見出し画像

静止画ばかり好む私が、新しい時代の生き方を知りたくて、動画を見に行ってきた

NTT インターネットコミュニケーション・センター(ICC)にて行われている「とても近い遠さ」という企画展に行きました。
場所は、京王新線初台駅最寄り、東京オペラシティタワー内です。

こちらの記事がきっかけで、ポストコロナ時代の「遠さ」と「近さ」とは?と、興味がわいたんですよね。

静止画じゃなく動画を見に行った理由

私は、絵画以外のギャラリーや企画展に行く事がほとんどありません。

なぜなら、マンガや小説といった、時間制約のない作品が好きだから。もちろん、映画やアニメも好きでたくさん見てきましたが、自分ランキング上位にくるのは前者です。

では、今回なぜこの企画展に行ったのか?
タイトルの通り、新しい時代の生き方を知りたかったからです。

パンデミックを経て、私たちは新しい生活様式を獲得し、日々生きています。
その一つが「ソーシャルディスタンス」。一時はあれほど騒がれていたのが、今やすっかり私たちの生活に根付いていますよね。スーパーのレジの床にある「こちらにお並びください」シールを見るたびに思います。

また、オンライン活動が盛んになりました。リモートワーク、オンライン会議、宿題をタブレット上で提出する子どもたち。

一方で、オフラインの重要性が際立ってもいて、とにかく、「距離」を考える機会が増えたと感じています。
遠くても近くてもだめで、バランスが求められる。そして自分自身も、よりいっそう、バランスを求めている気配がある。

正解はTPOで変わるでしょう。ただ、そういった新しい世界の中で、生きやすくなるためのヒントを得たいなと思ったのです。

印象に残った作品6つ

ぜんぶで15以上の映像作品がありました。時間の関係で、一部見られなかったのですが、それでも素晴らしい作品にたくさん出会えました。

以下は、特に印象に残った6つです。

1.古澤龍「Mid Tide #3」

企画展の入り口にある作品です。

第一印象は「なんだこれ」。首をかしげて、3秒ぐらいで素通りし、他の作品を見に行きました。しかし、この企画展は、順路と帰路が同じなので、帰り際にもう一度この作品を見る機会に恵まれたわけです。

こんどは、びっくりするほど惹かれました。どうやら私がはじめに入場した時は、作品の最後の方が流れていたみたいで……。クライマックスだけ見たら、まあ意味がわからなくなるよなあと思いました。

横並びの3つのディスプレイに、それぞれ、川の流れの映像が流れます。作品説明によれば、私たちが見ているのは、1種類の川。それなのに、まるでパラレルワールドのように、2種類の川を見ているようでした。といっても、見た目には確かに、同じ時間を流れる同じ川で……

あー!映像技術の知識も必要になってくるため、うまく伝えきれません!
気になる方は、ぜひ、作家さんのXをご覧ください。詳しく解説されています。

違うものを見ているようで、同じものを見ている。そのヒントの1つは、「色彩」にあるようです。

2.古澤龍「Slack Tide #1」

波の静かな押し引きを、ゆっくりと映し出している作品でした。このスピードの波を、高解像度のモニターで見ることは初めてでしたね。

終始ゆるやかながらも、速さのグラデーションがあるように思いました。いちばん遅い時は、「氷」が押し引きしているようだなぁと。
生き物がいるわけでもなく、色や形や風景もずっと同じなのに、ずっと見続けてしまいましたね。あれはクセになります。

3.木藤遼太「M.81の骨格——82番目のポートレイト」


展示室に入ったときの第一印象は、
かすかにボレロが聞こえるけれど、なんというか、ヘリコプターや、ハエの飛び回る音、あるいは戦時中の戦闘機の音みたいだな
というものでした。


説明書きを見てびっくりしました。

この作品は,フランスの作曲家モーリス・ラヴェルによる「ボレロ」の81種類の異なる演奏音源を小節ごとに分割し,重複なく組み合わせ,その中から54のパターンを抽出し,それらを同期させて再生しています.

作品の説明書きより

要するに、さまざまな指揮者や演奏者によるボレロをツギハギして、小節番号通りに並べ、できあがった新しいボレロ54種類を、同時に流しているのです。

同じ(ような)曲が流れているはずなのに、なんで騒音みたいになるんだろう……?

ここでわたしは、ポカリスエットのCMを思い出し、「ああ、それはそうか」と納得したのです。

ポカリとボレロの違い

パンデミック下において、ポカリスエットのCM撮影手法が変わったと言う話をご存知でしょうか?

ポカリのCMと言えば、青春をテーマに、学生がダンスすることでよく知られていたと思います。
それが、2020年は、ダンスというコミュニケーション方法がアップデートされ、「合唱」へ。

当然、一堂に会す必要があるわけですね。
しかし、皆さまご存知の通り、それは叶わなくなりました。

そこで、出演予定だった学生の一人一人が、個々人で歌って撮影し、それを一斉に放映すると言う手法を取ることに。
できあがったCMは、本当に見事だったのを覚えています。何十もの動画が、画面いっぱいに広がって、美しいハーモニーを奏でていました。

ボレロとポカリの違いは、1つの曲に対して、「一緒に奏でようね」と約束したかどうかだと思います。

ポカリに関しては、言わずもがな。
しかし、ボレロに関しては、1つの曲を一緒に奏でようと約束した相手は、自らが指揮する楽団の楽団員たちであったり、同じ楽団に所属している仲間たちであったりします。

したがって、時代もカラーも文化も違う、まして顔も見たことのないボレロ演奏者と、息が合わないのは当然なのではと。私はそんなふうに思いました。


4.おおしまたくろう「耳奏耳シリーズ」

1つ目は、「耳」を、2人の人間に擬人化した作品でした。
それぞれの「耳」が、それぞれ違う場所で映像を撮影。それらを同時に流して、環境音をふくめ1つの音楽のように見立てていたんですね。発想が面白かったです。

2つ目は、缶の中に音を閉じ込めている作品。
50個くらいの缶が並べられていて、いくつかに「耳」がくっついているものがあります。そこにヘッドホン端子を刺すと、缶の中に閉じ込められている音を聞けるんですね。

音そのものと言うよりかは、缶ひとつひとつのタイトルの付け方が面白くて、ぜんぶ聞いちゃおうかな!と言う気持ちになりました。

5.たかくらかずき「ハイパー神社(蛇)」

こちらは、神祇信仰や島国的な自然崇拝をテーマにした、NFTキャラクターの作品群です。

作品はもちろんのこと、テーマに対する作者の考え方に、はっとさせられました。

「ケガレ=穢れ」と言う価値観は、平安時代に広まったものと言う前置きをした上で、たかくらさんは次のように述べています。

あらゆるものを依代化する呪術的神祗信仰における「カミ」の存在や「ケガレ忌避」の価値観、「テジタルデータ」や「炎上」そして「空気」。これらは、目に見えないものとしてときには進行され、ときには過剰に忌避され、人々の感情を自在に操ってきました。これら目に見えない価値観との付き合い方こそ、平安時代から現代にわたって共通する我々にとっての大きなテーマなのではないでしょうか。

展示室内のリーフレットより

私たちは、「目に見えないもの」に対して、感謝し、恐れ、蔑み、慈しみ、価値を見出し……さまざまな印象を持ったり、アクションをとったりしているんですね。時代を超越するものとは、目からウロコでした。

6.グレゴリー=バーサミアン「ジャグラー」

さて、こちらはコレクション展。
なにが良かったって、もう圧倒的に「スケール」です。

ゾートロープ自体はほかでも見た事がありますが、もう迫力が全く違う!一軒家までは行きませんが、1.5~2階建てくらいの高さがありました。

ちなみに、装置を運転させている時・停止させている時とがあります。運転させている時は、お客さんが満員で、見事なアニメーションにただただ感動しました。停止しているときは、まったくお客さんがおらずでした。そのぶん、造りが細部まで観察できましたよ!

人間がジャグリングをしている様を、アニメーションにしているのですが、芸が細かい!
投げられている「物」たちが、周りながら次々と姿を変えてゆく様子を、巨大な立体パラパラマンガとして見せつけられました。

学生時代、授業中にパラパラマンガをよく描いていたなぁ。楽しさも苦労もあるけれど、あれを極めたらこうなるのかー、と、レベル違いとわかりつつも、うらやましくなりました。

「とても近い遠さ」は11月頃まで実施中です。気になる方は、ぜひ!

おまけ1:無料エリア

ギャラリーの中には無料エリアもありまして、そこでも少し面白いものを見つけました。

その名も「私たちのウェルビーイングカード」。PCの画面上で適当に選んだ3枚のカードには、「熱中」「愛」「親しい関係」と言う言葉がありました。今の私にとって、確かにすごく刺さるなぁと思えるものばかりだったので、驚きましたね。

おまけ2:東京オペラシティタワー

NTTの文化施設はもちろん、東京オペラシティタワー自体も初めだったので、いろいろと発見がありました。

タワーは、通り抜けただけなので、そこまでじっくりとは見ていません。しかし、建物中央の大きな吹き抜けのおかげで開放感があり、光も十分に差し込む、ゆったりとした空間で好きでした。
ギャラリーや新国立劇場に来ている方、昼休み中にベンチでランチしている方など、様々な方の憩いの場になっている文化施設なのだなぁと。

というわけで、東西南北にものすごく広い施設です!よって、駅直結ではあるものの、目的地にたどりつくのは少々大変。
帰り道も、まぁ来た道を戻ればよかったのですが、途中で迷子になり……!
しかし、周りの人に助けていただいて無事でした。ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?