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オーストラリアにおけるオンライン寄付キャンペーンの企画のポイント:F&Pファンドレイジング・フォーラム2023レポート①

2023年8月末、オーストラリアの非営利団体Fundraising & Philanthropy(F&P)がシドニーで開催したファンドレイジング・フォーラムに参加してきました。

本記事では、同フォーラムのセッションの一つ「Unlocking the secrets of digital giving: Top 5 lessons for successful appeals」からの個人的な学びや気づきをまとめています。

このセッションのスピーカーは、オーストラリアの非営利組織を中心にデジタルマーケティングや寄付キャンペーン等のオンラインファンドレイジングの戦略づくりをサポートするntegrity社のクリエイティブ・ディレクターのKyle Vermeulen氏とクライアント・サクセスの主任を務めるOphelie Lechat氏でした。


まずはセッションのタイトルにもなっている5つの学び(5 lessons)を先にご紹介しておきます。ntegrity社は、これまで200以上の寄付キャンペーンの企画・設計に携わってきており、その中の成功事例からの学びだそうです。

①寄付者を知る(Get to know these donors)

②力強い案をつくる(Craft a powerful proposition to cut through)

③自団体のターゲットと目的にあったプラットフォーム(と予算)とのマッチング(Match your platforms (and your budget) to your audience and objective)

④人に寄付しやすくさせる(Make it easy for people to give)

⑤成功する寄付キャンペーンはブランディングも意図しながら市場に出ている時間が多い(Successful campaigns have plenty of time in market, including always-on brand advertising)

セッション資料および内容から筆者意訳

セッションの題材になった4つの寄付キャンペーン

今まで携わった中でも、特に成果の上がった下記4つのキャンペーンを題材に学びやポイントが話されていきました。

・The Good Friday Appeal
オーストラリア・ビクトリア州を拠点とした子ども達への支援を募る年次の寄付キャンペーン。1992年から毎年実施されていて、2023年は、2300万オーストラリアドル(約21億6200万円)を集めたそうです。

・Climate Council
Climate Councilが2023年に実施した寄付キャンペーン。寄付者は、寄付と同時にメッセージを送ることができるようになっているが、そのメッセージは環境汚染者(企業など)への抗議の声を届けるというデザインになっています。気候変動や環境問題に問題意識を持つ人達にアクションを起こさせることを寄付とうまくつなげた事例。

・Positive radio
メディアのポジティブな社会的・心理的影響を重んじる考え方「ポジティブメディア」を信条とするラジオグループの一部であるPositive Radio Stationの寄付キャンペーン。これは、多くの人に向けて広く訴求するオンライン寄付キャンペーンとは異なり、主にローカルの技術系企業向けに行われたものだそうです。地元のラジオ局を支援することで、あなたはどのような世界を作りたいですか?という屋外広告も活用しながらも、ラジオとデジタル広告での訴求に中心に進めていったそうです。(ちなみに、屋外広告のキャッチコピーはガンジーの言葉をもじっていますね)

Positive radioの寄付キャンペーンの屋外広告(スライド資料より抜粋)

・Salvation armyのRed Shield Appeal
イギリスで生まれたキリスト教プロテスタント派の慈善団体Salvation army(邦名:救世軍)の数億円が毎年集まる寄付キャンペーン。元々は、個人宅への訪問やショッピングセンター等で対面の寄付募集を行っていたが、コロナ禍をきっかけにオンライン広告で試行錯誤を重ねて、この寄付キャンペーンを継続させてきた。ほとんどのSNS利用者は音量をオフか小さくしていることから、様々なビジュアル効果を駆使した広告が特徴的。

上記4つの寄付キャンペーンのポイントを簡潔に共有された後、オンライン寄付キャンペーンはダイレクトメールのアピール方法の延長線上でつくられていることがほとんどと指摘されていました。その前提を踏まえて、最も成果を出しているオンライン寄付キャンペーンは、デジタルファーストの人々の特定のニーズを考慮して、どのように「寄付」という具体的な行動に移ってもらうかが重要であると言います。

共感や感情移入ではない、人が寄付をする時の感情

事例の一つであるClimate Councilは、キャンペーン型寄付における基本的なアプローチの「社会課題の現状・実情」や「その活動の必要性」から訴えるアプローチでは、潜在寄付者たちは心を動かされないと認識していたそうです。一般的にも、既に気候変動と現在や将来までの影響について十分に認識されていて、社会課題の状況もその活動の必要性を示す必要が無かったというわけです。
そして、気候変動や環境問題に関心を持つ人々が持っているのは、環境汚染につながってしまってる活動や汚染物質を排出している事業者への「怒り」の感情です。その感情を持つ人達を寄付キャンペーンのターゲットとして、排出事業者への「抗議のメッセージ」とそれらを止める活動を実現するために必要な「(金銭的な)寄付」を集めるキャンペーンを展開したということでした。

ファンドレイジングでは、「共感」や「感情移入」が大事だとよく耳にするように思いますが、それだけが人々が寄付する際の唯一の感情ではないことが表れている事例だと思いました。

Climate Councilのキャンペーンの寄付申込の画面(スライド資料より)

ファンドレイジングの基本ステップでは、潜在寄付者の分析が最初の方にありますが、その重要性が改めて分かります。

ところで、みなさんが特に気になるのは、こういった潜在寄付者をどう特定すれば良いのかということでしょう。本セッションの中でも、いくつかの方法が示されていたので紹介します。

まずは、典型的でかつ基本的な方法で、寄付者インタビューやアンケートなどの調査を行い、その結果を分析して、(潜在)寄付者像を見出していく方法です。

他に共有された方法として、自団体に関するGoogleレビューを読んだり、Redditのようなディスカッションプラットフォームで自団体の名前を検索したり、SNS上での自団体に関する投稿やコメントを調べていくことが挙げられていました。(つまり、エゴサーチ)
エゴサーチを通じて、人々が自団体についてどんな点を気に入っているのか、自団体や自団体の目的についてどう感じているのか、具体的にどんな言葉を使用しているか、具体的にどのような感情を持っていそうかといったことを分析して、寄付キャンペーンで人々のどういう感情にアプローチするのか、どういう言葉やメッセージを使うのかを決めていけると良いと話されていました。

オンライン寄付キャンペーンの予算と使い方

ntegrity社によくある問い合わせに、「デジタルメディアに使う予算があるが、どのメディアにどう使えばいいのか?」というものがあるそうです。セッション内では、その疑問を解消して、オンライン寄付キャンペーンを始めやすくなる切り口が紹介されていました。
オンラインキャンペーンの収益の大部分は、下記の図にあるように、eメールとSNSとなっているそうです。つまり、団体として連絡先を持っていたり、SNSフォロワーといった「既につながっている人達からの寄付」が収益のほとんどであるとのこと。この点は、日本のファンドレイジングでも「現在つながっている人達へのアプローチ」が基本と言われていますね。

オンライン寄付キャンペーンの収益源の分類(スライド資料より)

一方で、日本と異なるように感じたのが、新規寄付者の流入は有料広告が最も多いという下記の図です。非営利活動やチャリティーへの寄付が一般的に習慣付いているオーストラリアだからこそ有料広告が新規層を増やすアプローチとして特に効果をあげているのかもしれません。

新規寄付者の流入源(スライド資料より)

下記の図では、寄付キャンペーンのデジタルメディアに使える予算規模ごとに使うメディアが紹介されていました。左から、5,000オーストラリアドル(約47万円)、25,000オーストラリアドル(約232万5000円)、100,000オーストラリアドル(約9300万円)の予算規模。
最小の予算規模の例として挙げられていたのが、5,000オーストラリアドル(約47万円)だったことも印象的でした。寄付キャンペーンの有料広告に、これくらいの一定の予算を割ける非営利団体がオーストラリアには結構いることが伺えます。

デジタルメディアへの予算ごとのデジタルメディアのおススメ例(スライド資料より)

Good Friday Appealにおいては、寄付しやすい決済フォームの設計として、iPhoneでアクセスするとApple Payの決済画面に、android端末でアクセスするとGoogle Payでの決済画面に、PCでアクセスするとカード決済の入力画面になるように設計されていた点は、ディテールまでつくり込まれているなと感じました。

good Friday appealの寄付決済画面(スライド資料より)

約7割の人々がクリスマスの寄付先が既に決まってるオーストラリア

興味深かったのは、同社が2023年7月にクリスマスの寄付キャンペーンの寄付者に実施したサーベイにて、今年のクリスマスの寄付先が既に決まっている人達が約7割であるという回答結果が得られたとシェアされました。
このデータを根拠に、ほとんどの寄付者たちは寄付先を既に決めているため、寄付キャンペーンの時だけ頑張っても大きな成果は見込めず、年間を通じた広報戦略・ブランディングとあわせて寄付キャンペーンを実施する大切さを強調されていました。
(寄付者に聞いたからこその結果だとも思いますが、一方で日本で同様の質問をしたらどういう結果になるだろうか…)

今年のクリスマスの寄付先が既に決まっている人の割合(ntegrity社のサーベイ結果より)

日本のソーシャルセクターに活かせそうな点

ここまで紹介してきた限りでも、寄付という習慣が根付いているオーストラリアならではの寄付キャンペーンの作り方がなされていることが分かります。私の視点からは、寄付者分析をする際にエゴサーチも一つの手段になり得ること、共感や感情移入以外の感情に訴えかけるというアイディアとその事例、有料広告を寄付キャンペーンで活用できる可能性といった点は日本のファンドレイジングでも直ぐに取り入れられる部分かと思いました。


最後に

記事をお読みいただき、ありがとうございました。
私は、オーストラリアを中心に海外のソーシャルセクターに関する有意義な事例や知見を日本のみなさんにシェアしていけるように日々活動しています。

現在は、コストがかかり過ぎないように意識しつつも、無料の機会だけで得られる情報や出会える人では情報の質と量に課題があり、ファンドレイザーをはじめオーストラリアのソーシャルセクターの人達とつながるために有料のイベント(約2~8万円の参加費)やカンファレンス(約10~20万円の参加費)に直接参加したり、なるべく正確かつ信頼性のある情報源から情報を得られるように有料のレポートや書籍を購入しながら情報を集めています。

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