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「別れ」 短編小説

壁から出てきた中年男

「お前には何もできない。
お前には何もできない…」と繰り返す
メガネの中年男。
夢なのか?これは現実なのか?


スーパーのレジ袋を持ち、慣れない帰路を歩いていると彼がこちらへにこにこ
微笑みながら向かってくる。

「醤油も油も買ったの?
重かったでしょ?来てよかった。
調味料って重いよな。」
祐くんはこの時間にここを通る私を
見越して助けにきてくれたのだ。
レジ袋を持ってもらい、私はその手を
そのまま彼の右手に繋ぐ。ごく自然に。

それが当たり前の日常だった。


祐くんは大学の先輩だった。
尊敬する憧れの先輩で、まさか告白
されるとは思っていなかった。
気持ちを打ち明けられた日には
嬉しくて嬉しくて家で飛び跳ねた。

同棲を始めたばかりだった。

祐くんは3ヶ月後に死んでしまった。
交通事故で病院に運ばれたという連絡をもらい急いで病院に行ったが
既に息を引き取った後だった。

別れは

信じられないほど突然だった。

あっけなく

私の大切な人は死んだ。


これからどう生きていこうか。
我を失い泣き続ける日々。
何もかもが分からない。壊れるこころ。


ふとあのメガネの中年男を思い出す。
「お前には何もできない」
何もできなかった。誰なの??

あれは夢だったのか?



END



大切な人を突然失う人がいる。
今日も明日も。失って泣く人がいる。

「別れ」があるから
今を尊く感じられる。


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