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現代「モノづくり」考(5):課題

現代「モノづくり」の課題

現代の「モノづくり」を考える最終回は、対処すべき実現について語りたい。

これまで語ってきたように、現代の「モノづくり」は製造業の枠内に止まらない。製造を超えて、多種多様な主体が参加する「価値創造」のプロセスとなっている。新しいシステム、今までにない体験、画期的な方法論などを生み出し、人々をエンパワーし、諸々の課題を解決する総合的な取り組みである。

しかし、その動きは端緒についたばかりである。特に日本社会への定着はこれからである。定着へ向けて課題となっている諸要素は何か。筆者は、以下の3点について問題意識を持っている。

水平協働の文化や環境が整っていない

第一に、現代の「モノづくり」を促進する上で、「個」の時代に合った「水平協働」の文化や環境が整っていないことである。

水平協働とは、複数の異なる分野の主体が水平に結びつき、新たな価値創造を行う協働のあり方である。垂直統合のように、階層をもった縦のヒエラルキーで事業が展開するのではなく、ネットワーク的につながる者同士の協働である。「価値創造」の起点は固定化しておらず、どこからでもスタートできる点が特徴である。パートナーシップの形態を取ることが多い。

日本では、垂直統合型の企業文化が根強く、なかなか水平協働のイメージを掴めないでいる。ピラミッド型の垂直統合で生産していた時代のマインドセットから抜け出すことができず、分野や業種を超えてボーダーレスにつながる協働のイメージが描けない。「個」の時代を迎え、多様な主体がダイナミックに活動できる諸条件は整っているのに、現状はうまく協働できていない。

水平協働は、様々な形態が考えられる。技術が起点になることもあれば、ユーザーが起点になることもある。あらゆるところから「モノづくり」が始まり、業種や分野、地域を超えて連携を模索する。

水平協働の典型は、パートナーシップである。ある目標に対して、それぞれの強みやリソースを出し合って、成果を出し、利益を配分する。内容や程度に違いはあっても、各事業主体にとっては、新しい事業への投資となる。たとえパートナーシップのメンバー間で委託・受託の関係があったとしても、それは目標へ向けて成果を出すことが前提である。

このような水平協働の文化は、日本でまだ育っていない。まずは、様々な事例を構築しながら、その具体的な方法論を見出していく取り組みが必要である。

創造力を生かす環境が不十分

第二に、「創造力」を持つ人たちを活かす環境や雰囲気がないことだ。創造力の発揮を促し、失敗を受け入れて再チャレンジできる社会の受容性や文化が育っていない。この解決は、わたくしたちの大きな宿題である。

現代の「モノづくり」を起動するのは、「創造力」である。「価値創造」の重要な原動力であり、付加価値の源泉である。既存製品の改良改善を超えて、社会の課題を解決する画期的なイノベーションを生み出すことが求められている。

しかし、日本では新しいアイデア、新しい機会に対して警戒心が高い。これは各分野において見られるが、特に「製造業」で顕著だ。通常の仕事の守備範囲を超えるものに対しては身構えてしまうのだ。リスクを課題に評価し、失敗することには及び腰となる。

一方、「創造力」を持っている人たちも、現実的に新しい価値を創造できる自信を持てないでいる。あらゆる制約でかんじがらめになり、前に踏み出すことができない。何よりも「失敗」への恐怖心が大きい。世間や社会から同化圧力を感じてしまい、新しいことを始めることには二の足を踏んでしまう。

実務的なノウハウがないことも、挑戦を躊躇させる。特にハードウエアが絡むと、途端にハードルが高くなる。工場に試作を依頼するにも、どこにどのように相談したら良いか、検討がつかない。極端に及び腰になったり、逆に高圧的になってしまい、うまくコミュニケーションが取れない。

世の中は、スタートアップ支援が花盛りだが、ビジネスコンテストやピッチ大会が目立ち、事業の実務的な支援はまだ足りないように見える。特に「モノづくり」の分野ではほとんど手付かずだ。ものづくりラボのようなところが増えており、用意された設備やツールを使って初期の試作や実験は可能になってきているが、いずれ製品化のどこかの段階ではプロの技術に頼ることになる。そのための具体的な方法論や事例、人材教育、サポート体制が必要だ。

過度の行政頼み

第三に、社会的な活動の多くは行政頼みになっており、民間主導の取り組みがあまりに少ないことだ。

行政の支援が「あって当然」と受け止められ、支援を受ける側の「依存」を生み出しているのではないか。そのため、自主性があっても、人的・財政的な基盤が弱すぎる。また、あくまでも行政の枠の中で取り組まれるため、制約も多く、「創造力」を自由に発揮できない。

特に資金調達面で、行政への過度の依存に偏ることは大きな問題だと考える。費用の助成があることはありがたいが、助成ありきの事業展開は中長期的に競争力を失わせる。リスクに対する感覚も麻痺させる。

一方、助成を受けるプロセスは複雑で、助成を受けた後も非常に手間がかかる。小規模事業者が自立的に活用するのに難しく、躊躇してしまう。申請書を書くにも専門家を雇う必要があり、その手数料も馬鹿にならないのである。着手金で15万円程度、成功報酬で10%ー20%程度が相場なようだが、これでは誰のための助成金かわからない。

行政に頼らずに、民間で資金調達できるクラウドファンディングが普及してきたのは、その意味で良いことだと思う。しかし、今の状況を見ると、画期的なアイデアを実現するための資金調達というよりは、マーケティング活動にウエイトが高いものとなっている。しかも、20%近い手数料は、いかにも高すぎる。

新しい価値創造の力学を創出

では、私たちは、これからどうしたら良いのであろうか。

そのスタートは、「モノづくり」の概念を捉え直すことである。これまで語ってきたように、新しい時代ににふさわしい「モノづくり」を再定義することで、水平協働の文化を育て、それぞれの主体が活きる環境をつくっていく必要がある。今まで繋がっていなかった他分野にわたる主体が有機的につながり、組み合わされ、新たな協働のあり方を構築することである。

例えばIT(情報通信技術)は、工場の経営効率化や生産効率化の面で導入が推進されているが、「モノづくり」の観点からITと製造業が新しい製品やサービスを生み出す協働がもっとあって良いと思われる。

製造業側は自社の技術の枠内で考えてしまうし、IT側はハードウエアに関して無関心なことが多い。両者のギャップを埋める方法を模索する必要がある。

進める上で大事なのは、それぞれの主体を「変える」ことではなく、「文脈を置き換えること」である。例えば「製造業」のあり方を変えるのは、時間を要し、あまりに大掛かりとなる。そうではなく、むしろ「製造業」はそのままに、その置かれた文脈の方を変えることに力を注ぐべきだ。新しい文脈につなげることで、各主体で価値の見直しが行われ、自然と変化することを期待する。

ビジネスをプロデュースするとは、この文脈作りである。

「創造力」のある人たちをエンパワーする環境をつくることが最優先である。ここが元気にならないと、現代の「モノづくり」は発展できない。つまり、直面する社会課題に対応できない。未来を切り拓くための、新たな「価値創造」の力学を生み出したい。

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