NOT ONE


プランク時間=5.391×10の-44乗秒
虚数=2乗したときに0未満の実数になる数

失われた二日間
昨日は火曜日だったはずなのに何故今日は金曜日なのだろう?
洋一はおかしな気分になっていた。
水曜と木曜の記憶が無いのである。
しかし新聞、ニュース、カレンダー等今日の日付を示すものは金曜日なのである。
しかしどの道学校へは行かなくてはならない、
学校は嫌いだ特に算数は嫌いで苦手だ、
理屈では分かるのだ、しかしきちんと理解が出来ないのだ、
ここで躓いてしまったのでもう算数は諦めるしかない、
仕方なく「こういうものだ」と開き直って暗記という手段に出るしかなかった、
当然成績は悪かった、
高校生になったそんなある朝耳の激痛で目が覚めた、
学校を休んで耳鼻科へ行くと飛行機に乗ったのか?
と医者訊かれたが乗ったことすらない、登山は?と訊かれたがそれも無いのだ、
医者が言うには相当高いところから急降下した様な耳の痛みであるらしい、
しかしそんな体験は全くありえないのだ。
そんな耳の激痛が何日も続いたある日の夜おかしな夢をみたのである。

プランク時間
「君に何が起きたのか瞬間を引き伸ばして見せてあげよう」
誰かの声がした、ここは乗り物の中、
外は宇宙空間で眼下には地球が見える、
目の前のスクリーンには昔の自分が写っている、
どうやら小学校の授業中らしい。
「これは5の44乗倍程時間を引き伸ばした10秒ほどの映像だ」
なにげに机に座って授業を受けている小学生の時の私だ、
やがて周りが真っ白になり、
私の姿が一気に粉となって消えてしまった、
周りの生徒も教室も同様にそして何もなくスクリーンは真っ白になり又再び元に戻って映像は終わった。
「これは君が小学生の時に起きた実際の事故の映像だ、」
本当に信じられない程一瞬の出来事だった、
5秒のマイナス44乗程の瞬間なので君たちには何が起きたのかも知る由もない、
脳やら神経系統が生きている状態のまま肉体が一時的に消滅したのだからね。
しかしあまりの一瞬なのでそのまま授業は続いているし、
世界も社会も全く変わっていない。
しかし事実は世界、宇宙は瞬間消滅している、生命も物質も同様だ。
あまりの瞬間に気づく者も感ずる者いない。
しかし君も一度崩壊、つまり死んでいると言う訳だ、
哲学者が『死は錯覚だ』と君たちの世界で言ったのも頷けるだろう、
既に死んでいるのだからね、後は『死こそ生なのだ』とかもそうだろうね」

パラレルワールド
洋一は何を言われているのか分からなかった、
「この崩壊は地球規模などではなく宇宙空間全てが崩壊したのだよ、
ビッグバンが起きたのだからね、
もしかしたら何者かが起こしたのかも知れない。」
洋一は少し理解が出来た様な気がしたがやはり信じられない。
「この瞬間的大崩壊が起こった時何故か君は今居る世界に移行してきたのだ。」
今いる世界に移行?どういうことだ?
「そうだ、君は別な並行宇宙に居たのだよ、
その世界は人間時間とやらの2日のズレがある、
そこから君はやって来たと言う次第だ。
殆ど同じ世界だから気が付かなくて当然だ。」
では本来の自分は2日のズレがある別の世界に居るということなのか?
そしてビッグバンとやらは別の世界でも起きたということなのか?
「このビッグバンは全てのパラレルワールドでも同時に起こるものらしい、
パラレルワールド同士には時間のズレがある、
そのズレがあるから君たちの様な入れ替わりが起こることはありえないと我々は考えていたのだがそれが起こってしまったのだ、
君は2日後の世界にいきなり移行したのだから、
空白の2日というものがある筈だ。」

空白を取り戻す
なる程言われてみれば自分が小学生の時水曜と木曜の記憶が無くいきなり金曜になっていたと言う不思議な経験があるのもうなずける。
「君は映像でも分かる様に小学生だった、
しかもこの時は一番大事な算数の引き算足し算の授業だ、
そこでビッグバンによる入れ替わりが起きてしまったのだ、
算数、数学の基本をすっ飛ばしてしまったと言う訳だ。」
確かに足し算引き算は理屈では分かるのだが理解は出来ていない。
「今君をここへ連れてきたのはその失われた二日間の算数の授業を君に取り戻して頂こうというのが目的だ、
それにしても君たちの世界の授業は酷いものだ、
これでは単なる点数取りの為の教育だ、
正解が殆ど一つしか無いのもおかしい、
なので我々の世界の数学をこれから君に伝授しようと言う訳だ、
実はもう既に伝授し終わってはいるのだがね、、、」

デジャヴュ
ここで一つの疑問が湧いてきた、
2つの世界の自分が入れ替わったという事は別世界のもう一人の自分はどうなったのだろう?
「金曜日から火曜日に移行したもう一人の君は二度水曜木曜を経験することになる、彼はその2日間がどこかで同じ経験をした様な不思議な記憶とも言えるデジャヴュという現象を経験することになる、デジャヴュの正体はこれなのだ。
ところで並行宇宙は時間のズレはあっても君は君だ、
がしかしこの入れ替えが起こってからは君たち二人は違う者となった、
君には我々の数学を教えたがもう一人の別世界の君は普通の人間界の算数の授業を受けて(しかも二回も)普通の高校生となっていると言う訳だ、
つまり君たちを境目に時間のズレ以外は殆ど同じだった2つの世界が違う世界となるのだ。」
そして最後に
「君とは将来違う所で合うことになるだろう。」

トントン過ぎる拍子
洋一は眼が覚めた、夢の記憶は無い、
耳の痛みを堪えて嫌々通学して授業を受ける。
不思議な事に非常に良く理解できる、しかも稚拙で眠くなるのだ、
数学は問題を見た途端に答えが出ている、こりゃあどうした事なのだろう?
いきなり成績が良くなったので教師達からはカンニングの疑いをかけられた事もあった。
しかし既に洋一の興味は宇宙物理学、量子力学に向けられていた。
「こんな檻から開放されて大学で好きな研究に没頭しよう。」
当然受験は何の苦もなく帝日大学に合格、
進学校でもない高校から初の帝日大合格に周りは驚愕を隠せなかった様だ、
しかし洋一にはそんな事はどうでも良く早く大学施設のスーパー量子コンピューターを試したかったのである。
「やはり予想通りだ、瞬間崩壊は計算でも出せる、」
そこでレポートを提出することにした。
数日経ったある日学部長から呼び出しがあった、
「君のレポート読ませてもらったよ、
ここまでくれば宗教的とも言えるのだが確かに面白い内容だ、
計算も驚くことに矛盾が無い、
しかしこの内容では周囲の科学命の学者連中からの風当たりはかなり強い筈だ、
そこで辛い提案なのだが一度学会に出てこのレポートを発表しみてはどうかと考えている次第だ。
そこで君はこの国の物理学会の実態を知ってもらいたいのだ、
私が推薦状を出す、嫌な体験かも知れないが悪いようにはせんよ。」
「推薦状を出して頂くのはありがたいのですが、
それでは学部長のお立場が悪くなるのではありませんか?」
「私も刺激を求める人間でね、
学長の怒り狂った顔が見てみたい気分になっている次第だ、
ああいう人物が学長にのさばっている以上は新たなものは生まれるはずが無いと私は考えている、何度も言うが悪いようにはせんよ、、」

火傷
学会にて、洋一は研究発表を終えた、
案の定周囲からの反応は酷いものだった。
「今でも何度でもビッグバンかね?私を何度火傷させる気かね?」
「新興宗教でも立ち上げたら良いのでは?」
「帝日も地に落ちたものだな、こんな戯言を、、」
「ここには海外からの客人達も来ているんだ、
我々に恥をかかせないでもらいたいものだ、」
学会は終わった、学部長の言ったとおりだった、
計算式を見ようともしない連中だった、
戯言かどうかはこの計算式を見れば分かるはずなのに、
どうせ一刻も早く夜の街へ繰り出したいだけなのだろう。
帰ろうとしたその時後ろから声をかけられた、ヨーロッパ人なのだろうか、
「始めましてセロン研究所の者です、貴方の理論に興味を持ちました、
よろしければ我々の研究所に来ませんか?
我々の施設には必要なものは何でも揃ってます、
加速器は使いたい放題、シャトルで宇宙ステーションにて真空での実験、
後ハッブルも使えます、
貴方がその気なら明日にでも特別機用意できますが。」
学部長の言っていた「悪いようにはせんよ」を洋一は理解した。
条件は最高のものだった。
しかもあのセロン粒子加速器のある研究所で研究設備は当然のこと宿泊食事何と言っても高額な給料まで保証されるのである。
洋一は二つ返事で了解した。

準備前
セロン研究所にて施設内を案内された、様々な研究が行われていた、はっきり言って信じられないSFじみた研究だ。
瞬間移動、タイムマシン、永久機関、宇宙エネルギー、UFO制作、死後の世界への旅、次元移動、パラレルワールドとの通信、等など、、
しかも各研究者には一棟の建物が与えられている。
「貴方にはこの建物を使って頂きます、この建物は以前瞬間移動の研究に使っていたのですが今は研究発表の準備に祖国に帰っております、
ですが瞬間移動の装置は既に別な場所にありますので彼が突然ここに現れる事はありません、
後必要な機材等ありましたら何なりとお申し付けください、
出来るだけ速やかに御用意いたします、
それと近日中に所長室へ来るよう連絡があるはずです。では、、」
案内係はそう言って部署に戻っていった。
必要な機材は決まっていた、それにしてもこの4階建てのビルが自分のものとは驚きだ。
中に入ると未だ各部屋には何も無かった、唯4階の居住スペースは家具、食器、衣類に至るまで全て揃っていた、しかも全て最高級品だった。

種明かし
揃えてもらった機材をセットしていざ実験スタートと言う時に館内放送で所長室に来るよう呼び出された。
「海辺洋一君だね、私はここの所長を務めているソルスだ、よろしく。
ところで君の必要機材は実にシンプルなのだが、あんなもので良いのかね?」
あんなものと言ってもとても一般の大学では買えない代物だ。
「超高性能ビデオカメラと解析度の高いモニター、
そして鉄の塊、これらで何をするのか私にも興味がある。」
「はい、プランク時間を出来るだけ引き伸ばして観測するのが目的です。物質の瞬間崩壊が観測されたらビデオ撮影をしてエビデンスを捕獲するのです。鉄の塊の瞬間崩壊の撮影を根気よく待つしかありません、
10のマイナス44秒を拡大して数秒にでも出来たら必ず瞬間崩壊が観測されるはずです。超スローモーションの技術が必要となる訳です。」
「面白い、実に面白い、君の『常時ビッグバン説』が証明されたらとんでもないビッグニュースだ、期待しているよ。」

共時性の力
実験はスタートされて進行中である、洋一にはもう一つ気になることがあった、
ビッグバンというのは単なる超巨大爆発だとしても何かと繋がっているのではないだろうか?
もしくはその何かと同じものなのか、何かそのものの事なのか、、、
そこで自分の作った式に虚数を入れ込んでみた、
すると一気に回答が来た、
その瞬間実験室からアラームが鳴った、
何か映像が変化した合図だった。
急いで実験室に入りモニターを見た、確かに鉄の塊は消えていた。
しかし実物は実験台に存在している。瞬間崩壊を捉えたのである。
実験の様子を撮影していたもう一台の普通のビデオカメラの映像を切り取って所長に実験の成功を伝えた。そして所長直々にこちらに向かうとの事だった。
何故か外が騒がしい気がした、
所長が到着してビデオを見て言った、
「これは凄い発見ではないか、しかし偽映像の疑いもかけられそうだ。」
「所長、私は自分の評価、ましてや功績等どうでも良いのです、
そして今からそんなものは無意味となるような世界がやって来てます、
すぐそこにです。」
所長の携帯が鳴った、スピーカーホンだった、
「所長、セクター1で空間から永久機関及びビッグバンクラスのエネルギーの摘出に成功しました、」
「所長、セクター4です、今死後の世界におります。」
「所長セクター3です、重力からの開放に成功、今研究員が空を飛んでます。」
「帰国中だったセクター5の研究員が瞬間移動で戻ってきましたしかも機械なしです、」続々と研究成功の報告が来ていた。
「どういうことだこれは、もしかして?」
「そうですシンクロニシティです、皆一斉に新たな現実を理解して実験を成功させている訳です。」
「君が起こしたのかね?」
「そうではないと思いますがそうかも知れません、
新しい事実を発見した訳ですから、
これから世界が変わっていくのでしょう、しかも信じられないスピードで。」

エデン
ほんの数日で世界は大きく変わった。
世界と言うよりは人間が変わったのである。
自由に空を飛べ、何処へでも瞬間移動でき、
永遠のエネルギーを個人が所有し、など
確かにそれはそうなのである、
常時ビッグバンによる物質としての崩壊状態にいるのであるから。
つまり物質でなはない状態にいるのであるから。
既に地球には人間は殆ど居ない、
何処か好きなところへ瞬間移動してしまったのであるから、
居ても物質では無いので生命の営みの必要は無いので、
地球の生態系は原始に戻って非常に美しい惑星となったのである。
洋一はこの様な状態が何か大きな一つに収束しているようにみえてきた。
そして今いる宇宙の外側に出ることにした。

連続瞬間ビッグバン
やはり宇宙は球体となっていた。
そして収縮している、
「やあ、久しぶりだね、君が高校生の時に一度合っているね。」
そこにはもう一人の洋一がいた、
「あの時に夢の中で僕に知恵を与えてくれたのは貴方ですね?」
「夢ではないよ、それに自分に向かって貴方とは滑稽だな。
そして君は虚数を理解して自分の理論にそれを当てはめた。
計算式に虚数を入れ込んだ結果がこれだ、」
「そう、その結果ビッグバンは全宇宙の全生命の誕生ごとに起きていることが分かった、そして今我々はその瞬間に立ち会っているという訳だ、」
「さあ随分と宇宙も小さくなったものだ、そろそろ始まる、
次の洋一の誕生の瞬間だ、」

失われた通学路
今まで学校で授業を受けていたはずなのに何故自分の部屋にいるのだろう
洋一はおかしな気分になっていた、
学校から部屋に戻った記憶がないのである、
時計をみると確かに11:30、これから算数の授業が始まる時間だ、、


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