#16 Treaty no.3 世界法廷で国家を裁く。【国際司法裁判所規程(ICJ規程)】
本noteは、上記Podcastの台本を多少編集して、掲載したものとなります。
是非Spotify等でPodcastをご視聴ください。
台本ですので、喋っている内容をすべて網羅しているわけではありません。
一方で、番組では扱いきれなかった内容も掲載していることが多いので、是非このnoteも読んでいただければ幸いです。
【導入】
条約を「ほぼ」丸ごと読んでみる回 国際司法裁判所規程編!
毎度ですが、国際法の代表的な存在形式である「条約」、これって何でしたっけ?
ざっくりいうと、「国と国の約束」ですね。
#4と#5で、条約を「ほぼ」丸ごと読んでみる回 国連憲章編をやりましたが、このシリーズの二つ目ということで、今回は通称「世界法廷」とされる国際司法裁判所で、国家を裁く上でのルールである、国際司法裁判所規程をみていきます。
というのも、#6と#7でコルフ海峡事件を扱ったように、今後も判例、特に国際司法裁判所(ICJ)の判例を継続的に扱っていきたいので、その前提となるルールを確認したいと思っています。
【挨拶】
国際法について語るPodcast、「東京都ハーグ区」へようこそ。
国際法学徒のひろとです。
〈聞き手の木村です。〉
【国際司法裁判所規程の基礎データ】
今回扱う国際司法裁判所規程とは、国際司法裁判所=ICJ(International Court of Justice)という国際的な裁判所を運営する上でのルールだと理解していただいてOKです。
歴史的には、国際連合の前身である国際連盟期に存在した国際的な裁判所である常設国際司法裁判所(PCIJ=Permanent Court of International Justice)を引き継いだ存在です。そして、第二次世界大戦を経て国際連合が設立され、それとともにICJが設立されました。
そのため、国際司法裁判所規程は、国連憲章と同じく1945年6月26日にサンフランシスコにて採択され、1945年10月24日に効力が発生しており、現当事国も国連憲章と同じく193か国です。
そんな国際司法裁判所規程は、全5章(計70条)で、構成は以下の通りです。
構成
第1条
第1章:裁判所の構成(第2~33条)
第2章:裁判所の管轄(第34~38条)
第3章:手続(第39~64条)
第4章:勧告的意見(第65~68条)
第5章:改正(第69~70条)
【国際司法裁判所規程(ICJ規程)の内容】
以上の、全70条から重要なものをピックアップして、国際司法裁判所規程の中身を順に理解していきます。
~第1条~
本条は、国際司法裁判所の立ち位置を、以下のように示しています。
(規程:一定の目的のために定められた一連の条項の総体(精選版日本国語大辞典))
(規定:条文、条項(精選版日本国語大辞典))
ここで参照されている国連憲章ですが、国連憲章第92条は、#4~5でも確認した通り、以下のように定めており、ここから、国連と国際司法裁判所は切り離せない関係にあることが分かります。
~第1章:裁判所の構成(第2~33条)~
第2条~第21条では、裁判官について定めています。
まず、第2条と第3条が以下のように大枠を定義しています。
以上のような、国際司法裁判所(ICJ)の判事には、日本人も何度か含まれています。
以下が現在までの4名です。
・田中耕太郎(たなかこうたろう)(1890~1974)
1950~1960:第2代最高裁判所長官
1961~1970:ICJ判事
・小田滋(おだしげる)(1924~)
東北大名誉教授
1976~2003:ICJ判事(→1991~1994:副所長)
・小和田恆(おわだひさし)(1932~)
皇后雅子の父親、1991~1993:外務事務次官
2003~2018:ICJ判事(→2009~2012:第22代所長)
・岩沢雄司(いわさわゆうじ)(1954~)
東大名誉教授
2018~:ICJ判事
国際司法裁判所規程(ICJ規程)第2条に照らすと、最高裁判所長官と大学教授は自然ですが、なぜ元外務事務次官が含まれるのかというと、日本における「各自の国で最高の司法官に任ぜられるのに必要な資格を有する者」に該当するからです。日本の裁判所法には、以下のように定められています。
そのため、計15名いる日本の最高裁判所判事のうち、5名は上記の1~6に該当しなくてもよいということです。
なお、1970年代以降は概ね、裁判官出身6人、弁護士出身4人、検察官出身2人、行政官出身2人、法学者出身1人となっており、この行政官に外務事務次官も含まれるということです。
続いて、第4条~第12条がその選定について定めています。
まず、常設仲裁裁判所については、国際紛争平和的処理条約において、以下のように定められています。
そして、その国別裁判官団については、同じく国際紛争平和的処理条約において、以下のように定められています。
収録日2024年4月6日現在、日本からの国別裁判官団名簿には以下の2名が登録されています。
・柳井俊二(やないしゅんじ)(1937~)
1997~1999:外務事務次官
2005~2023:国際海洋法裁判所(ITLOS)判事(→2011~2014:所長)
・御巫智洋(みかなぎともひろ)(1967~)
2022~:外務省国際法局長
第5条~第7条で、テクニカルな裁判官候補者名簿が出来上がるまでの流れがあり、第8条及び第10条にて、選挙の流れが以下のように定められています。なお、第10条第2項の規定に従って、本選挙において拒否権は適用されないと理解されています。
(第9条:選挙における心構え)
(第11条~第12条:選挙を経てもなお空席がある場合の対応)
続いて、第13条は裁判官の任期について、以下のように定めています。なお、最長記録は日本人の小田滋判事で、3期27年です。
(第14条:補欠選挙)
(第15条:補欠裁判官の任期)
(第16条~第17条:裁判官の任期中の義務)
(第18条:解任)
(第19条:外交特権)
(第20条:宣誓)
以上の規定に基づいて選ばれた裁判官から、裁判所長と裁判次長が以下の第21条に従って決まります。
なお、収録日2024年4月6日現在、裁判所長はレバノン人(中東)のナワフ・ソルモン氏、副所長はウガンダ人(アフリカ内陸)のジュリア・セブチンデ氏です。
以上の第2条~第21条が、裁判官に関する規定です。
第1章の残り、つまり第22条~第33条は、その他の裁判所の構成要素について定めています。
まず、第22条は裁判所の所在地について以下のように定めています。ここでいうヘーグ(ハーグ)は、オランダの都市です。ここは、首都のアムステルダム、第2の都市ロッテルダムに続く、第3の都市です。
(第23条:裁判所の開廷時期と休暇時期)
(第24条:特定の事件の裁判に関する裁判官の回避)
(第25条:開廷に必要な裁判官)
(第26条~第28条:特別裁判部)
(第29条:簡易手続部)
加えて、第31条は「国籍裁判官」なるものについて、以下のように定めています。
(第32条:裁判官の給与)
(第33条:裁判所の費用)
~第2章:裁判所の管轄(第34~38条)~
本章では、裁判所の管轄、つまりどのような事件に対して、どのようにかかわる権利があるかについて定めています。
まず、第34条~第35条は人的管轄(ratione personae)、つまり裁判所が誰と関わる権利があるかについて、以下のように定めています。
一方で、第36条は事項的管轄(ratione materiae)、つまり裁判所がどのような事件に、どのように関わる権利があるかについて、以下のように定めています。なお、第2項にある宣言が、強制管轄受諾宣言(選択条項受諾宣言)と呼ばれるものです。また、第6項に基づいて、裁判所では本案判決の前に、管轄権に関する判決を下すことがあります。
強制管轄受諾宣言(選択条項受諾宣言)は、国際司法裁判所(ICJ)当事国の3分の1程度が行っていますが、安保理常任理事国で収録日2024年4月6日現在に行っているのは、イギリスのみです。
日本も強制管轄受諾宣言をしていますが、一部留保を付している、つまり強制管轄受諾宣言が適用されない内容も厳密に定めています。
その留保については以下の通りで、逆に言えば、この留保に該当しない内容の裁判に関しては、日本は裁判所の管轄が義務的でよいとしています。なお、(2)は狙い撃ち提訴/不意打ち提訴/抜き打ち提訴への対策として設けられており、(3)は南極海捕鯨事件での日本の敗訴を踏まえて設けられています。
なお「留保」とは、ウィーン条約法条約において、以下のように定められています。
(第27条:前身である常設国際司法裁判所に付託すべき紛争の扱い)
そして、第34条~第37条に基づいて、裁判所が関わることのできる事件に対して、適用される裁判基準が以下のように定められています。
~第3章:手続(第39~64条)~
本章では、裁判所の手続として、事件の提起から判決後までのことについて定めています。
まず、第39条にて以下のように、裁判所の公用語を定めています。
そして、第40条にて以下のように、事件の提起に関する流れを定めています。
続いて、第41条にて暫定措置という、事件の主たる審理に入る前に出すことのできる措置が設けられています。ただ、「暫定措置」という名称は、国連憲章第40条にある国連安保理による「暫定措置」と混同するため、日本では国際司法裁判所(ICJ)における「暫定措置」を「仮保全措置」と呼称することが一般的です。
この仮保全措置には、以下の五つの要件があると理解されています。
一応の管轄権
訴訟の主題を成す権利が少なくとも存在する見込み
権利と措置の関連
回復不能な侵害
緊急性
(第42条:代理人、補佐人、弁護人)
以上を踏まえて、裁判は本格的に審理に進んでいきます。
まず、裁判には書面手続と口頭手続があることが第43条から以下のように分かります。
なお、書面手続における申述書(メモリアル)は原告が提出し、答弁書(カウンターメモリアル)は被告が提出するもので、それ以降に必要となった原告による提出書面を抗弁書、被告による提出書面を再抗弁書と呼びます。
(第44条:代理人、補佐人、弁護人以外の者への通告)
そして、審理における核となる弁論等に関して、第45条~第54条に以下のように定められています。
(第47条:弁論調書)
(第48条:事件の進行)
(第49条:弁論開始前の書類の提出)
(第50条:取調と鑑定の嘱託)
(第51条:証人と鑑定人に対する質問)
(第52条:証拠と証言の受理)
(第53条:欠席裁判)
このような流れで進む裁判ですが、手続のその他の部分について第61条~第64条に以下のように定められています。特に、第61条は再審について、第62条~第63条は第三国の訴訟参加について定めています。
(第64条:訴訟費用)
~第4章:勧告的意見(第65~68条)~
第34条第1項にあるように、本裁判所の裁判における当事者は国のみに限定されていますが、裁判とは別に、「勧告的意見」であれば一部の国際組織による要請をもって出すことができることが、以下のように定められています。
また、第65条の規定が参照するものとして、国連憲章第96条も合わせて確認します。
(第66条:勧告的意見における手続の流れ)
(第68条:裁判手続の準用)
~第5章:改正(第69~70条)~
最後は、ほとんどの条約でおなじみの改正規定です。
また、第69条の規定が参照するものとして、国連憲章第108条も合わせて確認します。
(第70条:改正の提案)
【締め】
以上で、皆さんも「国際司法裁判所規程(ICJ規程)」という条約をほぼ丸ごと読んだに等しいでしょう!
では、今回も終わりにしたいと思います。
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では、また来週!
この番組は、「国際法」について、私が自由に勉強し、聞き手との対話を通して自由にアウトプットするPodcastです。喋り手の私は、研究者ではない点、ご了承ください。
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