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ポルトガル🇵🇹おとぎの国のろうそく屋さん


2022年10月。

ローカルなお店大好き&キャンドルにハマっていた私は、下調べしていたキャンドル専門店に足を運んだ。
1700年台から続く歴史あるお店だ。

「Bon dia-!」(こんにちは)
『Bon dia』

重厚な扉を開けると、真鍮で縁取られたガラスケースに素敵なキャンドルが美しく陳列されていた。
私をぐるりと囲むショーケースは穏やかにきらめいて見えた。

クラシカルなヨーロッパ調の店内に、色とりどりのキャンドルが並ぶ。
深い青の蝋燭に仄かな桜色と落ち着いた金色で花をあしらったテーブルキャンドル、カボチャやざくろをモチーフにした落ち着いた色味の可愛らしいキャンドル、氷細工のように透き通った鳥の形のキャンドル。

まるでおとぎの国に迷い込んだみたいで、私はしばらく小さな店内に溢れるキャンドルをひとつひとつじっくりと眺めた。

そんな中、
「Bon dia」地元の方っぽいマダムが扉を開けた。
ポルトガル語はほとんどわからないのだけど、どうやら今日パーティをするからテーブルを華やかにする蝋燭がいくつか欲しいと。
店主のおじさまはそれならこれはどう?といくつかガラスケースから蝋燭を取り出し、マダムはそのうちのいくつかをさらりと買っていった。

ちょうど私も店内を見終わったので、おじさまに英語で話しかける。
「香りのあるキャンドルはどれですか?」
『この形だけなんだけど、香りは何種類もあるよ。サンプル持ってくるから待ってて。』

堅物の職人さんぽくて、待っている間もなんとなく緊張した。


『これが全種類。』
小さな箱に、ころんとしたキューブ型の蝋燭がたくさん。よく見るとひとつひとつにラベルがついている。
「おじさんのおすすめは?」
『全部だよ。まあ、嗅いでみなさい。』

最初はハチミツの香り。
「あまーい!」
『こっちは小さな花たちの香り。』
「ちょっとさわやか?グリーンぽい匂いですね」
『次これ。』
「んん?なんか嗅いだことあるけど….」

ほんのり甘くてちょっとだけ酸味を感じる不思議な匂い。
『これ、わかるかい?』
おじさまはそっとラベルを指差す。
「ううん、読めない」
『トマトだよ』
「ええ!?トマトなの!? 」

びっくりして思わず爆笑してしまった。
香り付きのキャンドルでトマトの香りなんて、日本じゃ絶対作っていないよね。


「んー、これは違うかも。」
『じゃあこっちに避けとくね』
堅物感ただようおじさまだけど、話しているうちにとってもチャーミングで優しい方だなと印象が変わった。
匂いが薄いと、おじさまが擦ってふわりと香りを立たせてくれた。

「この匂い、好き!」
『これはきっと読めるでしょう?』
「サマル、カンド。サマルカンドの匂い?」
『そう。旅行した時に感じた匂いを作ってみたんだ。』
サマルカンド、中東の美しい街。
ちょっぴりエキゾチックで奥ゆかしい華やかさを持つ、優しい香り。

この後も、ヴァイオレット(すみれ)・せっけん・緑茶などなど、合わせて15種類ほどの匂いを嗅がせてもらった。
すべておじさまオリジナルの香りを作っているらしい。

嗅ぎながらこれ好きとこれはパスのグループに分けて、2回目はこれは好きのグループからさらに厳選。
「これ嗅いだやつ?」
『これはこれと一緒だから、嗅いでたよ』
わちゃわちゃとしながらも、何とか振り分けが終わった。

「決まったわ!」
『サマルカンドと山の緑の匂いだね』
かなりの時間をかけて選んだにもかかわらず、おじさまは丁寧にサポートしてくれて、お気に入りの香りが見つかってよかったと一緒に喜んでくれた。

「あと青い鳥さんも!」
『形どっているものは匂いしないけどいい?』
「なんでですか?」
『蝋の柔らかさが違うんだよ。香りを練り込んでいるやつは柔らか過ぎて彫って形を出すことができない。』
「そうなんですね。うん、大丈夫。可愛いから鳥さん欲しいです。どの子がいいかなあ。」
またもうんうん悩んでいると、
『どの子も同じ形・表情だよ。これでいいんじゃない?』とみかねたおじさまが選んでくれた。

綺麗にそれぞれの蝋燭を包んでくれて、いざお会計という段になって。
「え、現金しか使えない?」
『そうなんだ。』
「ちょっと待っててください。ホテル戻って現金とってきます!夕方もう一回くるね!」

一緒に渡航していた母も合わせて再来店。
同じように香り付きのキャンドルを選んでいる傍ら、「匂いどのくらいもちますか?」とおじさまとお話しする。

『包装を解くと、少なくとも5日。包装のセロファンをつけたままだと1ヶ月くらいかなあ』
意外と持たないものね、まあいい香りだし記念としていっかな。
「香りを長持ちさせるにはどうしたらいいですか?」と尋ねると、たくさん語ってくれた。

『3つアドバイスをするね。
 まず、この綺麗な円柱を保って香りを長続きさせるには、1日1-2時間の点火に留めること。絶対にそれ以上は点けてはいけないよ。
周りの蝋が変に溶けてきてしまって、美しくない形になってしまう。それに液化した蝋によって火が不安定になるんだ。

 次に、つける前に芯を短く切ること。
長すぎると火が大きくなって周りの蝋をがたがたに溶かしてしまう。それに炭化した芯に火をつけると黒い煙が立ってしまうからね。

 最後に、溶けた蝋は捨てないこと。
綺麗な形を作って最後まで楽しむには残った蝋の量も大切なんだ。』


最後にお礼とお支払いをして、退店。
『旅行、楽しんでね』
「色々とありがとう。」


現在、私の部屋には毎夜ろうそくの灯りが灯る。
消した後もふんわりと香りが立ち込めて、朝起きた時、私はサマルカンドの香りに包まれる。
あのポルトガルの優しい記憶と一緒に。


おじさまのアドバイス通りに使っているキャンドル。
綺麗にくぼみができて、漏れる灯りがとても優しい。








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