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043:六月二四日 アストランチア(二八)
智大がちゃんとしてるなぁって思うのは、女の子二人を車道の反対側歩かせてくれる。微妙な位置をキープして、マリリンとも私とも会話を成り立たせてくれてる。私が高校卒業後、専門学校をすぐに退学して主婦歴が長いのを知ってるからマリリンはいろいろ聞きたいみたい。ちょこちょこ質問を投げてくる。二年近く付き合っている彼がいるんだって。智大は仕事が忙しくていまは結婚どころじゃないっていいながら、彼はあーなんじゃない
もっとみる042:六月二四日 アストランチア(二七)
会場の玄関で二次会に行く人たちとまず分かれた。梶田先生が乗るタクシーに同乗させてもらう人もいれば、急ぎで別のタクシーで帰る人、近くのバス停に向かう人、路線の異なる二つの駅にそれぞれ向かう人、みんなそれぞれに分かれていった。迎えに黒塗りの高級車が来た咲乃ちゃんや、地元だからと多少は遠いけれどと一キロくらいの道のりを酔い覚ましのためにも歩くという影山くんとそれに付き合うという波野、大人になってやっぱり
もっとみる2024.07.20:ヒューマニスト・ヴァンパイア・ シーキング・コンセンティング・ スーサイダル・パーソン
製作:2023年
製作国:カナダ
原題:Humanist Vampire Seeking Consenting Suicidal Person / Vampire humaniste cherche suicidaire consentant
第80回ヴェネツィア国際映画祭ヴェニス・デイズ部門最優秀監督賞受賞
監督:アリアーヌ・ルイ・セーズ
脚本:アリアーヌ・ルイ・セーズ、クリスティーヌ・ドヨン
041:六月二四日 アストランチア(二六)
お食事もそろそろ終えてデザートも食べ終わってきたころ、中締めの挨拶があった。浅田さんが卒のない司会進行を務め、梶田先生のご挨拶があって、このときになってやっと到着した右田くんがいたり、塾が終わる子供の迎えにいかなくちゃって富樫さんが帰ろうとすると三木さんも一緒に行ったり、浅田さんや輿野くんたち何人かは二次会の相談を始めてた。
「谷口は?」
「ううん、木村さん!」
あ、旧姓で呼ばれるとつい反応が遅れ
039:六月二四日 アストランチア(二四)
やっぱり知ってる顔って安心する。我久くんみたいに極端なラフな格好の人もいれば、PTA役員っぽい浅田さんとか、スーツ姿のままで遅れてくるキャリア丸出しの人や、いかにもな同窓会スーツの人もいて、そんな中で私のリフォームブラウスは正解だった。
「谷口」って旧姓で呼ばれると教室の風景が思い起こされた。
「順子の息子、◯▢中学なんだって?」
「教えてよ、入試の秘訣。」
「うちも、来年受験なの!」
そんな風に
039:六月二四日 アストランチア(二三)
会場に入るのに少し躊躇していたところ、背後から声をかけてくれたのが昌哉だった。昌哉はいかにもインテリ風で、白い麻のジャケットに素足にスリッポン。べっ甲の縁のサングラスとかポケットからのぞかせて、いかにもイイトコの坊っちゃんな感じだけど、これは高校の頃からで嫌味な感じがしないのがまた育ちの良さを強調していた。
「谷口…さん?」
自信なさげに覚えてくれたかと思うと、少し嬉しかったりして。
「あ、ええ…
038:六月二四日 アストランチア(二三)
同窓会の会場は地元の小ぢんまりした老舗のホテルで、いわゆる宴会場の小さめの部屋を貸し切るとのことだった。もっといいところでという声もあったらしいが、あくまでも自分たち同級生のみの非公式な会だから小規模でみんなでワイワイ、ガヤガヤできる方がいいということで、先生もそう希望しているらしかった。
私は古びれたワンピースをブラウスにリフォームした。袖の部分は真白なそれに付け替えて、おしゃれボタンを縫い付け
037:六月二四日 アストランチア(二二)
そこへ旦那も帰ってきた。二人で食卓についているのが珍しかったのか、旦那も早々に席についた。私が立ち上がろうとするのを遮って、実に手際良く息子は味噌汁を火にかけ、唐揚げをレンジで温め、ご飯をよそってくれた。
「今日は蒼太が用意してくれたの。」
「味噌汁作っただけだよ。」
「うまいな。」
「ケーキもあるよ。」
「…なにか特別な日だったか?」
お小遣いはもらったけれど同窓会に着ていく服なんてなんでもいい