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高いと知っておきながら通ってしまう美容室

上京したてで右も左もわからない頃、美容室に行くことすらできなかった。表参道で美容師さんに声を掛けられ、気分良く表参道から一本入った美容室までテクテク同行。当時の私は自分の中でなぜか姫カットに興味があり、恥ずかしながらもオーダー。仕上がりはというと、全く似合っていない姫カットがそこには完成されていた。鏡に写った、青ざめた自分に気付いた頃には次々とお客さんがお店の中へ入っていた。同時に私はある共通点に気付く。そのお客さんたちはどこかみんな芋っぽいのだ。要するに田舎っぽい、おのぼりさんというわけだ。頭の悪い私でもその場の状況を理解でき、自分もおのぼりさんのターゲットにされていたことに気付く。でも、なぜか腹が立つことはなく、少し高めの料金を支払い店を後にした。東京の美容室ってこんなに高いんだ〜、カリスマ美容師にカットしてもらうとこんな感じになるんだ〜、これってお洒落なの?可愛いの?そんな驚きと疑問を持っていたのを覚えている。

翌日職場の先輩にこの一件を伝えると、美容室難民の私に、ある美容室を紹介してくれた。そこは先輩の友人が働く渋谷にある美容室。それから長い間、デビュー前のスタイリストさんに私はお世話になっていた。その美容室は、美容業界でも名の知れている、人気の高い美容室だった。私からすれば、彼のカットやカラー、特にストレートパーマは、デビュー前とは思えないほどの仕上がりだった。当時の私は万年金欠。しかし彼はそんな私をいつも満足させてくれていた。私はいつも2リットルのコカ・コーラをお礼がわりに渡していたが、大人になった私が今思うことは、もっと気の利いたお礼を渡すべきだったなぁと。彼がスタイリストデビューしてからも、私は彼の美容室に通い続けた。もちろんモデルとしてではなく普通のお客さんとして。しかし、そんな彼がいつしか夢だった個人店を町田に構えることになり、私は美容室を変えざるを得なくなった。本音を言えば今まで散々サービスしてもらってきた分、通い続けたかったが申し訳なくもなかなか重い腰が上がらなかった。
ここで私はまたもや久しぶりの美容室難民へと化す。そんな私に彼からの提案で、今度は彼の先輩美容師を紹介してもらった。同じお店で働いていた先輩美容師が独立し、店をオープンさせるとのことだった。私は二つ返事でその美容師さんを紹介してもらい、それからは中目黒のとある美容室に通い続けている。
この中目黒の美容室が割とお高め。いつも支払いをする時に「今日も高いな」と思いながらもまたその美容室に足を運んでいる。私もイイ大人だから、美容室を変えることなんていくらでもできるはずなのに、気付けばいつもあのレザー貼りの椅子に腰をかけてしまっているから不思議だ。しかも堂々と。

こうして美容室難民だった私は、数々の美容師さんのバトンを経て、安定した美容室ライフを嗜んでいる。私が高い美容室に通う理由、それは、お金では買えない横の繋がりを大切にしたいと思うから。

それともう一つ、自分にお金をかけられるのはきっと独身時代だけだから。

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