癒しと幸福と焼き肉
星座占いによると、私は12年ぶりの幸運期を迎えているらしい。
朝の通勤電車の中で眺めるニュースに紛れ込んでくるどの占いにも、そんなことが書かれている。
そしてサブリミナル効果か、それとも本当に占いが当たっているのか、とにかく私は久々に物凄く幸せを感じて生きている。
ここ数年の私は、仕事の悩みや身内の不幸が重なったりと、まあ色々あってかなり消耗していた。
そんな私が最近は毎日幸せで、スキップしながら帰れそうなほどの幸福感に包まれている。特段何か大きな出来事があったわけではないが、やっと自分を取り戻しつつあって、それが何よりも嬉しく感じる。
生活に彩りを
幸せになってからは見える世界も変わってきた。
今までは日々の暮らしや街の風景に癒しや懐かしさを求めてきたが、最近は生活をより楽しくしてくれるものを探すようになった。
好きな音楽を聴いて、蒸し暑さを感じながら歩く道がこんなに輝いて見えるのは何年ぶりだろうか。
シュークリームがどうとか、月面のブランコが揺れるとか揺れないとか。
そんなくだらない歌詞と見慣れた景色が私の生活をより豊かにしてくれる。
そんな中で一番大きく変わったのは、ご飯が美味しいと感じられるようになったことだ。
今まではとにかく早く家に帰って、一人の時間を楽しみたかった。だから夜ご飯はコンビニで買って帰るか、アマゾンで買いだめしたカップ麺を流し込む、そんな毎日だった。
ところが幸せな私は、帰りに一人で飲食店に寄ってご飯を楽しんでいる。昔の私が見ればとんでもない奇行だ。
そんなわけで、ずっと気になっていた一人焼き肉に挑戦した。毎日降りる駅にはたくさんの飲食店があって、一人で入れるようなお店も多い。
街はこんなにも人で溢れているのに、一人ご飯も需要があるなんて、案外一人を求めている人は私だけじゃないのかもしれない。
そんな事に今更気づく。いつも通っていた道のはずなのに、未だに新しい気づきがある。
街に癒されて、幸せに。
といっても、私は昔の自分を不幸だとは思っていない。街に癒されてきたのは事実だし、その過程がなければきっと今私は幸せを感じていないだろう。
この街は私の準備が出来るまで、平穏を守り抜いてくれたのだ。人通りの少ないスーパーまでの道も、深夜に行っても丁寧に接客してくれる薬局も、少し苦手なコンビニの店員さんすらも。
私の日常に違和感なく溶け込んでくれていたおかげで、私は今の今まで淡々と生活ができていた。
平穏だった日々に感謝しながら、また新しい世界を同じ街で探している。
どうせならすべての星座が同じように幸せだったらいいな、なんて思いながら今日も一人焼き肉へ向かう。
どこかの占いに「幸せ太りに注意」なんて書いてあった事を思い出す。
Written by HINA