ハワイの恋が終わり苦しみの先に、悟りへの道が開けた 32
第五章 ３２ 別れてから
私は人を好きになると、胸がいっぱいになって食欲が落ちる。食べたい気持ちはあっても胸が詰まった感じで食物が入らない。そして痩せていく。でも幸せホルモンが分泌しているので美しくなる。
クリスとの場合は、付き合っても痩せなかった。顔が私の好みでないことも大きかった。顔は付いていれば良いかと思ったりした。でも、見方によってはハンサムだと言う人もいたし、クリスは不細工では無い。そんな出会いだった。惚れられている余裕があった。
最後の１０か月は元彼に操を立てたから、その時点からクリスに体の関係を断った。
それでも私と一緒に居たいと言ったクリスだった。
食事も作ってくれるし、洗濯もアイロンもしてくれる便利さもあるのだろう。
以前、私は彼に言っておいた
「別れるときは、うまく別れてね」と
クリスの家から私の荷物を運び、手紙を書いた。年齢が大きく違うと言うことは、価値観も違うことである事を遠回しに書いた。実際は、そんなことは、年齢とは関係ないのだが。
３日くらい経ってからだろうか、その返事をもらった。コーラスがあるので、教会に通っていた時に渡された。その紙がひどいものだった。見覚えのある、ずっと机の上に放置してあった古い古いメモ用紙だった。縁が黄色く変色していた。そこに、どんなにりさに世話になったか、どんなに胸をときめかせて毎日りさの家に通ったか、と言う内容がその黄ばんだ紙に書かれてあった。私の出した手紙の内容は、伝わっていなかった。
これは、２週間後に訪れる決定的なクリスの私に対する失敗に繋がる。そう、クリスが私に書いたメモ用紙がひどかったように。
私は別れた後に呼び出して、クリスとランチをすることにした。それは、クリスを時子に渡してから、時子の良くない噂を聞いたからだった。今ならまだクリスと時子の結婚をやめさせられるかもしれない。クリスは時子と一緒になったら不幸になると思った。
トランプタワーの６階に陰陽という名前の、ハワイらしいオープンエアーのカジュアルなレストランがある。ここは、私がテレビの広告のクライアントと来た店で、夜はバーになっている。その頃は、大きめのソファーがあり、心地よい空間だった。その後も日本からのお客さんが来た時や、ワイキキに出てきた帰りに、クリスとたびたび立ち寄った場所。素敵な情報は、全てりさがクリスに仕込んできた。
「時子には昔から付き合っている彼がいるそうよ。まあ、その人とは潮時だと考えて、あなたにアタックしてきたのよ。あなたは、ハワイに住みたいという野望に利用されるのよ」
噂をクリスに伝えた。
でも、クリスには響かなかった。
それはそうだろう、付きあうと決めた時子がもうすぐハワイに来る。会う寸前の一番嬉しい期間だから。
時子がハワイに来てから三日後が、私の誕生日だった。別れるずっと前から、クリスにサントリーの寿司バーを予約させてあった。私がクリスを連れて行ったことがある。そこは、龍一と行く大人の寿司バーだ。
クリスは私の誕生日の予約をキャンセルするのだろうか。彼女と行くのだろうか。 時子がハワイに来たらクリスと時子は初めて結ばれる。
この日、私とクリスの二人の最後の思い出作りをしようと、私なりの綺麗な別れにする為に、クリスを家に招いた。クリスはりさが元彼と寄りを戻したことも知らなかった。
クリスはフルートを吹いて、私はピアノ伴奏をした。
それからギリシャ人のヒーラーの言うとおりに、肉を取らなくなったクリスの為に、魚を焼いて煮物を炊いて、和食の夕飯を作った。
クリスはお礼を言って、出て行った。
その時に私はクリスに言った。
「私の誕生日に、お花でもちょうだいね」
クリスは言った
「自分からプレゼントを催促するものじゃ無いよ、ちゃんと解っているから」
これが時子とクリスが結ばれる前の、りさとの最後の会話になった。
りさの誕生日前日に、クリスは連絡をしてきた。夜１１時を過ぎていた。セイフーウェイという、大衆スーパーマーケットで買った赤いバラの花束を持ってきた。私が期待したような、お花屋さんのものではなかった。が、カードが添えられていて、その中にノーズストロームデパートの、ギフトサティフィケート、日本で言う商品券が入っていた。
（忙しいのに、わざわざお祝いを渡しに来たのは、偉かったよね。思ったような花では無かったけど。その分何か買うように考えてくれているし）
私はそのギフトカードには、頓着しなかった。
次の日、久しぶりに誕生日当日はガールズパーティーを開いた。
みんなに祝ってもらい、幸せだった。
この日はクリスとは別れていて２週間経っており、新しい彼も夜遅く祝いに来てくれて、嬉しい誕生日の終わりを飾った。
その誕生日が過ぎてしばらく経ってから事件は起った。
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