川島俊之

高野山真言宗高福院住職。寺で自由、利他、共感などをテーマにした哲学イベントを開いていま…

川島俊之

高野山真言宗高福院住職。寺で自由、利他、共感などをテーマにした哲学イベントを開いています。 監査法人トーマツ、グローバル・ブレイン株式会社(ベンチャーキャピタル)などを経て実家の寺へ。東京工業大学非常勤講師、名古屋商科大学大学院客員教授をつとめた。 宇多田ヒカルさんの大ファン。

最近の記事

「空海と表現の哲学」について

令和4年2月19日、高野山真言宗高福院は「空海と表現の哲学ーー真言・曼荼羅・即身成仏」というオンラインセミナーを開催しました。文芸誌『群像』に「空海」を連載中の安藤礼二先生(文芸評論家・多摩美術大学教授)が講師を、斎藤慶典先生(哲学者・慶應義塾大学教授)がコメントと問題提起をしてくださいました。本当に刺激的なお話でした。 空海による表現の哲学は現代に通じる安藤礼二先生は、折口信夫、鈴木大拙、井筒俊彦を媒介としつつ、空海を表現の哲学者と位置付けます。 ※井筒俊彦『意味の深み

    • 『浅草キッド』:笑い・自由・死者

      Netflixの『浅草キッド』、素晴らしかったです。ビートたけしによる自伝の映画化、劇団ひとりが監督・脚本を手がけました。 たけしが師匠の深見千三郎から引き継いだ「芸人論」が、次の動画に示されています。 「笑われるんじゃねえぞ、笑わせるんだよ!」 「芸人だったら、いつでもボケろ」 この二つのセリフが、たけしが深見から引き継いだ「芸人論」の中核にあると思います。その内実に踏み込むためのカギが、「芸人だったら、いつでもボケろ」の「いつでも」です。この映画には、大怪我、経営

      • 杉本博司「海景」が飽きない理由を教えてくれた二冊の本ーー安藤礼二『霊獣ー「死者の書」完結篇』と斎藤慶典『危機を生きるー哲学』

        杉本博司の「海景」という一連の作品がとても好きだ。何度観ても、全然飽きない。 海に行くと、ぼーっとして過ごすことが多い。長い時間、海を眺めていても全然飽きない。とても不思議だ。その理由を、知人が次のように教えてくれた。 なるほど。でも、「海景」という作品には本物の海のような瞬間ごとの動きはない。なぜ、「海景」は飽きないのだろうか。 杉本は、「海景」が人間の意識の発生現場を表現しているのだと言う。 「海景」は、太古の人間意識の発生現場を、現代に生きる我々に見せてくれる。

        • 仏教と深く関わる稲盛経営哲学の「利他の心」は、「両利きの経営」によるイノベーションに通じるかもしれない

          「ベンチャーキャピタルをやめてお寺に入りました」 このように自己紹介すると、「えげつない金儲けを反省して出家したんですか?」などとからかわれる。 えげつないかどうかは置くとして、資本主義の最先端を走るベンチャーキャピタルと、古くから私利私欲を戒めてきた仏教寺院は全く違う世界だ。だから、「ベンチャーキャピタルをやめてお寺に入りました」と言えば、「どうしてですか?」とびっくりされる。そして、「実家の寺に入ったんです」と事情を話すと、「なーんだ」と納得してもらえる。 自分の経歴

        「空海と表現の哲学」について

        • 『浅草キッド』:笑い・自由・死者

        • 杉本博司「海景」が飽きない理由を教えてくれた二冊の本ーー安藤礼二『霊獣ー「死者の書」完結篇』と斎藤慶典『危機を生きるー哲学』

        • 仏教と深く関わる稲盛経営哲学の「利他の心」は、「両利きの経営」によるイノベーションに通じるかもしれない

          飽きないものを大切にするということ

          ベンチャーキャピタリストをやめて実家の寺に入るとき、知り合いに「寺は毎日同じことの繰り返しだから飽きちゃうんじゃない?」と言われた。最先端ビジネスをサポートするベンチャーキャピタリストの日常は、新たな刺激に満ちていて、とてつもなく目まぐるしい。そんな仕事をしていた自分に寺の暮らしがつとまるのだろうか。 で、実際どうだったか。まったく意外なことに、全然飽きない。毎日、同じようなお経をあげているのに、全然飽きない。 まだまだ未熟だから飽きないのかもしれない。何事もそうだが、「

          飽きないものを大切にするということ

          死者との対話/末木文美士編『死者と霊性ーー近代を問い直す』から考える

          末木文美士編『死者と霊性ーー近代を問い直す』(岩波新書)を読みました。素晴らしかったです! この本には、末木文美士、中島隆博、若松英輔、安藤礼二、中島岳志という超豪華執筆陣による論考と座談会が収められています。とても読みごたえがありました。近代という大きなテーマをめぐって、さまざまな論点について興味深い議論がされています。そのうち「死者との対話」ということについて考えてみたいと思います。 秋のお彼岸に、お墓参りをされる方も多いのではないでしょうか。墓前で亡くなった方々と語

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          【ネタバレあり】宇多田ヒカルと「エヴァ」のシンクロ/「曖昧な孤独」に耐えて前に進むということ

          『シン・エヴァ』のテーマソング、「One Last Kiss」の次の歌詞がとても気になっています。 誰かを求めることは 即ち傷つくことだった 他者と理解し合えたり、共感し合えるのは、とても嬉しいことです。その反対に、理解し合えなかったり、共感できないときにはとても寂しい思いをします。ひどく傷つくことも少なくありません。 唯一の存在だから分かり合えないでも、理解し合えないこと、共感できないことにはポジティブに捉えられる面もあると思っています。他者の分からなさは、唯一の存在

          【ネタバレあり】宇多田ヒカルと「エヴァ」のシンクロ/「曖昧な孤独」に耐えて前に進むということ

          【ネタバレなし】宇多田ヒカルと「エヴァ」のシンクロ/「One Last Kiss」について

          『シン・エヴァ』の予告編を見たとき、「One Last Kiss」と「エヴァ」のシンクロに全身が震えました。もちろん『シン・エヴァ』を実際に観て、それをさらに深く味わうことができました。なぜこんなにも感じいってしまうのか。それは、宇多田さんと「エヴァ」に共通する「くり返す時間」によるものだと思います。そのことについて書いてみました。 「One Last Kiss」の押韻「One Last Kiss」と「エヴァ」のシンクロについては、まず、以下の冒頭部分にとても重要なことが集

          【ネタバレなし】宇多田ヒカルと「エヴァ」のシンクロ/「One Last Kiss」について