強めていきました。
※Mashup Awards 2016決勝はトラスを組み立て異種格闘技戦風の演出を実施
実際Mashup Awards 2017の審査員に、「APIを使ったマッシュアップの開発コンテスト」だったMAが、約3年前(参式電子弓の登場)を境にハードウェア、IoT開発などを取り込みつつ、急速に「開発」の裾野を広げた。ジャンルについても、デザインやアート、エンターテインメントといった各領域の融合が進んだ」と評されました。
自分が思いつく限りでも、機械学習・AI系(「なりきり2.0」や「トイレの神様」、「water melon sound」、「Draw Shop」)、VR(「不可視彫像」)、AR(「掃除機をどこまでかけたかわかるAR」)、ロボット・モビリティ(「ヒボたん」、「ext-bloom」)、舞台演出(「GROOVE v2.0」)など、あらゆるジャンルの技術が個人開発者によって料理され、発表され、
それはまさにものづくりの異種格闘技戦のようでした。
<参考:MA優秀賞作品>
2015年 MashupAwards 11 最優秀賞 「参式電子弓」
2016年 MashupAwards 2016 最優秀賞 「srt.js: YouTubeの映像と連動したマッシュアップ作品を簡単に作れるJavaScriptフレームワーク」
2017年 MashupAwards 2017 最優秀賞 「GROOVE v2.0」
ちなみに、2015年スマートDIYキット「MESH」が販売され、ノーコード・ローコードといった新しい技術の民主化の流れも生まれました。
MAの中でもいち早く捉えて発表されたのが、Mashup Awards 2016 Mashup部門賞 「どこでもMステ」であり、この流れは2020年の今現在でも続いております。
◆最後に
私が初めてMashupAwardsに触れたのが2011年、MashupAwards 7。
決勝審査会の場で、まだ世間では一般的ではない技術を繰り出し、創造力溢れる作品を発表するプロトタイパーの姿は、魔法でも使っているように魅力的な姿に映ったのを覚えております。
以降コモディティ化のサイクルは年々早まり、且つ技術の多様化も進み、まさに誰もがあらゆる物事を創作できる時代となってきました。
そして、この多種多様なプロトタイピングを、一つの軸で評価することができなくなったこともあり、2018年に「Mashup Awards」から、誰もがヒーローになれる・ヒーローを見つけられる開発コンテスト「ヒーローズ・リーグ(HEROES LEAGUE)」へとコンセプトを変更し現在も活動を続けております。
モノづくりのゼロイチにおいて、シーズ(技術)がニーズ(課題や要望)に適用されるまでは一定の時間がかかります。
その一定の時間に、シーズをベースにした様々なクリエイティブを発揮していくプロトタイパーの姿は、今では一層多くの場所で見られるようになりました。そして至るところで時間の超越、時代の先取りを目にすることができます。
私が所属している一般社団法人MAでは、次の10年の技術トレンドとモノづくりの現場はどのようになっていくか楽しみにしながら、この魔法使いたちがもっと増え、楽しんで活動できる場をこれからも作っていきたいと考えておりますので、これからもお楽しみにしてください!
本件に関するご質問、ご意見などありましたらこちらまでご連絡ください。https://we-are-ma.jp/contact/
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