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忘年会シーズンに蔓延る、セクハラまがいの行為をするおっさん。男は女性の敵か!? いや、おっさんが女性の敵か!?『デタラメだもの』

おっさんという生き物は、実に女性の敵だと思わされる瞬間があって閉口。特にアルコールを仕込めば仕込むほど、その醜態は醜くなる一方。世は忘年会シーズンなんかも知らんけれど、そういったシチュエーションに出くわす機会が多くなり嫌んなる。

年末迫るこの時期になると「ワシャまだ仕事中じゃい」という時間帯においても、本年の浮き沈みを忘れやんと、呑んだくれる集団に出くわすことがありんす。皆さん一様に陽気な表情で、公衆の面前ということも失念し、大声を張り上げたり、ピョンピョンと飛び跳ねたり。まぁそれは、日本もまだまだ元気である証左ということで目も瞑れる。しかしだ、女性に肉体的且つ精神的に苦痛を与えるおっさんの所為だけは見過ごせず、苦虫を噛み潰してしまう。

得意先からの帰り道。ゴトンゴトンと揺れる電車の中。ドア付近に立つ一組の男女。ひとりは女性、ひとりはおっさん。どうやら、ひとしきり呑んできた様子だ。集団で忘年会を楽しんだ後に、二人の帰宅方向が同じだったため、最終的に二人きりになったのか。それとも、ハナから二人でアルコールを嗜んできたのか。さすがにそこまでは読み取ることができなかったが、二人とも陽気なご様子。

とある駅のホームに差し掛かろうとした刹那、おっさんのほうが「今日はありがとうな。楽しかったやろ。ほんま、ありがとうな」と恩を着せながら、女性の手に軽く触れた。ダッフル調のコートの裾からむき出した女性の手の甲を、チョンチョンと叩くように触れるおっさん。君は僕という人間に今宵の何某かの恩義を感じているんだから、ソフトタッチなんて許容しなきゃいけないのだよ、と諭すように触れる。

当の女性も恩を着せられたもんだから、それは拒めないと言わんばかり、満面の笑みを浮かべながら礼を述べる。まぁいわゆる、別れ際の挨拶というやつですわね。

あろうことか、ここで車両に軽めのトラブルが発生する。通例通り、スッと停車し、シュッとドアが開けばいいものの、停止線を目掛けて速度を落としたり速めたり。行こうか行くまいか迷うような足取りで、一向にピタリと静止する気配がない。

一般的な別れ際のシチュエーションならば、おっさんは恩を着せるべく女性の身体に軽く触れ、開いたドアから立ち去っていく、消え失せていくところなのだが、進むのか止まるのかといった挙動を続けているがために、おっさんも端切れが悪そう。恩を着せる、手に触れる、ドアが開く、立ち去る、の一連の動作の中途で止められてしまったもんだから、どうしていいのか判断がつかなさそう。そこでおっさん、腹を括ったのか、恩を着せる、手に触れる、という動作を何度もリピートし始めたのだ。

ほんまにありがとうな。手に触れる。楽しかったやろ。手に触れる。また近々呑みに行こか。手に触れる。ほんまにありがとうな。手に触れる。ってな具合。

女性のほうも、ガシッと手を握られようもんなら、声を張り上げて横頬を豪快に打つこともできただろうが、如何せん、ソフトにトントン、軽く叩くように触れてくるもんだから、暴力という名の正義で抵抗することもできない。

もし僕に魔力があったなら、念力でドアを開けて差し上げていたに違いない。もし僕に運転士の免許があるならば、運転席に駆け込み、華麗に電車を停止させ、ドアを開けて差し上げていたに違いない。魔力を手に入れるのか国家試験を受けるのか、どちらの方法が最善かを考えていると、ようやくドアが開いた。

おっさんは最後の恩着せを済ませ、最後のソフトタッチを終えると、卑しい面構えの印象だけを車内に残し去っていった。女性は満面の笑顔で、清々しい挨拶。深々としたお礼を済ませた瞬間、踵を返すが如く、車内のほうへと振り返った。その刹那、戦慄が走った。手にしていた書物を落っことしそうになった。1秒前までお花畑のような笑顔だった女性のその顔が、般若の面を思わせる表情に変貌したのだ。

その顔は、まさに鬼。世の全てを恨み、憎み、呪い殺さんとするが如く、怨念に取り憑かれたような顔をしていた。そして、空いている座席を見つけ出すと、目にも止まらぬスピードで移動し、着座。カバンからスマートフォンを取り出すと、未だ尚消えぬ眉間の皺をよそに、指先を画面の上に走らせた。

嫌だったんだね。ほんとは嫌だったんだね。恩を着せられるのも、ソフトタッチも。そして、その屈辱に耐えながらも、立場上、ピエロを装わなければならない理不尽さも。日本の社会というのは、これほどまでに腐敗しているのか。ひとりの女性を鬼に変えてしまうほどに、おっさんの愚行というのは腐食し切っているのか。情けない。実に情けない。恩を着せてからのソフトタッチというのが、実に情けない。権力か金を手にした生物の末路に思えて仕方がない。

さまざまな酒場を訪れ、一様におっさんの生態を観察するに、おっさんという生き物は、酔うと殊更に女性の身体に触れたがる習性を持っている。そして、部下に対しては「俺は偉いさんだから」という上下関係を見せつけ、店員さんに対しては「俺は常連だから」という上下関係を見せつけ、卑しい目つきをしながら身体に触れる。これが常套手段なのだ。

あと、男女複数でアルコールを呑んでいる際に、女性社員や女性店員に対し、「この中で一番ええ男は誰や?」といった、地球上で最も品を欠いたクイズを出題する。

女性社員は立場上、もちろんそいつを指名するしかない。女性店員は立場上、お会計を負担するであろうそいつを指名するしかない。要するにデキレースなわけ。八百長なわけ。にも関わらず、自分が指名されたおっさんは得意げ。可愛くもないのに、照れた素振りなんかを見せる始末。そうまでして、承認欲求を満たしたいものかね。アルコールとは実に人を惨めにさせるものだと辟易してしまう。

と思っていた矢先、それがアルコールのせいではないということが判明する事件が起こる。

お昼時、後輩と某有名中華料理チェーン店にて、500円で食せるワンコインランチなるものを食した際の会計時。別々でお会計してしまうとレジの時間も手間もかかってしまうので、自分の会計分のマネーを後輩に渡し、あっ、もちろん少し多めにね、後輩に渡し、後輩に一括で精算をしてもらう。

レジの応対をしてくれたのは、中国から来られたのであろう女性。レジに並ぶ列の邪魔にならぬよう、片隅に身を寄せながら後輩の会計を待っていると、厨房から店長と思しきおっさんがレジへとやってきた。何事かと思い眺めていると、「ちゃんと会計できてる?」と心配する素振りで女性の手元をチラッと覗き見た後、中華鍋を豪快に振り回し慣れたゴツゴツした腕を女性の背後へと伸ばし、女性のお尻を鷲掴みにしたのである。

女性はチラッと自身の背後に目をやり、ただ眼前には会計を待つ僕の後輩が立っている。接客は疎かにできない。お尻への意識もそこそこに、正面へと向き直った。その刹那、後輩と目が合った。女性は苦笑いという名の照れ笑いを浮かべる。後輩もそれにつられて笑う。呼応するかのように女性も笑う。後輩も笑う。なんだか恋が芽生えそう。ほのぼのした。実にほのぼのした。

なんて言ってる場合じゃない。店長よ、何をやっとるのだチミは。君は女性の敵なのかアジアの敵なのかハッキリせい。男の恥だけならまだしも、日本の恥晒しにまで下落するおつもりか。情けない。実に情けない。

そう思い、肩を落として歩いていると、正面からおばちゃん3人組がこっちに向かって歩いてきた。3人組が通りやすいよう、僕が先頭になり、後輩と縦列のフォーメーションを組む。にも関わらず、端のおばちゃんの肩と僕の肩がぶつかった。「痛っ、なんやのん?」と言いながら、おばちゃんに睨まれた。その顔はまさに般若の面。恩を着せてもないしソフトタッチをしてもいないのに、鬼の面で睨まれた。

例の車中の女性の精神的ストレスは、僕のこのストレスで相殺されたに違いない。そう思えば、僕も誰かの役に立っているなと胸を撫で下ろし、後輩に誇らしげな表情を見せると、「先輩。さっきの会計、多めに小銭渡したつもりかもしれないですけど、ほんとはちょっと足りてなかったですよ」と言ってのけられた。情けない。実に情けない。

デタラメだもの。

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《3分後にはもう、別世界。》 広告企業勤め+フリーランスの兼業家。『3分で読めるショートストーリー作家+広告クリエイター+マーケッター』の切り口で記事を執筆しています。https://www.facebook.com/osakamoderndisco/
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