自分の癖を知れ、そうして乗り回せ
グルーヴやノリ、タイム感というものは
生まれつき持っているものだろうか。
練習や聴いてきた音楽に養われるものだろうか。
あるいはその場その場で意識して生むものだろうか。
どれも有り得ると思う。
ベースを弾き始めて6年になるこの頃、やっと自分の持っているノリとやらの正体が分かった気がする。
簡潔に言うと私は後ろノリだ。それ自体はかなり前から感じていたのだが、ただ漠然と感じていたに過ぎなかった。
ベースプレイヤー「下の下」から「下の中」へ昇格しようかという辺りで、スライドやグリッサンドと呼ばれるような奏法に私は惹き込まれる。
憧れたベーシストが多用していたそれは、ベースらしい温かみのある色気を含ませるのが得意な奏法だった。
好きになってからというもの、私は事ある毎にそれを使った。
原曲では普通に弾いているところを何らかの要素で自分なりに「色気がある」「グルーヴィーだ」と解釈したら、その音の入りはスライドにする。
左手が弦をボタンのように垂直に押さえるのではなく、横から飛行機が着陸するような角度で押さえに行く感じ。
ドラマチックな雰囲気を出したい時、会場のテンションをもう一段あげたい時なんかは大きくグリッサンドを使う。ピアノを端からドゥルルルルルッ、とやる、あんな感じの奏法だ。
もちろん意識的に使うテクニックではあるが、私はどうやら無意識的に使っていた側面も大きかったらしい。
知らず知らずのうちにスライドで出す音が多くなっていた。
なにより運指の形がスライドを前提としたものになった。
かなり初期の頃からじっくりと身につけていたそれは紛れもない「癖」だった。
後ろノリの正体はこれである。
自分ではジャストオンタイムで音を鳴らしていると思っても、その音が前に出てくる瞬間というのはいつもごくわずかに遅れている。
音を波形にしてみると分かりやすいのだが、私がそうやって出す音には多分、地震でいう初期微動のような幅をほんの少し伴っていると思う。
音が前に出てくる瞬間というのは波が最も大きい瞬間だ。
弦を上から垂直に押さえる場合は波のてっぺんがいきなりやってくる。
私のように横から押さえに行くと、わずかな初期微動のあとに波のてっぺんがやってくる。
ここに明らかなズレが生じるのである。
今まで自分ではこのノリというものが元々持っている何らかの癖だとしか把握しておらず、分かっていないからこそ困ったこともあった。
ロックをやる人間には前ノリを持っている人が多い。
そもそも合わせていてどうもしっくり来ない、あるいは自分では気持ちよく弾けていても録音を聴くとなんか噛み合っていない、と思うことが多かった。
本当に合う人なんて稀で、そういう人達としか後に何度聴き返しても納得できるような素晴らしい演奏をすることはできないのかと悩んだ。
人との相性や音楽ジャンルによってそれに恩恵を受けることはあっても、そうでない時にはただの「悪癖」でしかない。
ほとんどの場合意図しなかったとは言え、自分の練習過程で無意識のうちに身につけてしまったものだからだ。
全部自分のせい。
でも自分の癖の正体を知れば対策のしがいもある。
正直矯正するにはかなりの練習と時間を必要とする。
文字通り1音1音、波のてっぺんが意図する瞬間に訪れるかというところを意識しなければならない。
最初からその意識を養うのはほぼ不可能で、そうなるとちまちまと録音をし、それを地道に聴きつつ分析していかなければならない。
ようやっと意識できるようになったら、今度はそれを反映してくれるように癖のついた運指を1から叩き直さなければならない。
想像しただけでしんどい。
もちろん自分の癖が悪いばかりのものではないとは自覚している。
ニュアンスレベルで音に色気を付与できる、私だけの武器でもある。
それでも「ノリを自在にコントロールする力」を持っていたいのだ。
なるべくいろんな人と気持ちよく合わせられる方がいいに決まっているし、私がこれからベーシスト「上の下」へと昇格するにはこのコントロール力が必要だと思っている。
「下の中」から「中の中」辺りで四苦八苦しながらもとにかく「早く、わかりやすく上手くなろう」と奮闘していた頃の自分に言いたいけど、テクニックの種類を増やすなんて二の次でいい。
それよりも基礎です。私は今頭の中の意識レベルで基礎が不足していて大変苦労しています。
シンプルにリズム感。自分の音を客観視する力。その上での適応力。
そういうものを身につけるよう励みなさい。わかったかね?
今さら言っても遅いし、聞いても直ぐにはやらないだろうな。
なんせ心のどこかで「もっと分かりやすく目立ちたい」と思ってないベーシストはいないからね。
若ければ若いほどその思いは強い。
私も、歳をとったなぁ。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?