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「第3コーナー」を駆け抜けるには?|アートプロジェクトの運営をひらく、○○のことば

アートプロジェクトの運営にまつわる「ことば」を取り上げ、現場の運営を支えるために必要な視点を紹介する動画シリーズ「アートプロジェクトの運営をひらく、○○のことば。」から、「第3コーナー」を公開しました!

この動画では、東京アートポイント計画で、アートプロジェクトの中間支援に携わる専門スタッフ(プログラムオフィサー)が、『東京アートポイント計画が、アートプロジェクトを運営する「事務局」と話すときのことば。の本 <増補版>』(略して「ことば本」)から「ことば」を選んで、紹介しています。

2022年7月には、7本の動画を公開しましたが、今回の続編と合わせて14本の動画シリーズとなりました。この記事で取り上げる「第3コーナー」について、ことば本では以下のように書かれています。

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第3コーナー:準備と実施だけでは終われない 

プロジェクトの運営を競技場のトラック1周にたとえるならば、準備から実施までが、ちょうどトラック半周の第2コーナーといえるだろう。そして、第3コーナー以降は、記録や調査をもとに活動を振り返り、その成果を関係者へ報告し、検証・評価する段階である。プロジェクトを持続的に展開するためには、この第3コーナー以降が重要だ。

ブレインストーミング、企画、準備、実施、報告、検証・評価というプロジェクトマネジメントの流れをひとつのサイクルとすれば、プロジェクトの終了地点は、次の実践のスタート地点とつながっている。検証・報告がトラックの最終コーナーを過ぎたところならば、その後にバトンのリレーゾーンのようにスタートとゴールは重なり、再び周回がはじまるイメージだ。実際にプロジェクトを構想し、実施すると、この第2コーナーまでの段階で「やること」に忙しくなり、その後の活動が手薄になってしまうことがよくある。

第3コーナー以降を駆け抜けるためには、あらかじめ報告、検証・評価に対応できる戦略を立て、準備をしておく必要がある。持続可能なプロジェクト運営のために、このサイクルを意識し、全体を見渡しながら現場を動かすのが「事務局」の仕事となる。

『東京アートポイント計画が、アートプロジェクトを運営する「事務局」と話すときのことば。の本<増補版>』アーツカウンシル東京、2020年、68-69頁より。本書は、以下のリンク先よりPDFダウンロード、もしくは郵送(送料のみ/着払い)にてお読みいただけます。

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アートプロジェクトの現場は、常に実験的で、新たな試みにチャレンジします。思いもよらないアプローチを見出したり、誰も気がつかなかった場所を使ったり、いまだ見たことのない表現が生まれたり……日々、変化する状況に応答するだけで、アートプロジェクトを運営する事務局は、大忙しです。企画が実現し、やっと終わった……と一息ついたところで力尽きてしまうことも、しばしば。せっかく充実した成果があったとしても、それを「伝える」までに至らないのでは、もったいない。成果を広く共有することは、次の企画の糸口ともなっていくはずです。

個々の現場での対応は毎回異なるとしても、実務的に積み重ねるプロセスは共通するものがあります。そのプロジェクトの運営サイクル全体をぐるっと見回しながら具体的な対応にのぞむことや、プロジェクトの後半に溜まりがちな(おろそかになってしまうことも多い)報告や検証・評価といった活動を意識化するために「第3コーナー」ということばは、生まれました。

アートプロジェクトの運営を競技場のトラックにたとえているのは、
『アートプロジェクトの運営ガイドライン 運営版』に掲載された図を参考にしています。

動画のなかでは「第3コーナー」の活動として、フォーラムのような場をひらくことを紹介しました。Artpoint Meeitngは、東京アートポイント計画が年に2~3回のペースで開催しているフォーラムですが、現場の実践報告だけでなく、どんな社会的なトピックとかかわっているのか(各プロジェクトの狙い)を見えやすくするための場としても使っています。

また「第3コーナー」の活動を支えるアーカイブづくりに活用できるツールとして『アート・アーカイブ・キット』も紹介しました。

そのほか、今回の動画内では紹介しきれませんでしたが、「第3コーナー」以降にある大事な活動「検証・評価」については、以下の動画で紹介しています。ぜひ、あわせてご覧ください。

「アートプロジェクトの運営をひらく○○のことば[実践編]」では「Memorial Rebirth 千住」というプロジェクトに焦点をあわせて、評価の実践についても解説を行っています(動画は、計4本あります)。

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アートプロジェクトの運営において、「第3コーナー」を意識することは、息の長い実践をつくるための足がかりになります。最後に「第3コーナー」に取り組む意義に触れた記事の引用で終わりたいと思います。

「第3コーナー」にこだわる、一つの理由は(急に大きなことばを使いますが)自らの実践の「公共性」を意識するかにかかっているのだと思います。いまだ出会ったことのない人、もしくは、きっと出会うことのない人々に対する想像力をもち、そこにプロジェクトの価値を届けることを考えるかどうか。公的な資金を使っているかどうかは関係ありません。むしろ、どれほど私的な(ように見える)活動であったとしても、それを「公」の領域に掬い上げることがアートプロジェクトを実践する意義であるのだと思います。

実践の場で生まれる価値に参加者がきちんと出会えるように適正規模で場を「閉じる」こと、そして、その場に立ち会わなかった(立ち会えなかった)人々に向けて価値を「開く」ことを試みること。この両面があることで、ひとつの「現場」が、本当の意味で完結した円を描いたといえるのではないでしょうか。「第3コーナー」について考えることは、なぜ、誰にプロジェクトを仕掛けているのか? という自らの実践の射程を問うことになるのだと思います。

今回ご紹介した動画や記事を入口に、プロジェクトメンバーのみなさんと「第3コーナー」の駆け抜けかたを議論してみては、いかがでしょうか?

佐藤李青

▼ Tokyo Art Research Lab「アートプロジェクトの運営をひらく、○○のことば」の再生リストは、以下のリンク先からご覧いただけます。