中学校で映像制作ワークショップをやってみた
先日、板橋区の中学校で映像制作ワークショップをやってみた。
生徒たちに機材を触ってもらいながら、映像制作のお仕事への理解を深めてもらおう、というのが趣旨だ。
「どんなワークショップの内容だったのか知りたい!」
というニッチな需要にお応えすべく、内容をかいつまんで紹介しよう。
1限目:映像ってどんなふうにつくるの?
はじめはアイスブレイク的に、みんなが普段、どんな動画を観ているのか尋ねるところから始める。
その後、いくつかの動画を観てもらったうえで、たいていはこの3つの手順でつくられることを解説。
そして上記手順に沿って具体例をもって紹介。
まず1本、制作した30秒のCMを上映する。
映像を観た後でその裏側(メイキング)を紹介。たとえば塾のシチュエーションをつくるために、スタジオにパーテーションを搬入したり、
窓の外をグリーンバックで覆ったり。
こうすることで、窓の外の景色をCGで表現できるんだよ〜という感じで。
正直、ここまでは、生徒からの大きな反響はない。これは想定範囲内だ。寝てる生徒が一人もいないだけで合格点をあげたほうがいい。いうなれば、ここまではフリの時間だ。
2限目:即興ドラマをつくってみよう!
さて、いよいよ、体験コーナーの始まり。この辺りで少しずつエンジンをふかしていく。
1限目で教えたつくり方の手順に沿って、実際に即興ドラマをみんなでつくるコーナー。
こちらでタイトル絵もシナリオも用意。
ある程度、フォーマットを用意して、一部だけ生徒たちに即興でやってもらうのがミソだ。こうすることで参加へのハードルを下げつつも、生徒たちに創造性の余白を残す。
そして編集する時間はないので「3カメで同時に撮影しながら、スイッチャーでライブ編集をする」という、アクロバティックな企画を実施。もちろん、このスイッチングも生徒にやってもらう。
この時点ですでに教室の空気がにわかに活気づいてくる。
機材を紹介しながら、キャスト役、スタッフ役もその場で希望者を募る。
クラスのノリが悪くて誰も手が挙がらなければ地獄絵図だが、幸いにして、今回の生徒さんたちはとてもやる気に満ちていた。(誰も手があがらない場合に備えて、先生にも協力してもらうよう根回ししておくことが大事だ)
役割が決まったところで、今度はドラマで使用するBGMを決める。これもある程度、タイプの違う3曲を用意しておいて多数決で決める。
結構、これが盛り上がる。このクラスは満場一致で3曲目が選ばれた。どのタイミングで入れ、どのボリュームで調整するかは、音声ミキサー役を選んだ生徒にゆだねる。
そして、それぞれが配置について、段取りを確認し、収録スタート。リハーサルのない一発勝負。そう人生と同じだ。
ただし「人生にリハーサルはない」みたいなことを誤って口にしてはいけない。せっかく高まった生徒の熱気を、一瞬にして氷点下まで下げる。説教じみたことは口が裂けても言ってはいけない。
ここからは全員が集中して、真剣勝負。カットがかかると、自然と大きな拍手が湧き起こる。できあがったものをみんなでレビュー。この辺りからは大きな笑いが次々に生まれ、もはやコンテンツがこちらの手を離れて、生徒同士が賑わい始める。
そして、今度はさらにレベルアップした企画を生徒たちにぶつける。このタイトル絵が出た瞬間に大盛り上がり。一気にエンジン全開へ。
今度は絵コンテを配布。生徒に真剣にやってもらうためには、こちらも真剣勝負で準備しなければならない。こういうのは、こちらの気迫が伝わるものだ。
より演技力、カメラワーク、マイクさばき、スイッチング力が求められるから、生徒たちは一段と気合いが入る。すると残り時間が少し余裕ありそうなので、一度、リハーサルをやることに。
そうだ、やっぱり、人生にリハーサルはあっていい。むしろ、あったほうがいい。「人生にリハーサルはない」なんて言わなくて本当によかった。
すると、リハーサルテイクを観た生徒たちが、自らどんどんアイデアや意見を出し合っていくではないか!
「このタイミングでこういう演技するから、
こういうリアクションを返してくれよ!」
「このシーンはこの角度からカメラを構えてほしい、俺のリアクション撮り逃さないで!」
「リハーサルだと、マイクが見切れてたから、もうちょっと立ち位置を変えてもいい?」
こんな具合に生徒同士で、どうすればより面白くなるのかコミュニケーションを取り合っていく。
その姿がなんだかすごく楽しそうで頼もしかった。
そう、たぶん、これが僕が一番伝えたかったことだ。
映像は1人でもつくれるものだけど、
みんなでアイデアを出しあうことで、
創造力は何倍にも膨れ上がる。
僕が何も言わなくても、生徒自らがそれを実践していて、それがたまらなく嬉しくて感動しっぱなしだった。
3限目:なぜ映像制作の仕事を選んだの?
ワークショップがひと段落したところで、参加してくれた4名のスタッフが、それぞれ「なぜ映像制作の仕事を選んだのか」を話した。
これについては、生徒たちも真剣なまなざしで聴いていた。後から質問も相次いでよかったが、一番、感動したのは僕自身だったかもしれない。
普段一緒に仕事する仲間たちが仕事への思いを中学生の前で語る姿はとてもかっこよく、そして、キラキラしていた。みんな話がとてもうまかった。
そして、最後にまとめ。
映像制作の仕事で大切な3つのこと。
これは、何も映像制作にとどまる話ではない。
今は予測不可能なVUCAの時代。
正解があるようで、ない時代。
だからこそ、アイデアを出すこと、その中で自分なりの最善を取捨選択すること。そのうえで、みんなで正解をつくりあげることの大切さを説いた。
正直、この資料をつくりながら、「むふふ、なかなか上手いまとめ方じゃないか」とほくそ笑んでいた。しかし、実際、話してみると、生徒からの反応は一切ない。ノーリアクション。メモひとつ取ろうとしない。
しまった、やってしまった・・。
あの2限目で見せた圧倒的な熱気と盛り上がりのかけらがどこにもない。「この人、良いこと言うなぁ」という羨望の眼差しもない。
そうだ、こういうワークショップでは説教的なことは言うべきではなかったのではないか。それをかなり意識してきたはずではなかったか。
今思うと、正直、先生にも褒められたかった自分がいた。「素晴らしいまとめをしてくださってありがとうございます」的なやつ。こういうのは必ず生徒に伝わってしまう。しかし、もう言ってしまった以上、後にはひけない。
後悔先に立たず。
そうだ、やっぱり、人生にリハーサルなんてないのだ。
終了後:生徒たちからの感想
また、後日、生徒たちのアンケートを共有いただきました。
とても素敵なコメントをたくさんいただき、嬉しいです。
生徒の皆さんのこれからが楽しみです。
(一部だけ抜粋して紹介させていただきます)
追伸:
最後までお読みいただき、ありがとうございました。もし、あなたがいつか、映像制作ワークショップをやる際には、どうぞ参考にしてください。