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書評 『お父さんのラッパばなし』(作 瀬田貞二 ・ 絵堀内誠一 ・ 福音館書店)


「お父さんのラッパばなし」(作・瀬田貞二、絵・堀内誠一、福音館書店)
 40歳のお父さんは、いつも子ども達にせがまれて、ラッパ(ほら)話をします。子ども達は、お父さんのラッパが大好き。この本のなかには、お父さんが子ども達に話しながらふくらませていった、ゆかいな1...4のお話がつまっています。
 私も娘にお話をします。こう言うと、たいてい「いいお父さんですね」とほめられます。でも、実は、自分が一番楽しんでいます。
 やったことがない方は、ためしに子どもにお話をしてみてください。話しているうちに、不思議と楽しくなってきます。それは、子どもの想像力のせいです。
 子どもの想像力の凄いところは、どんな世界にでもすっと入れることです。話し手が親なら、どんなに下手な話をしたって、子どもはその世界に入り込んでくれます。すると話し手は、気分がよくなります。受けのいい客を前にした芸人は、きっとこんな気持ちなんでしょう。
 さて、そうすると、こっちのサービス精神はむくむくとわいてきます。子どもをなんとか笑わせたい、ドキドキさせたい。それだけではありません。子どもが入ってくるのだから、ちゃんとした世界をつくらなければと思います。美しく、良い行いは報われ、明日が楽しみな世界。
 ラッパばなしのお父さんも、お話をしているうちにこんな気持ちになっていくのが、読んでいてよくわかります。なかでも、私は富士山の鳥よせのお話が大好きです。
 子どものころ、富士山のすそ野に暮らしていたお父さん。弥三郎というおじさんに鳥の鳴きまねを53通りも教わって、森いっぱいにあらゆる鳥を呼びよせられるようになります。そして、ある日、54番目の鳴きまねで、とうとう金色に輝く鳳凰まで呼びよせてしまうのです。
 この本を読むと、お父さんにお話をしてもらっている気持ちになります。大人になると、お話をしてもらう機会はなかなかありません。本を開いて、久しぶりに、お父さんのお話に耳を傾けてみてはいかがでしょうか。

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