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Low VisionでiPad--もしかしたら役立つかもしれない小道具達--

筆者は浜松の「ウイズかじまち」という訓練施設でロービジョン者のICT訓練に関わることがある。ipadは見えにくさを飛び越えて楽しいこと便利なことを運ぶツールとして人気が高い。ところが操作技術は簡単なようでいて、ロービジョンゆえの難しさ、年齢ゆえの難しさも存在する。

指導役は、これを使って〇〇をするんだ!というご本人の意気込みが、その操作の壁によって萎えてしまうのは極力見たくない。その前に不要な失敗体験を防ぐtipsがあるなら些細なことでも知りたいと思うものである。

アクセシビリティ設定の選択、アプリの選択、習得内容の順番、などそれぞれにtipsはありそうで、蓄積していきたいと切に思う。SNSもそんな視点でアンテナを張っているが「ロービジョン」に特化した"まとめ"はなかなか出会いにくいので、関係者それぞれが経験したことを小出しにでも共有する必要を感じている。

そんな訳で、私の僅かな経験の中で得た発見、今回はipadと併用して(一時的でも)ユーザに好評であった小物たちについて、ここにまとめようと思う。くれぐれも、ロービジョン全員に役立つものではない。役立つ可能性のある小物たちである。

書見台

ロービジョンの場合、拡大表示が役立つことが多いので大きめのタブレットを選択することも多い。ところが12.9inchを手で支えながら使うのは重い。さらに少しでも拡大して見たい場合は、モニタに接近して読み書きをする。つまり、モニタが顔の前に斜めに立ってくれていること、そして多少体重がかかっても動かないことにありがたさを感じる。書見台と言われるipadを支える道具が役立つことがある。

もともとは視覚特別支援学校などで教材をマグネットでとめながら読み書きする学習用の道具として使われている書見台。流用してipadを張り付けてみると、高さも自由に変えられ、接近視もしやすい。それにapple pencilもなくなりにくい、と利点がたくさん見つかった。
縦書き文章や楽譜を見る時は横置きがいい、ページ全体のレイアウトを確認するときは縦置きがいい、等々見る内容によって最適な配置方向は違う。縦置きにも横置きにも自在に変えられて、しかも安定しているスタンドは使い勝手がいい。12.9inch用のものはそれほど多くはないのでネット購入の際は要注意。

もちろん「それほど接近しないで使う」「書字はせず読むだけ」「持ち運んで使いたい」の用途であれば、ipadカバー(斜め置きができるもの)、文具店のスタンドも役立つ。

これは文具店で販売している2000円程度のもの。立てかけるだけのスタンドであれば百円均一店でも見つけられるかもしれない。

(意外と)ルーペ

OSのアクセシビリティーにはズーム機能がある。だからこそipadというデジタル機器を使おうとしている訳だが、アナログな生活から急にipadを持つようになったミドルエイジ以降の方々にとっては、頻繁に3本指タップやピンチアウト/インで拡大率を変える操作をすることに躊躇される場合がある。ダブルタップが失敗する恐怖、理解していたレイアウトが崩れることに対する恐怖、ズーム機能を使うはずが要らぬところを触ったおかげで知らないページ表示になった時のもう元にもどれないじゃないかと感じる恐怖、などが見え隠れする。"想定外な表示になっても自分で復帰できる自信"が手に入れば、そんな恐怖はなくなるはずだが、そこに行き着くまでは、3本指のトントンのジェスチャーも、直前に「いきます」の掛け声が聞こえてきそうな緊張感が伝わる。そんな時は、部分的にアナログな拡大を取り入れるのが好まれることがあった。本末転倒ではなく、高みに行くまでの転ばぬ杖としての小道具、ルーペである。

部分的な文字の確認は拡大鏡を使うようにすると、画面のどこに何が書いてあるという理解を崩さなくてもいいし、想定外の(例えば広告)ページに飛んでしまうことはない。

タブレット用手袋

知らず知らずに画面内のリンク部分に手が触れて、思いもよらない画面になってしまうことは誰でも経験がある。LINEアプリでは、左側のリストに触れてトーク先が変わってしまったり、ネットニュースの続きをみようとしたら広告画面に飛んでいたりである。画面の隅々まで一瞬にして見てとれれば、画面が変わってしまったことも、わざと薄く書かれたクローズボタンや戻るボタンを探すことも容易にできるが、ロービジョン状態だとそうはいかない。画面変化に気づくまでにも、その原因を理解するのにも、復帰の方法を探るのにも、大仕事なのである。ことにipad初心者にとっては、このアクシデントは心理的にも大きな影響を持ち、それまで高らかに持っていた"これから楽しいことが起こるぞ!"という高揚感は一気に下がる。ICT訓練の指導者の立場であれば、これは本人より傷つく。祈る気持ちさえ生まれる。

この事態を生みやすいのは、接近視のために顔も手も画面に近い使い方をしている場合、まだ不慣れで手のジェスチャーがややオーバーアクションになりがちな場合、タスクでいえば書字時、拡大鏡使用時などが危ない。怖い怖い。

不要な広告が出にくいアプリを使ったり、ジェスチャーのこつを伝授したりが常套手段であるが、いい小道具も見つかった。プロのイラストレータの方々が使うという手袋である。本人より指導者が喜ぶ小物ともいえる。

タブレット用手袋は数百円のものから値の張るものまで様々販売されている。写真の手袋は右手左手兼用の1枚数百のもの。安心手袋と呼びたい。

外付けキーボード

限られた広さの画面の中で拡大表示をしている時、その一部が文字入力用のキーボードで占領されてしまうと、コンテンツの情報量はさらに減ってしまう。それに、SNS投稿やLINEメッセージでも少し長めの文章を編集しようとした時、拡大文字を自動に行送りできるエディタアプリを一時的に使うことがある。長文の中で「選択」「コピー(カット)&ペースト」など編集作業をするときはさらに文章表示に画面を使いたいのである。

そんなときに外付けキーボードは活躍する。タイピング技術の習得は必要だが、過去に少しでも経験のある方の実用化は速い。練習アプリでいいものはないか模索中だが、TypingLandは文字も大きめで使いやすい。操作に不慣れなロービジョン状態でも使いやすかった。

視点を一度移動させると、復帰にもまた時間がかかり効率が下がるし疲労も上がる。そのため、画面とキーボードの行き来は極力少なくするために、キーボードはできるだけ触覚だけで操作することを目指す。そのためにキーボードへのシール(立体・特有触感)貼りは必須である。が、貼りすぎには注意したい。また、サードパーティのBluetooth接続のキーボードは接続先のOSが何か指定し直さなければならない場合がある。単独で対応ができるよう初期にその説明と練習を忘れないようにしたい。

外付けキーボードのショートカット経由でアプリの操作も可能であり、人によってはこの利用も選択肢の一つになる。

外付けキーボードは、純正のipadカバーも兼ねられるものもあるし、写真のようなPCにも接続可能な単独キーボードもある。できるだけモニタから視線を動かさないで入力ができるように位置確認はキーに貼ったシールで確認できると良い。粘着性の高さは重要で、家具の保護材用クッションシール、釣り具ルアー目玉用のアイシールは好評である。突起の高さはさほど重要ではなく、100円ショップなどのシールで触感がザラザラつるつるのものも使い勝手が良い。

外付けカメラ

ipadのカメラ機能で遠方のものを拡大視する方法はよく知られている。しかし本人がipadの画像を見たい位置とipadカメラで対象物を写したい位置が一致しない場合、不都合が生じる。例えばミシンの針のあたりを拡大しながら縫い進めたいのに、目を近づけるほど近くには寄れず、ipadカメラを構えるのには作業中の布が邪魔になる、といった場合である。そのような時は外部カメラを使って、そこからの映像をipadに取り込む方法を試してみると良い。水道管やエアコン修理用に開発されたカメラはカメラ自体が小型で設置場所を問わず、wifi環境も不要で簡単にipadに映像を映し出すことができる。

簡単に接続できる外部カメラの一例(amazonホームページより)
小型の外部カメラを使って、ipadに針付近の拡大像を写しながらミシンを操作できる。作業をする自分の視線の方向とカメラの設置方向を一致させることができるのがありがたい。

譜めくりペダル

特に楽譜をipad表示して見ようという場合、楽譜を拡大して使用しているほどページめくりは頻回になる。その度に楽器から手を離すのは楽曲自体を楽しめない本末転倒の結果を生んでしまう。

そんなときは、フットペダルを利用すると良い。足でボタンを押してページを進めていくのである。順行・逆行と二つ以上のメインボタンが用意されているので、そのボタンの間の距離、ボタンの硬さが自分にあっているものを選ぶ。使うときは、ペダル自体が滑らないように滑り止めシートなどを併用すると良い場合がある。

電子図書のページめくりにも使える場合もあるが、すべてのアプリでというわけではないので注意したい。
amazon譜めくりペダルのページ

文:田中恵津子

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