見出し画像

友田とんが勝手に九州も歩く DAY1

2018.9.16(日)

東京

「勝手に東北を歩く」の推敲をしながら、福岡へ向かう。と言っても、スーツケースを引いたままの電車や、離着陸の間はPCが使えないので、昨日買った『A子さんの恋人』の第5巻を読まざるをえない。

『A子さんの恋人』 5巻

NYから帰国してあと2ヶ月で一年が経つ。A子さんもA太郎も、A君もみな暮らしの中で、ふとその場所や状況から、出会った頃、デビューした頃、付き合っていた頃を思い出し、思い出しては日常を暮らしていく。A子さんは、長年心に引っかかっていたデビュー作の直しを決心する。A君は依頼が飛び込んできた大江健三郎『空の怪物アグイー』の翻訳に専念する。それらが完成する頃にはNYへ戻るのか決断をしなくてはいけない。偶然、A太郎もA子さんも身辺の整理に迫られる。付き合っていた頃からの年月や思い出の積み重ねにため息をつく。二人は、実際にはすれ違っていて、けれど隣り合うコマで問う。

「あなたは8年間、何していたの?」
「君のことを、待ってた」

ニューヨークで翻訳に集中していたA君は、考え煮詰まった自宅の部屋のあちこちに、散歩に出かけた町のいたるところに、A子さんの気配を感じ、姿を探してしまう。

水平飛行に入ると、私はMacBookAirを取り出し、秋田から東京へと向かう「勝手に東北を歩く」2日目の推敲をしはじめた。そういえば、A子さんの友人のU子とヒロくんは東京から秋田の実家へ結婚の挨拶に行くために飛行機に乗っていた。さっきまで読んでいた『A子さんの恋人』5巻のことが頭を離れない。秋田へ向かう二人のことを思い浮かべる。A子さんは、A君は、そしてA太郎は?

『代わりに読む』を発表した後、寄せられた感想の中で多くの人が一致した意見は、

「僕は(わたしは)、A君派!」

というものであり、そんなに高らかに宣言しなくとも、むしろ誰も彼もみな「A君派!」なのであった。

そもそも、ことの最初からA君と結ばれるのは決定づけられているのだよという説得力のある説明も聞いた。その通りなのかもしれない。だからこそだ。だからこそ、A太郎が可哀想だ。A太郎はどうしようもない。どうしようもないが、私はここで宣言する。

「私はA太郎派!」

当然、A太郎は問題ありの男である。でも、誰もどうして彼の側に立たないのだろうか。みんなはNYに置いていかれたA君が可哀想と言うけれど、A太郎は可哀想じゃないの? A太郎が待っていた間の孤独は描かれない。私はA太郎のことが可哀想で、それで東京に戻ったら一人で阿佐ヶ谷の町を歩いてみたくなっている。

と機内でこれを書いているうちにもう福岡の上空だというアナウンスが流れた。これはいったい、なんだろう、『A子さんの恋人』の感想文? 

福岡

今回は二日かけて二都市の訪問だから、東北をほとんど一日で駆け抜けた前回の行商旅行に比べれば、町に滞在する時間もとれそうである。地下鉄に乗って天神へ向かった。天神の地下から上がったところでいきなり迷った。地図をどれだけ眺めても、どちらがどちらなのか掴めない。私は地図を読むのが割と得意だと思っていたのだが、PARCOの隣にPARCOがあり、地図と見比べてもそれは私が今立っている地平を鏡に写した左右あべこべのようにしか思えず、そのため、私はどちらに進んだらいいのか、わからなくなっていたのだった。

12:00に書店の方と約束していたので焦っていた。仕方なく、1、2ブロック歩いてみて、それで周りを見渡してみるしかなかった。歩いてみると、どうやらまったく逆方向に1、2ブロックほど歩いてきたようだった。しかし、進むべき方向さえわかってしまえば、もうあとは頑張って歩くだけだ。歩いてまずはセブンイレブンを目指し、見本誌や取引条件などをまとめた資料を印刷し、「本のあるところ ajiro」へと向かう。飲み屋が並んでいるような、たぶん夜になったら賑やかになるのであろうその通りを進み、途中で道を曲がるとすぐに「本のあるところ ajiro」はあった。

本のあるところ ajiroの開業準備中の店内

「こんにちは」と入口から中を覗くと、壁一面に白い本棚が出来上がっていて、藤枝さんが待っていてくださった。まだこちらはオープン前で、内装や棚を作りながら、出版社から本を仕入れて並べられている最中だということだった。短歌、詩、海外文学に特化して、お酒を飲んだり、イベントをやったりする、そんな本屋さんにして行くそうだ。私も『代わりに読む』の見本を早速見てもらい、少しお話してそれでありがたいことにこちらでも置いていただけることになった。

それから、はじめてポップを書いた。ヨイヨルさんが以前に『代わりに読む』を読んで、小さい私がマコンドを歩いている姿が思い浮かんだ、と言ってくれていたのを思い出して、「ブエンディア家の人たちに会うために、マコンドを歩きました。」というポップを書いた。

それにしてもajiroさんを運営されている書肆侃侃房は最近、『たべるのおそい』だったり『ねむらない樹』といった雑誌を次々出し、今度は本屋さんもはじめるなど、攻め攻めだなと思ったのだった。帰り際に、藤枝さんが福岡の行ってみたらいい本屋さんを回る順番も含めて図を書いてくださった。私には到底できないくらい優しくて、さらに書いてくださる図がとてもわかりやすく、めっちゃ頭がいいと思った。たぶん、「本のあるところ ajiro」もそのような気配りによって素敵な書店になることだろうと確信して、そしてまた来ますね!と挨拶して外に出た。

歩いて、ブックスキューブリックのけやき通り店(1号店)を訪ねた。思っていたよりも小さいし、雑誌にスペースを随分割いているのに、それでいて書籍は売れ筋ではなく、独自の選書がとてもよい感じがした。東京では結局まだお目にかかることのなかった『本を贈る』がちょうど平置きされていて、まずはその手に持った感触とその装丁の美しさと、それから本を開いた時の印刷の香りに惚れ惚れとした。これは手に入れなくてはと、早速購入した。それから、レジにいらっしゃった店員さんにご挨拶して、見本と資料をお渡しした。

ブックスキューブリック けやき通り店

店を出ると、ちょうどtwitterでBOOK TRAVELLERの和氣さんが教えてくださった、LUMO BOOKS & WORKSが近くだったので立ち寄った。

もう14時だったので、さすがにお腹が空いてきて、私は天神の方へと向かいながら、どこかでラーメンでも食べようかと思ったのだった。ところが、なかなか適当な店が見当たらないままに、気づけば天神の中心部みたいなところにたどり着いてしまった。砂漠のど真ん中に放り出されたような心境に陥った。本当に疲れてしまうと、食欲のセンサーというか、お店を見つけて食べようとする機能が完全に停止してしまい、もはやただただ歩く機械になってしまう。

iPhoneのバッテリの残量も心配だったし、なぜか予想以上に気温が高く、熱っぽい気がしたので、スタバに入った。そして、涼みながら、そろそろ天神周辺の大手のチェーンを見て回ろうかと思った時に思い出したのが、自宅にほとんど名刺を忘れてきたという事実だった。もう1枚も残っていないのである。

困った時の味方Kinko's

どうしようかと考えて、困った時の味方Kinko'sを思いついた。私は近くのKinko'sを訪ね、「厚手の上質紙に印刷できますか?」と聞いた。「大丈夫ですよ。」と店員さんが答えてくれた。さらに、「名刺のPDF原稿は小さい変形サイズなのですが、これをA4に4枚面つけして印刷できますか?」と聞くと、アプリのダウンロードの仕方などなどを教えてくれて、簡単に印刷できたのだった。ところが、変形サイズのものを面付けすると、ちょうど全体がA4になるように拡大されてしまうことが判明した。これでは大きすぎてほとんどハガキみたいな名刺を配ることになるし、名刺入れにも入らない。ハガキのような名刺をカバンから取り出し、書店員さんに渡す様子をイメージする。相手にはやたらと大きな名刺をくれる人という強い印象を与えられるにちがいないが、そんな印象を与えてどうしようというのか。つい「困ったな」と口に出すと、「ではPCからやりましょう。USBメモリも貸しますので、ここにデータを入れてください」と、実にテキパキとやりかたを教えてくれて、何度か失敗したりもしたけれど、ほどなくして4枚面つけした紙が3枚完成した。よかったよかったと喜びながら、会計を頼むと3枚分の印刷代とPCのブースの利用で合計292円であった。本当に申し訳ないくらいの金額で、
「めちゃめちゃ助かったのに、こんな金額で申し訳ないです。どうもありがとう」と伝えると、
「いえいえ、いいんですよ」と店員さんが笑顔でおっしゃった。

その後、店の隅にあるカッターでトンボを切る。天神でトンボを切った。まったく予想しなかった展開に驚きながら、トンボを切るのは、気持ちいいなあ、裁ち落とすとなんでこんなに気持ちがいいのだろう、人類全員が毎日トンボを切ってたら、幸せな気持ちで日本中が満たされるのになあ、という、幻福感に浸っていた。

天神でトンボを切る

岩田屋の上のLIBRO

それから岩田屋という百貨店の最上階に入っているリブロを見て、それからイムズという商業施設に入っている紀伊国屋書店を見た。サイゼリアの目立つ看板のビルに入っているジュンク堂にも入ったが、入ってみると、おそらくジュンク堂のビルにサイゼリアが入っているというべきものだということが判明した。いずれにしても、この天神という町には、小さな本屋さんも、ナショナルチェーンの大きな書店もこれだけたくさんあって、それはやはり福岡は大都会なのだと思ったのだった。

これでサイゼリアにだけ目がいくというのはよほど空腹だったのだろう

藤枝さんの書いてくれた地図

だいぶ体が疲れてきていて、博多駅周辺にも本屋さんはあるのだが、もうこれ以上は本屋は無理と判断して、地下鉄で博多へ向かい、博多駅からJRに乗り換えて、箱崎行くことにした。本のあるところ ajiroの藤枝さんが書いてくださったメモにも

「ブックスキューブリック箱崎店(パンがおいしい)」

と書いてくださっていたし、twitterでえりみさんも「パンがおいしいです!」と教えていただいていたので、空腹で限界の私は一刻も早く箱崎のブックスキューブリックにたどり着きたかった。箱崎のキューブリックカフェで でパンを食べたい!と強く念じた。

私は箱崎駅の改札口に立っていた。私は最初、自分はどこにいるのだろうかと思ったが、周りを見回してみると、「箱崎」とあったので、そこはどうやら箱崎だった。箱崎では駅から歩いてすぐのところに、ブックスキューブリックの箱崎店があり、それはストリートビューであらかじめ観たものとそっくりそのままだった。1階の本屋さんを軽く見たら、もう腹ペコすぎたので、すぐ2階のカフェへ行った。限定のサルシッチャを挟んだサンドイッチとみかんジュースを飲んだ。少しずつ疲れが癒されていき、さっきの経験は柴崎友香の小説のようだっなと微笑んだ。

放生会限定(なぜ?)メニューのサルシッチャのサンドイッチとみかんジュース

箱崎のキューブリックカフェは18時閉店のはずだった。17時30分L.O.と書いてあったので、17時を回って、じゃあもうコーヒーはいいかなと思っていた。ところが、17時半を過ぎても人が入ってきてはコーヒーを頼んだりしていて、L.O.を過ぎてもオーダーできる良心的な?お店なのかなと考えたりしていた。その後も次々お客さんが入ってくるし、店員さんも特にそのことに何かを伝えている様子もなく、ひょっとして、これは、いったいなんだろう?...... ぜんぜん、わからない(笑)となったので、カウンターまで歩いていき、
「ひょっとして、こちらは何時までですか?」と聞いたら、
「普段は18時までなんです。が、今夜は放生会なので、20時までですよ。」と店員さんが(よかったですね!)という表情で教えてくれたのだった。放生会というのが何なのかよくわからなかったが、私はよかった!と思い、上機嫌で頼んだ。
「じゃあブレンドコーヒーをください」
その時にレジの横にチョコレート色したものがあったので、それも頼んだ。席で待っていると、その上にバニラアイスが乗って出てきた。コーヒーもケーキもとても美味しかったのだった。

アイスの乗ったチョコブラウニー

今夜は結局博多で夕飯にするか、それとも熊本入りしてからにするか、考えあぐねていた。でも20時までここに居られるなら、ここで原稿を書いてから、熊本に行けばいいのではないかと考えた。考えるほどにとてもよいアイデアではないかと納得したのだった。それで原稿を書いたり、直したりする前に、まずはさっき買った『本を贈る』を読み始めたのだった。

『本を贈る』は著者、編集者、装丁家、校正者、印刷、製本、取次、営業、書店員、本屋、本づくり携わる人びとがそれぞれの仕事や、そこに込められた思いを綴ったエッセイ集である。まずは編集者、装丁家、校正者の章を読んだ。

装丁家・矢萩多聞さんが子どもの頃に家の近くのお店でセルフサービスの1枚十円のコピー機で冊子を自分で作って感動した時のことを書かれていて、私も近所の西友1Fのコピー機でよくわからない冊子を刷った時、そしてそれが冊子になった時の興奮を鮮明に思い出した。私が今もこうして文章を書いたり、本にしたりすることに熱中しているのは、そうした子どもの頃の自分が残っているからかもしれない。

校正者・牟田都子さんのパートを読んでいて、間違わない人間はいない、ということが書かれていて、そしてこれほど切実な仕事があるだろうかということに胸を打たれつつ、さらに、「へろへろ」の校正をした時に、福岡の親不孝通りが言及されていて、それで私はまさにさっきajiroさんからブックスキューブリックけやき通り店への道で通った通りではないかと思って、そのなんというか偶然に驚くばかりだった。

一度に読んでしまうのは、もったいないような気がして、本を閉じ旅の日記を書く。それで、ちょうど現実に日記が追いついて、ここを書いている。これから箱崎で呑めるだろうか? 呑めたらいいな。まだこの先はわからない。twitterでどうしようかと呟いたら、熊本はお祭りだから、博多で食事を済ませてきてはどうかというリプライが届いていた。博多駅の周辺は土地勘もないし、スーツケースを引きずったまま人混みを歩くのはいやだったので、箱崎で呑むことにした。ブックスキューブリック箱崎店で本を読んで、文章を書いて、PCを閉じて休息して、外に出たら日も暮れて少し涼しくなっていた。箱崎で呑んで、そして熊本へ向かいますと呟いた。ちゃんと、熊本に辿り着けるだろうか。ラマーガに会えるだろうか。

お祭りの提灯

箱崎の町で店を探しはじめて気づいたのは、箱崎も例の放生会ですごい人出だったのだった。歩く人たちで混み合った通りから少し入ったところに一軒のお店を見つけた。のれんの隙間から覗いたら、みんなが楽しそうに呑んでいる様子だったし、ちょうどカウンターの席が一つ空くところだった。ここはよさそうだと入ったら、正解だった。

ビールをいただきながら、あじの刺身などを頼んで一息つくと、隣に座った地元の同年代の男性が声を掛けてくださった。彼女と一緒に食事されていた彼は、「お兄さん、東京の人ですか? ここに入ったのは正解ですよ。それにしてもぱっとここを見つけるのはすごいですね。自分は箱崎で長く暮らしてたけど、最初この店に入るまでに何ヶ月も掛かりましたから」と言った。

それで、お言葉に甘えて、二人が頼まれた鯖の刺身を一緒にいただいて、ごまやネギやらをまぶして、醤油につけて食べたら、美味しくて私は声をあげた。九州独特の甘目のお醤油がいいですよね、と話していたら、店主の方が隣町の醤油もてしょ皿に入れて出してくださった。

「仕事ですか? それとも旅行?」というような話になり、本を自費出版していて、行商というか本を置いてもらえる本屋さんを探して全国を回ってるんですよと言った。興味をもってもらったので、カバンから本を出して見せた。

「自分はジャンプしか読まないけれど」
「でも、好きなものを読むのがいいですよね」

医療関係の仕事の彼は本をまったく読まないが、論文は読む。お姉さんが本が好きで、小さいうちから近所の小さい本屋さんの本を読みつくしてしまって、博多の大きな本屋さんまで本を買いに行って読むようになり、気づいたらアフリカにJAICAで行ったという話をしてくれた。本を読み尽くした先にアフリカがあるのが、とても素晴らしいことだと思った。

それから、彼女の方は名古屋の人で、「じゃああれ知ってますか?」と味仙のことを訊いたら、辛いものが苦手なのに、味仙で普通に頼んだらものすごく辛くて、水もなくて困ったという話を彼がしてくれた。彼女は地元でも辛いのが苦手な人は頼まないし、「辛さ控えめで」って頼む人も多いのだということを今更ながらに彼に伝えていて、「そうなの?」と笑っていたのがまたよかった。私も次に名古屋に立ち寄ったら、味仙に立ち寄ろうと思った。

「お兄さん、聞いてくださいよ。僕はね、今日もう清水の舞台から飛び降りるような気分でソファーを買ったんですよ」
と彼は話し出した。ソファーは本来の予算の3倍くらいの値段であるらしかった。
「この子がどうしてもほしがるから」
「いつも仕事から帰って来たらソファで寝てるから、あなたのためだよ」
「そうだね。」

買おうと思ったけれど予算を随分オーバーしていたので、彼は迷っていた。ところが、しばらく迷っていたら店員さんが
「もうこの場で決めてくれるんなら値引きします」
と言ってくれたのだと言う。

「私はそうか、と思ってですね、それで、もうじゃあ買います!って言ったら、店員さんも喜んだんですよ。ただ、なんでも現金で私は買うことにしてるもんですから、それで「ATMはどこですか?」って聞いたらですね、そしたら、その店員さんが「知りません」って言うんですよー」

と悔しそうに言うその話を、飲んでいる間に、何度か聞いたのだが、その
「ATMはどこですか?」
「知りません」
というところが何度聞いても、あるいは聞くほどに面白かったのだった。

ずっと話つづけたかったが、そろそろ博多に向かわなければ、新幹線を逃してしまうかもしれなかったので、お会計をお願いした。賑わっていた店内も、少し人が減って、ゆったりしていた。それまで忙しくしていた大将も、「この辺りは大学があるから、古本屋とかもいい本屋があったんですよ」などとニコニコと話し、「案外、いいペースで呑みましたね」と言ってくれて、それでもすごく良心的なお値段で、満足しながら、また福岡に来たらきっと来ますからと挨拶して店を出たのだった。ご機嫌で、ビール5杯飲んだ。

熊本

スーツケースを引きずりながら博多に出て、コーヒーを買って、新幹線に乗った。途中までメールを買いたり、twitterを読んだりしていたが、途中から幸福感でうとうとしていて、気づいたら熊本だった。夜、JR熊本駅の改札を出て、市電の方へ歩いて行くと、エスカレータを降りた先はまっくらなで、真っ暗な駅前で明かりの灯った市電が向こうから走ってきた。なぜだか懐かしい場所に戻って来たような気持ちになった。

電停からホテルまで歩いていると、なぜかアン・サリーのカバーする『満月の夕』が口をついた。一町ほどを歩きながら『満月の夕』を適当に私は放歌していた。

暗闇の向こうへ走り去っていく市電

(つづく)

#後日談  旅から東京に戻った数日後、ブックスキューブリック さんでも拙著を取り扱いいただけるとの連絡が届いた。素敵な書店さんだったので、一緒に拙著も並べていただけることになり、本当にありがたいことです。

友田とん『『百年の孤独』を代わりに読む』は以下の書店にてお取り扱いいただいています。ぜひ手にとってみてください。


よろしければサポートをお願いします。いただいたサポートは原稿執筆のための書籍購入や新刊製作に活用させていただきます。