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『給料の上げ方 日本人みんなで豊かになる』(デービッド・アトキンソン)

今まで私は、給料が上がらないのは、基本的には政府のせいだと思っていました。
だから、個人がいくら頑張ろうが焼け石に水で、逆に政府さえ動けばほぼすべて解決する。
なにより、デフレがデフォルトの世界に生まれたと思っていました。
世界における日本の立ち位置も、高度経済成長期やバブル期よりは下降しているけれど、
"貧困"というワードは大げさだな、炎上商法みたいなものだろうなと捉えていました。

本書を読んでいくつかの気づきを得ました。

① 給料があがらない根本的な原因

それは、労働生産性が低いことです。
労働生産性とは、労働者1人あたりが生み出す付加価値のことで、付加価値とは利益のことです。
日本の労働生産性は、先進国平均に対して70%強です。
ちなみに、労働分配率(=給料として支払った金額/付加価値)は、先進国平均くらいなので、
給料を上げるためには、付加価値を高めなければなりません。
ただし、「よいものをより安く」というマインドでは、日本人の良さが活きません。
愚直に誠実に仕事する、という日本人の強みを活かすには、「より付加価値の高いものを、より高く」売る必要があります。

② なにもしないでいると、日本人の給料は激減する

人口減少と、人口構成の偏りによって、あらゆる支出が増え、結果的に手取り収入が激減すると言われています。
まず、直面しているまずい事態は、消費者が減っていることです。
いくら付加価値の高いものを作っても、受け取り手がいなければ、意味がありません。
次に、2060年には日本の人口の40%が、高齢者になると言われています。
医療費などの社会保障費と、生産年齢人口が減ることによる税金負担は、今よりも増えます。
最後に、人口が減ると、道路や水道といったインフラの固定費(維持費)を少人数で負担するようになるため、相対的に負担が増えます。

③ GDPが高い≠1人ひとりが豊か

日本を国レベルで見ると、GDP世界3位の経済大国です。
しかし、個人レベル、1人当たりのGDPを見ると35位で、貧しい国です。
このギャップを生んでいるのは、人口です。
GDP=労働生産性×労働参加率×人口なので、労働生産性が低くても、人口が多ければ、GDPは上がるのです。
1人当たりのGDPは、労働生産性の影響を大きく受けるので、日本の場合は低いのです。


④ 問題の原因を考える時は、「比較」したほうが良い

日本の給料があがらない原因として、様々な仮説が流布しています。
では、諸外国においても同じことが言えるでしょうか?
「日本において○○だから給料があがらない」ということは、「海外のAという国においても○○だから給料があがらない」となるはずです。
しかし、実際には、日本だけが異常だとわかりました。

例えば、日本の女性の労働参加率は高まりましたが、彼女たちは低賃金に設定されていることが多く、結果として全体の平均賃金は下がっています。
しかし、日本以外の先進国では、女性の労働参加率があがるほど、男女間の給料格差が小さくなっています。
2021年の女性の給料の中央値は、日本:男性の55.4%、アメリカ:男性の83.1%でした。


⑤ イノベーションが付加価値を高める

「新しい考え・やり方を取り入れる→新しい価値を生み出す→社会に大きな変革をもたらす」
この一連の流れが、イノベーションです。収益拡大や維持、生産性アップ、市場独占などを実現できる手段です。
イノベーションを起こせる企業は、積極的に市場開拓し、閉鎖的なローカルルールを排除しています。
日本以外の先進国は、日常的にイノベーションを起こし、日本の+1%/年の賃上げを実現してきました。
微差が、大差を生み出しているのです。


⑥ 中堅企業はバランスが良い

世界共通で、大企業ほど生産性が高くなり、企業規模が小さくなると生産性は低くなります。
なぜなら、大企業のほうが分業制の傾向があるため専門性が高く、仕事の質が上がりやすいからです。
また、社員数が多いと、売上も大きくなり、その一部をプールして様々なことが可能になります。
規模の大きさは、労働環境の向上、多様性を受け入れられやすいこと、輸出できることにもつながります。
いずれにせよ、あくまでも能力ではなく「規模」の差が、生産性の差を生んでいます。

意思決定のスピード、待遇のバランスがとれているという意味で、筆者が勧めているのは中堅企業です。
例えばドイツでは、大企業よりも中堅企業(※)を強化する政策がなされ、その層が最も厚いです。
結果、生産性が高い・輸出大国・技術大国となっています。
※ドイツの中堅企業=平均99.6人、EUの中堅企業の定義=50~250人

***

今後取り組むことは以下の通りです。

  1. 気になる会社が「設備投資」「人材投資」「研究開発費」にお金をかけているか確認しておく。
    この3つの指標は、イノベーションを起こせる環境か否かを決定する。

  2. 自社の顧客は増えるのか、減るのか、確認しておく。
    減るのなら、新たな顧客や市場の開拓などを提案し、経営戦略について経営者とともに考える。

  3. 規模と投資額に注目して、企業を選ぶ

  4. 経営戦略が、慎重になりすぎていないか?挑戦しているか?実際に成長しているか?成長スピードが鈍化していないか?を確認する。

  5. ニュースに触れるときは、本書巻末の"俗説"と照らし合わせる。 


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