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ノーブラ天国:高齢女子の大人げないファッション雑話

 年相応、というものが何なのか、考えることは難しいのだが、年を重ねるごとにファッションがどんどん年相応から離れていっている。真面目なかっちりとした服装を求められる場が身辺からほぼ消えた、ということも大きい。ワードローブは「プチプラ・ユーズドリサイクル・子供服・メンズカジュアル」みたいなラインナップ。今日の格好は、ビームスのメンズ長袖TシャツLサイズ(古着屋で500円で買った)に迷彩パンツだ。

 さて、以前「子供服のズボンが熱い」という話を書いたのでそれを再掲しようかと思ったが、いったん書いたものをまた書き直すというのが思ったより面倒くさかったので、新しい話を書くことにした。今回書くのは、「ブラジャーをしなくなった」という話だ。もう1年くらい、ノーブラ生活である。

 ノーブラ。意外と中高年女性には、心ひそかに(あるある)とうなずいてもらえる話なのではないか。離婚後激やせして胸がしぼみ、そのあと新しい彼氏と付き合って盛り返して(結局再び激やせする羽目になって別れたが)、しぼんだ時に買ったブラジャーが合わなくなった時、姉に「大して使ってもいないので差し支えなければもらってくれまいか」と打診してみたところ、「実は子供生んでからカップ付きキャミソールしか着てないんダ!」という告白が返ってきて、驚いたことがある。その頃のわたしには、ブラジャー着けないは想定外の出来事であった。ところがそれからいくらも経たないうちに、カップ付きキャミソールどころかノーブラである。ひょっとするとブラジャーしない女の人って、みんなトークしないだけでそれなりの数いるのでは。

 わたしがブラジャーをしなくなったきっかけは、体調不良だった。頭痛肩こり眼精疲労背中痛に悩まされるようになり、ある日ちょっとちゃんとした席にブラジャー着けて行ったら、半日で吐き気レベルの具合悪さ、グロッキーになる始末。ワイヤーブラはもう無理だ!と悟った。それからレーサーバックのスポーツブラを愛用するようになった。レーサーバックはかっこいいし、Tシャツの襟からブラ見えしても下着感がないので好きなのだが、スポーツブラの難点はカップが小さいことである。押されて下乳がはみ出す。工夫して手持ちブラのカップのみを切り取り詰め込んでみたら、相当無理があったのだろう、使ううちにブラ本体の生地がべろべろに伸びてしまった。それからカップサイズを選べるヨガ用のブラを購入し、こちらは具合がよい。しかし徐々に(着けなくても何ともないのでは?)という思いが増し、試みのノーブラデイがどんどん増えて、現在に至る。(着けないとまずいかな)みたいなちゃんとした席では、ヨガ用のブラを着ける。

 こんな話を展開しているが、若い頃はブラ好きであった。大学生の頃販売員の素敵なお姉さんに勧められて初めて買ったインポートブラの着け心地の感動、初期の輸入下着全盛でカタログにアメリカサイズとフランスサイズと日本サイズが混在していた時代のピーチジョンから愛好し、友人が職場の先輩に「これいいよ!」と熱く推されたスタディオファイブに二人ではまった。その頃はブラとショーツは合わせ買い、Tバックを穿くようになったのもその頃である。ランジェリーは、楽しい。試着もフィッティングも大好きだ。おっぱいを詰めて肩ひもを引き上げると、とたんに胸が高く立ち上がるあのアメイジング。

 しかし高齢女子、次第に身に着けるものの基準が「体の感じる心地よさ」に変わってきたのだ。メンズ服を好んで着るのは、オーバーサイズが好きなこともあるが、レディス服に比べて綿100%率が高いからである。肌触りが違う。服のタグも、ちくちくがとても気になるので、大抵糸をほどいて取り除くようになった(ちなみにカットすると余計かゆいので気を付けたほうがいい)。ブラジャーもまた、胸郭、肋骨の締められる感じ、固められる感じがつらくなってきた。

 ノーブラのいい点は、メンズな格好に似合うことである。わたしは実は胸がそこそこ大きいのであるが、メンズカジュアルな格好にブラでしっかり盛り立てて合わせると、なんだか胸部だけ女っぽくなって違和感が出る。ノーブラだと適度に平らになって、丁度よい。逆に、体の線に沿った女らしい格好をするときは、しっかりバストメイクするタイプのブラジャーを着けた方がいいんだろうな、と思う。

 ノーブラだと乳が垂れるのでは、という心配をする方も多いだろう。私見であるが、乳はいずれ必ず垂れる。どんな女性でも、重力と加齢に逆らうのは無理だ。うちの祖母はかなりグラマラスな体形であったため、晩年には乳がへそまで垂れていた。乳を肩にかつげるタイプの婆さんであった。そこまで垂れる人はそう多くないとは思うが、前に向かって屹立しているようなハリのある裸のおっぱいは、リアルではあんまりない。多かれ少なかれ、垂れる。逆に言えば、裸で勝負する機会があまり多くないのであれば、ブラを着ければちゃんと持ち上がるのである。問題ない。

 ノーブラの唯一の欠点は、乳首である。冬期は支障ないが、季節が暖かくなって薄手の服を着るようになると、乳首が生地を押し上げる。「乳首のなにがまずいのか」とおっしゃる方もいるだろう。海外ではタンクトップの胸の頂点を尖らせたまま普通に歩いている、という話も聞く。しかしわたしは個人的に、服の下に見える乳首が、あまり好きではないのである。肉付きのよい男性がぴったりした白いTシャツなど着て乳首が透けているのを見たりすると、何とも言えない気持ちになる。自分においても然りである。大学時代のいっこ下の友人女子、彼女は高校までバレエをやっていて、長身細身で胸の平らな基本ノーブラ女子であったが、彼女が言うには「胸ポケットのある服を着ればOK」とのことであった。確かにそのようにも思う。わたしは今は、上からふわっとシャツを羽織ったりして、対処している。ただし車の運転時は、意外とシートベルトの刺激が強いので、心の準備をしておくべきである。

 ここまでノーブラノーブラ語ってきたが、言いたいことは、ブラをしようとしまいと、胸がでかかろうと小さかろうと、ハリがあろうと垂れようと、大体問題ない、ということである。何事もメリットデメリットはあるし、対処法はあるし、またいったんノーブラにしたらノーブラを貫かなければならないわけでもない。着けたい時は着けても構わないのである。

 そして、もしかすると(ノーブラ、楽そうだな)と思いつつもためらっていた中高年ご同輩の女性がいるかもしれない。わたしは1年ちょっと前に白髪染めをやめてシルバーヘアに移行したのだが、これが同年代友人女子たちに軒並み好評である。ただ彼女らの多くは「子どもが学校を卒業するまでは」のような事情を抱えているため、今すぐシルバーヘアにダイブする人はまだいないが、還暦頃になったら友人界隈でシルバーヘアが流行っている可能性はある。この記事を読んで「ノーブラ、やってみよう!」と意欲の湧いたご同輩女性がいたら、幸いである。

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