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コーヒータイムの野望

一昨年、夫が腰の椎間板ヘルニアで働けなかったとき、彼はなぜかバイオリンを買った。働けなくて収入が減っているというのに、6万円ぐらいするバイオリンを買った。もちろん初心者。楽器の経験といえば、若い時にギターをちょろっと弾いたことがあるくらい。ヘルニアで動けない日々にうつうつとしていたのだろう。

気分転換もかねて体験レッスンへ行った彼は「きらきらぼし」(のようなもの)が弾けるようになった。わたしは、音のずれずれのきらきらぼしが気持ち悪くて、イヤ~~やめて~~!と耳をふさいで騒いでいた。3歳の息子はそれを見てキャッキャはしゃいでいた。

山奥にあるわたしの実家に、家族3人泊まりに行くときもバイオリンを持って行った。夫は早朝からへたくそなきらきらぼしを弾き始めた。わたしの母は庭にある亡き父が作ったテーブルとベンチで朝のコーヒーを飲んでいた。
「バイオリン聴きながらコーヒーなんて最高だね。」
と言った。すぐそこの山を背景に母の植えた木や草花で緑色の庭に、朝の空気とバイオリンの音。気持ちよさそうに母はコーヒーを飲んでいた。うまいかへたかはどうでもいい、生のバイオリンの音が聴こえるということが素敵と受け取る母の感覚がいいなと思った。最高のコーヒータイムだ。

だけれどもわたしはもうちょっと上手なバイオリンが聴きたい。
夫の弾く上手なバイオリンの生演奏を聴きながら、夫の淹れた美味しいコーヒーを飲む。それが、今のわたしの夢である。100%他力本願な夢なので実現は難しいだろう。よく他人を変えることはできないが自分を変えることはできるというが、ここで自分で全部やってしまっては時間の問題でいつか実現してしまう。叶うか叶わないか分からない、というところを楽しんでいるのである。

夫はコーヒーを美味しく淹れることができる。あとはバイオリンの腕を上げるのみ。腰の痛みも落ち着いてきて働きだした彼はバイオリンをどこに置いたかも忘れている。さあ、早くバイオリン教室に通いなさい。宝くじを買うような気持ちで声をかけている。

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