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続・初めて親指立てた日

 下向いて ロックな彼が 差し出すは
    開いたノート ナニ この展開


 久しぶりに 車椅子ロックな彼と会いました。彼がオモテに姿を見せるのは、デイサービスか共同作業所のお迎えを待つ、そのわずかな時間なので、至近距離で会うことは意外に少ないんです。

 今日は、どんぴしゃ。

 遠目に、彼がいることには気がつきました。でも、こないだあんな話を書いたので、意識してしまって顔が合わせにくい……。

 いや、あれから一回、会ってたんです。でも、その時には、少し距離があったということもあるんですが、向こうが下を向いた。避けられたかも、という感じがあった。

 今日は、しかし、ずいぶん距離があるのに、こっちを見ている感じ。ただ、こっちは遠視の裸眼なのではっきりしない。

 しかし、こっちがよそよそしい態度をとるわけにもいかず、思い切って少し離れたところから挨拶して接近。

 すると、満面の笑み。

 前回、ニヤリとしか笑わないと書きましたが、名誉毀損で訴えられそうなくらい、素直な好青年の笑顔。

 で、彼、開いたノートを持っていたのですが、そのノートをそっと差し出すではありませんか。

 なんなの、その展開!? もしかして、両想い!?

 などと、内心、どきまぎしつつ、ノートに目をやるも

 なにしろ裸眼なので、読めない……

 これがまた空気を微妙にするわけです。
 どう、リアクションしていいかわからないんですが、それはそれで、戸惑ってるとか、考え込んでるような格好になりますから。

 必死で文字に焦点を合わして、なんとか、それが愛の告白でないことはわかりました。連絡帳だったのです。そのデイサービスか共同作業所の。
 文字は読めなかったんですが、デイサービスやってた経験がそんなところで生きたという。

 でも、うれしいですよね。彼が心を開いてくれたということですから。少しでも読めれば、もっと手がかりが得られたと思うんですが、まあ、こっちはいろいろ考えてしまうタイプなんで、少しずつがいいでしょう。

 彼の身体を、くしゃくしゃに撫ぜてあげました。

 でも、両足、萎えてました……。
 片麻痺ではなかった。それでは、たとえ両手が使えても、車椅子の乗り降りやトイレも、ひとりではできないかもしれない。

 お母さんには、お出かけは毎日ですか? とそれだけ尋ねました。病名というのか 障がいのことは尋ねず。
 これまでのお母さんの印象は、こわい感じでしたが、今日は自然な感じ。警戒感を解いてもらえたかも。目元がね、細く切れ長で息子さんとそっくり。

 あ、それと彼の口からは、言葉がひと言も出なかった。発語だけの問題か、文字は読めるのか、主たるコミュニケーションは何でとっているのか、探っていかないといけません。 マンガは、無理かなあ。

 今回も、別れ際、親指立てて突き出しました。
 彼も、しっかり返してくれました。

 ただ、その瞬間、わたしの頭の中にはドナルドの姿が、

 親指を立てて 気取って見たものの 
   向こうはロック 我はトランプ



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