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茶色のシマウマ、世界を変える

私の学校は非常に多くの帰国子女や国内インターナショナルスクールに通っていた生徒、そして外国籍やミックスの生徒を受け入れております。(学年によっては30%を超えてます)そして外国人の教員は約30名勤めております。私はそんな学校でグローバル教育の責任者を務めさせていただいているのですが、私が注目している学校の一つが軽井沢にあるInternational School of Asia Karuizawa(ISAK:アイサックと呼びます)です。

そのISAKのファウンダーである小林りんさんの学校設立までの奇跡を描いたのが本書になります。以下AMAZONから引用します。

日本の学校で自分が異質であると感じていた少女が、高校を中退して全額奨学金を得て留学。しかし、数十カ国から高校生が集まる多様な環境で彼女を待っていたのは、大きな挫折と、圧倒的な世界の教育格差だった。自分のアイデンティティを模索しながら必死でもがき、紆余曲折を経て、ついに日本初の「チェンジメーカーを育てる全寮制国際高校」をつくる夢に出会った、小林りん。いまやマスメディアでも注目を集める小林が、誰もがあきらめるような厚い壁に次々とぶつかりながらも、多くの人を巻き込み助けられ、ISAK設立を実現するまでの軌跡を、ベストセラー『奇跡のリンゴ』の著者・石川拓治がドラマチックに描いたノンフィクション。
読者には、本書を通して見てもらいたい。「教育を通じて世界を変えたい」という小林の志。その原点と戦略。その行動力。仲間を巻き込むパワー。100名近くのボランティアだけでなく、小林の情熱に突き動かされた何人もの著名人が学校設立を支援した。本書は、2014年8月に開校したインターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)のプロジェクトの軌跡を追った、上質のドキュメンタリーである。

ちなみに、タイトルの「茶色のシマウマ」というのは、こんなストーリーから来ています。

茶色の縞模様のシマウマが群れの中にいたとして、そのシマウマは自分だけ他のシマウマと異なることに気づき、その群れを離れます。自分の居場所を探して、他の動物の群れに混ざり、他の動物と付き合えば付き合うほど茶色のシマウマは自分がシマウマだったことを思い出します。

つまり、外国で暮らすことで自分のアイデンティティに気づくという逸話ですが、これは小林さんだけではなく自分も含めて海外で暮らしたことのある人ならみんな経験することではないでしょうか。私の場合、若い頃日本での生活が窮屈に感じ、海外で暮らすことを夢見ていたのですが、実際に暮らしてみると日本という国を客観的に見ることができるようになり、今まで気づかなかった日本のすばらしさを痛感するようになりました。海外で暮らすか、日本に戻るかという選択肢があった中で日本を選んだのは、まさに「茶色のシマウマが自分の下の群れに戻った」というところでしょうか。

話がそれましたが、ISAKは2014年8月に創設された日本ではこれまでに存在しなかった学校です。他の学校と異なる点としては、

①生徒は日本国内だけでなく、アジア圏を中心に世界中から募集する

②生徒は全員寮生活をする

③授業は原則として英語で行う

この3つの条件をクリアしながらも、学校教育法の第一条に基づく正式な学校(俗にいう「一条校」)であることが大きな特徴です。

小林さんは高校時代に日本を飛び出てカナダの全寮制の学校(ピアソン・カレッジ)に入学、そして卒業するのですが、在学中に友人の母国であるメキシコにしばらく滞在する機会を得ます。その滞在中にメキシコが抱える貧困問題や教育格差の問題に触れ、世界に蔓延るこれらの社会問題を解決することを自分の使命だと思うようになります。

その後日本に帰国し、東大に入学。卒業後モルガン・スタンレーに就職。これだけ見ると「あぁ、超秀才のスーパーエリートね」と思ってしまうかもしれませんが、高校に在学中から山り谷あり、苦難の連続だったのは本書を読んでいてよくわかります。溢れんばかりの才能と確固たる信念があるゆえに様々な問題にぶつかりますが、『ブルトーザー』と形容されるように、揺るがない信念と圧倒的な行動力で目の前にある壁をぶち壊しながら小林さんは前進してきます。

2005年にはモルガン・スタンレーを辞め、当時無名のベンチャー企業へ。そこでもやるべきことをやりつくした後2003年には国際協力銀行、2006年には国連児童基金(ユニセフ)に勤務し、自分の使命を果たすために身を粉にして仕事に取り組んでいきます。ユニセフではフィリピン支部に配属され、現地で貧困に喘ぐ人々を救済することをミッションとし、現地の財界、政界、NGOなどとも連携しながら社会を変えていく努力をされます。しかしながら、貧困問題の根は深く、社会構造をがらりと変えなければ解決しないような現実に何度もぶつかり、問題を根本的に解決することの難しさを痛感します。そんな自分のアイデンティティが揺らぎ始めた時に友人である谷家衛氏から「僕は君にもっとふさわしい仕事があるような気がする」と言われ、一緒に学校を作ることを提案されます。学校と行っても普通の学校ではなく、「アジアの貧困層にも門戸を開いたインターナショナルスクール」を日本に作りたいということで、小林さんはついに全力疾走できる仕事に巡り合ったことになります。

そこから小林さんはいろいろな人を巻き込みながら、そのパッションで多くの人の心を動かし、並外れた行動力で多くの問題をクリアしていき、実現不可能と思われた日本で唯一の学校づくりは7年の準備を経て実を結びます。(その間小林さんは無給でこの仕事に取り組みました)もちろん順風満帆に物事が進んだわけではなくて、数々の苦難がありました。

当初目途が立っていた設立資金はリーマンショックで消え、寄付金集めに奔走しなければならず、ようやく設立の目途が立ってきたころには東日本大震災が起こり、海外から生徒を招致することに暗雲が立ち込めたりしました。当然と言えば当然ですが、一から学校を作る、ましてや日本に存在しないような学校を作るというのはものすごい労力を必要とするものであり、これは小林さんじゃなければできなかったことだと思います。

以上が本書のあらすじであり、ISAK設立までの経緯になりますが、ここからは個人的な感想を記していきたいと思います。

多様性

冒頭に書いたように、私の学校もかなりグローバルな環境があり、私はその環境を先頭に立って作ってきました。その一番の理由は日本の教育には『多様性』が著しく欠如しており、多様性を取り入れることで子どもたちの可能性を引き出したいと思っているからです。日本ではこれまで非常に画一的、均質的な教育が重視され、子どもたちの個性を尊重し、可能性を引き出すことを軽視されてきました。しかしながら、時代は21世紀に入り、世界はガラッと変わりました。第4次産業革命が起こり、グローバル化が恐ろしいスピードで進む世界の中で、教育も変わらなければいけません。教育に多様性を取り入れることで子どもたちの間に化学反応を起こし、彼らの世界観と可能性を広げることは必須だと考えます。本書でも『多様性こそが人類の進歩と発展の原動力なのだ。歴史上飛躍的な発展を遂げるのは、例外なく多種多様な文化や人種の流入があった国だ』と書かれています。

今はコロナの影響でできていませんが、これまではドイツ、イタリア、スウェーデン、ニュージーランドなどの国から留学生の受け入れも行ってきました。これも学内に多様性をもたらすためです。

ISAKの足元にも及びませんが、これからも多様性を追求していくつもりです。

パッションとアクション

上述の通り、小林さんは様々な困難を乗り越え、ISAKという日本に例を見ない学校の創設を実現したのですが、この不可能とも思えるミッションを遂行できたのは、やはり小林さんの「世界を変えるリーダーを育成する」という並々ならぬ情熱とその想いに支えられた行動の数々だった思います。

実際に何か物事をなしえたいと思ったときにリーダーに必要なのはこの2つだと思っています。人は一人では生きられないため、周りの人たちと一緒に協力していかなくてはなりません。その際に人を動かすのは、データや明確な論拠だけではなく、やはり熱い想いとその情熱に裏付けされた行動が必要です。そこから『ストーリー』が生まれ、共感を呼び、多くの人がともに戦ってくれると思うのです。

ヴィジョン

小林さんはご自身の経験より、「教育の力で世界を変えたい」「世界を変えるリーダー(チェンジ・メーカー)を作りたい」という思いに駆られて学校を作りましたが、小林さんの1/10000くらいのスケールかもしれませんが、私も全く同じ思いを持って日々教育活動に臨んでいます。

このnoteでも何度も書いている通り、私はまず自分の学校を日本一(日本で唯一無二)の学校にしたいと思っており、日本の教育に風穴を開けたいと本気で思っています。(ISAKとの違いとしては、海外の教育と日本の教育の高次元のハイブリッド校であるという点です)

今では全国の教育関係者に名前を知っていただけるようになってきており、手ごたえも感じてはいますが、目標まではまだまだ道半ばです。これからも生徒たちの可能性を最大限引き出せるような環境を作り、社会を良くするチェンジ・メーカーを一人でも多く育てていきたいと思っています。

今回小林りんさんが辿った道のりを知り、とても勇気をもらいました。今まで国内外の多くの学校を見てきましたが、また一つ目標にしたい学校が増えました。新学期も始まったので、また頑張っていきたいと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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