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減薬の基本は、患者さんが自分の判断で薬の調整ができるようになること            ロングインタビュー              精神科医・山田宗良医師  


精神科・心療内科・漢方診療 こころころころクリニック(福岡県糟屋郡)



漢方交流会に参加していた精神科医を訪ねて!


 2023年11月19日に福岡市で開催された第56回日本漢方交流会全国学術総会に参加してきました。
 この学会は、福岡市南区で漢方薬・プラム薬店を経営する栗田雅人氏(日本漢方交流会会員)から紹介を受けて参加しました。当日は栗田氏による「向精神薬による離脱症状、後遺症による様々な症状に対し、漢方エキス製剤を用い症状の緩和を試みた3症例」という発表を聞くことができました。会場には漢方薬のエキスパートの様々な専門家、そして漢方製剤のメーカーなどが参加していました。かねてから向精神薬と漢方薬の関係を学びたいと思っていましたので良い機会でした。この会場で、漢方薬店の栗田雅人氏と当事者の唐仁原直子氏により、同会に参加していた精神科医の山田宗良先生とお話しする機会を得ました。山田先生が漢方薬による治療を取り入れているということをお聞きしたので早速、取材をお願いしました。突然のお願いにも関わらず翌日の取材を快諾いただき、11月20日糟屋郡篠栗町にある山田医師の「こころころころクリニック」に栗田氏、唐仁原氏とともに訪問しました。

第56回日本漢方交流会全国学術総会福岡大会
プラム薬店の栗田雅人氏と唐仁原直子氏

 篠栗町は、アクセスが博多から電車で30分程度の自然豊かな地域です。クリニックは最寄り駅の篠栗駅から徒歩2分という便利な場所にあります。
 国道に面した南欧風なデザインの建物。敷地内に薬局があり、入り口には手書きの看板が見えます。

手書きの文字と丸が印象的
        隣接地にある、ささぐり薬局は保険調剤の漢方薬も取り扱う。煎じ薬、エキス製剤に対応しています。
ゆったりしたカフェのような待合室
メンタル関連の図書も充実 患者さんに貸出も行う

第一目標は「服(の)んでいれば大丈夫」という状態になること


月崎 
「こころころころクリニック」ってなんだか可愛い名前ですね。どんな意味なのでしょうか?
 
山田
 こころってね、ころころ転がって定まらないので困る。もう一つは固まってしまってころころ転がってくれないので困る。どっちにしても“ころころ”だからね。ここの開院前に詩人の工藤直子さんと知り合いになって、開院前夜に篠栗町営施設クリエイトでコンサートをしたのね。クリニックのテーマソングも作ってくれたの。その時にクリニックのプレイルームで、受付の上にかかっている絵を工藤さんに描いてもらったんだけど、その下書きのこの丸と文字をそのまま看板にしたのよ。

ころころ がたくさん描かれた絵はクリニックの受付に

月崎 とっても温かくてユーモラスで素敵です。今日は急なお願いに応じてくださりありがとうございます。このクリニックは少しここにいるだけでなんだか笑顔になります。私は千葉県に住んでいて主に関東圏で向精神薬の減薬と回復について取材をしていますが、九州方面の方から相談を受けることもあります。先生のクリニックも紹介して良いですか?
 
山田 それはいいけど、うちは新規の方は半年待ちです。この間来られた患者さんは7ヶ月待ったって言ってありました。紹介があってもなくてもどなたでも平等にみます。
 
月崎
 そうなんですね。では受診したい方は気長に半年間待つ感じですね。ところで私は向精神薬の減薬について取材をしているのですが、先生のクリニックに向精神薬の減薬の支援を主訴として来院される方というのはどのくらいいらっしゃいますか?

山田 減薬が主訴の方?それはほとんどおられないと思いますね。

月崎 では先生のところに転院してきてから、お薬がだんだん減っていくというような感じなのでしょうか?
 
山田 そうですね。まず、転院してこられた患者さんの場合、今出ている薬が私の出し方と意見が一致するかどうかを見ます。意見が一致しなければ、お話しして切り替えたりとかしますね。それでその時に要らなさそうなものは、可能であればなくしてしまいます。ただ面白いのは、私の頭の中ではどう考えて効くはずがないと思っている薬が、著効していたりする。その時は具合の悪かった時のことをかなり詳しく、根掘り葉掘り聞いて教えていただく。そうするとその薬が使えるようになる。SSRIは抗うつ剤としては使えないと思っていましたが、こんな風にして出番が分かるようになりました。

月崎 明らかに多剤処方で不要と考えられる薬がある場合には、その薬を出さなくするということでしょうか?
 
山田
 多剤だからではなく、不要だと思うかどうかですね。不要だと思ったら、原則としては一剤ずつ動かすのですが、これはまとめて削っても大丈夫かなって思うものについてはまとめて減らすこともあリますね。
 
月崎 そんなに多剤処方ではないが、もう少し減らしていったほうがいいのかなという状態になった時には徐々に減薬していくというイメージでしょうか?
 
山田 第一目標は「服(の)んでいれば大丈夫」っていう状態になってもらうことです。

月崎 ああ、そうなんですね。確かに「服んでいても大丈夫でない状態」の方が少なくないですよね。
 
山田 まず「服んでいれば大丈夫」という状態にしていき、その次にどれか減らせないか?っていうことになってくる。ところがある程度少なくなってくると、患者さんに「減らしたい」という気持ちと「減らすのが怖い」という気持ちの両方が出てきます。その時はこのくらいなら減らしても違わんだろうと、患者さんに納得していただけるくらいの量を動かします。

いつでも元の量に戻せる処方の仕方で減薬を提案する

月崎 減薬を開始する場合はどのようなペースで実行するのでしょうか?
 山田 1錠の2分の1の時もありますが、大体1錠の1/4ぐらいを「落としてみますか?(4分の3を服用)」みたいな感じで提案します。その場合は半錠が1つと4分の1が2つというように薬局に作ってもらいます。減薬する場合でも、原則として薬の総量は元のままの量になるように処方します。それは患者さんが服んでみての感じに合わせて、自分で薬の量を簡単に調整できるようにするためです。「減らして具合悪かったら戻してね」とお話しして減薬をやっていただいています。
月崎 患者さんが自分の感覚で調整しやすいように、その日の薬の量を簡単に選べる選択肢を作るということですね。
 
山田
 急ぎたがる患者さんもおられるので、月1回のペースで落とすこともありますね。ともかく「調子が悪かったら戻せばいいから」ということにしておくと、比較的早いペースの減薬でも問題が起こりにくいと考えています。
 
月崎 先生が“減薬という治療”をしていくにあたり、診断名や薬の種類、たとえば統合失調症の方で抗精神病薬の減薬は難しいから扱えないというような基準のようなものはありますか?
 
山田 そうですね。統合失調症の人で、特に長期に抗精神病薬を服薬しておられる場合、薬を完全になくしてしまうことには、やっぱりちょっと勇気がいりますね。滅多に提案できない。明らかに減薬が必要、と考えられるサインがあるかどうかをまず考えます。
 
月崎 明らかなサインですか?
 
山田 たとえば眠気やだるさとか、錐体外路症状とか、口渇とか、その他の副作用などですね。何か患者さんにとって良くない状態がある場合で、その理由がお薬が多いためだろうと判断した時は、減薬はやります。いつでも戻せるような形で渡しますけれど、やります。ときには辛抱してもらわざるを得ないこともありますが。
 
月崎 ということは、診断名や薬の種類によらず薬を減らすことはできると考えていらっしゃるわけですね。
 
山田 それはその患者さんにとっての、今の適切な薬と量を見つけていくという感じですね。
 
月崎 精神科の薬を何種類も多剤処方されている方がいると思いますが、減薬していくときにどの薬から減らすのか、順番などについて決まったルールなどがありますか?
 
山田 私も多剤になってしまっている人は、見せられないくらい“汚い多剤”です。先ほど言いましたように、まずは「このくらい服んでいれば大丈夫」というところまで持っていくのが第一です。その過程で多剤になってしまったりする。そこから1つずつ減薬していくということです。しかし原則はそうなんだけど、そうも言っていられないくらい多剤になってしまっている人もいる。その時には、「この薬はおそらく役に立っていないよね」という薬を患者さんと話し合い、過去の体験や服み忘れた時のことなどを聞いてみて、不要と思われる薬に見当をつけて落としていく感じですね。

月崎 抗うつ薬や抗精神病薬などをどれから減らすとか、睡眠薬は後にするなど、順番を決める基準のようなものはどうでしょうか?
 
山田 原則は現在の病状と薬の特性を考えて要らなさそうなものを候補にする。戻せる形で1つずつ。今一番要らなさそうなものからなので、薬の種類はあまり考えない。不安の少ないものから。言葉にするときれいだけど、ジタバタしながらやっています。

月崎 ということは患者さんの過去の処方による体験とか、服み心地とか、薬の効き目などのエピソードを先生がじっくりお聞きになり、その中で患者さんとの話し合いのもとで、「もし減らすならこれかこれからだね」みたいな感じで決めていくということですね
 
山田 電子カルテだからその点は便利なんですよ。患者さんが忘れている過去の発言なども記録に残っているから、それを元に話ができる。案外記憶間違いも多い。正反対に覚えておられることもある。

減薬中の不調時、薬を戻してもリカバリーできない人が一定数いる


月崎 患者さんの中にはベンゾジアゼピンを減薬するための英国のアシュトンマニュアルというマニュアルの日本語版を読んでいる患者さんは多いのですが、先生はアシュトンマニュアルについてはどうお考えですか?
アシュトンマニュアル 日本語版
https://www.benzo.org.uk/amisc/japan.pdf
山田 私は、アシュトンマニュアルを参考にした経験はないですね。それはどういうやり方ですか?
 
月崎 ベンゾ系の薬を、セルシン(ジアゼパム)やメイラックスなど作用時間の長い薬への置き換えをしてからゆっくり減らしていくという方法です。

山田 それはやりますね。短時間作用性の抗不安薬で薬の切れ目を意識してある場合は、多分有効だろうと思います。自分で考えついたんだか、どなたかの意見を参考にしたのだったか定かではないけれどやります。そのやり方に一番向いていた抗不安薬のレスタス(※フルトプラゼパム 強/超長時間型90時間以上)という薬が製造中止になってしまったのね。痛い目にあっています。あれでないとダメだという人も結構おられるし。メイラックス(※ロフラゼプ酸エチル 弱/超長時間型112時間)はそういう意味では作用自体が弱いですから。切れのいい薬を、量を加減して使うのが基本なのよね。
 
月崎 メイラックスという薬ですが、私の周辺ではメイラックスの一気断薬で具合が悪くなった人が多く、作用時間が長いせいか断薬してずっと後、1ヶ月〜3ヶ月後とかに急に体調を崩して、そこから服み直しをしても戻らないという方が、特に女性で多いように思います。
 
山田 それが離脱症状なのかどうなのか?・・・。減薬するときにいつも言うのは「たいていの人は減量して具合が悪いなと思ったら薬の量を元に戻せば治るけど、1割くらいの人はガタガタっと悪くなって一からやり直しみたいになることがある。それがいやなので、減薬は慎重に行いたい」という話を患者さんにします。

薬局の協力により、きめ細かにカスタマイズした処方ができる


月崎
 先生の所にいらっしゃる患者さんで減薬をしていくときの一番小さい単位はどのくらいですか?
 
山田 一番微量ずつ減らす場合で10分の1ずつですね。これは珍しくはない。8分の1の場合もあります。1人だけレスタスを100分の1錠単位で減らした人がいるけど、その人は薬剤師の友達がいて「やってあげるよ」と言ってもらったというので。これは例外。通常は4分の1錠未満は薬局にお願いして粉砕してもらって、乳糖あるいはビオフェルミンでかさ増ししてもらっています。それでも1包が0.1gくらいで、こちらのオーダー通りに作ってくれています。
(※かさ増しのことを薬局の用語では賦形(ふけい)といいます)
月崎 先生のクリニックのすぐ前に薬局があるのですが、先生がその処方箋にその指示を書くと薬局が対応してくれるということですね。関係ができている。
 
山田 もともと、漢方の煎じ薬にも対応してくれる薬局さんということで、クリニック開業時に募集してきていただいたので、そういう作業に慣れておられるのだと思うのです。生薬だと0.1g単位で調整するのが当たり前なので。
 
月崎 そうなんですか。では先生の処方箋を、こういったきめ細かな処方に慣れていない薬局さんに持っていくとちょっと対応が難しいということもあるのでしょうかね?
 
山田 そうですね。あるかもしれません。漢方薬で、「このメーカのは扱っていません」というような疑義紹介はあるけれど、「粉砕をやれません」というのは聞いたことがありません。たまたまそういう方にその処方を出していないだけかもしれませんが。薬局によって対応が違う部分が大きいと思います。大手のO薬局はやってくれているようです。一般論として、煎じ対応のところはやってくれる印象です。
 
月崎 錠剤の粉砕や、かさ増ししてもらうのに自家製剤加算あるいは計量混合調剤加算といったお金が少しかかりますね。でも薬局にそれをお願いできれば、患者さんにとって微量ずつ減らすことが随分楽になりますね。
(※自家製剤加算、計量混合加算など加算についてはまれに地域により加算方法や解釈が異なる場合があり、どの程度変化があるかは地域差があります)
 
山田 はい。薬局には面倒なことをお願いしていると思っています。10分の1単位を一日2袋とか3袋とか、それも服用時で量が違うという細かな注文を出すわけですから。作業が面倒なだけではなく、そういう作業をしたあとは、分包器から残った粉を洗い流して乾かさないといけないようです。その方が、よほど手間暇がかかるんじゃないかな。苦情を言われたことはないですが。

月崎 そういう注文に応じてくれる関係が薬局との間でできているということですね。このシステムがあるから、先生のところで減薬をする患者さんは、このようにしてカスタマイズされたお薬を処方してもらえるわけですね。
 
山田 そうですね。そういえば以前はここに通院していて、しばらく別のクリニックに通っていたある患者さんによると、そのクリニックでは薬は2分の1以下には対応してくれないということで、「それより細かくするなら、減らさず服むか、断薬するかだ」と言われ、もっと細かい調整をしてほしいということでこちらに戻ってこられた方がいらっしゃいます。クリニックの問題ではなく、薬局の問題でしょうね。
 
月崎 ところで、先生は10分の1という量でも症状に違いが出るとお考えですか?それともそれは患者さんの気分の問題が大きいと考えていますか?
 
山田 それは10分の1と10分の2では服んでもらっての体感が違うので。10分の1だと平気だけど、10分の2は眠たいとかおっしゃるから。薬剤感受性の個人差は最低でも1000倍と教育されました。それと発達の凸凹をお持ちの方は、最低ミリ数の錠剤の10分の1単位で考えないと量が大雑把すぎるというのはある程度常識だと思います。
 
月崎 それは常識なんですか。そういう考え方もあるとは聞いていたのですが…。発達障害の患者さんのほうが、薬に対する感受性が強い場合があるという理解で良いでしょうか?でも、私の周辺の発達障害の方の薬がそんなにデリケートに扱われているというようにも思えないのですが。
 
山田 全員ではないけれど、そんなことが結構あるということでしょう。そういう意味では、発達の問題だけではなく、抗生物質を長く服薬してきた方からも、薬に関する強い反応が出ることがあるようです。アルコールを全く受け付けない方も用心が必要だそうです。うちでは問診票にその項目を入れています。該当する方には、風邪薬を服んだ時の反応をお聞きしています。
 
月崎 私の患者さんへの取材の経験では、幼児期から体が弱く、よく抗生物質などを飲んでいた方も多いように思うのですが、そういうヒストリーとも関係があるのでしょうか?
 
山田 抗生物質に関しては私自身の経験ではなく、そういうデータ(経験の蓄積)があるのだと思います。そういう情報が大事です。

患者さんが自分の判断で薬を調整できるようにすることが次の目標

月崎 患者さんが減薬を希望した場合に減薬の計画表のようなものを患者さんと立てて、スケジュールを渡すというようなことはどうでしょうか?
 
山田 書いたものを渡すことはしてないですね。
 
月崎 そうですか。多剤処方を少しずつ順番に減らしていく場合、時間的な目安などを患者さんと共有するということはどうでしょうか?
 
山田 基本的には抗うつ薬だと、3週間減らしてみてなんともなければO Kというのが教科書的には言われていると聞いています。それは話します。そして一回減らして様子を見ます。悪ければ戻せる形でお渡しして。3週間は切りが悪いから4週間が多いです。急ぐならそういう感じですね。抗精神病薬だと2ヶ月くらいは様子を見るかな?減量しても眠くてどうしようもない時に、3剤くらいを1剤単位で1週間毎に中止した経験もあります。これは漢方薬が効いて病状が突然改善した例です。栄養療法をしても、半分くらいに減量しなければならないことがあると藤川徳美先生はおっしゃっています。
 
月崎 なるほど。
 
山田 抗不安薬だと、1〜2ヶ月様子をみて次を考えます。患者さんの調子を聞いてみて「もうちょっと減らしてみる?」と。それでどういうペースで減らしていくのかを話し合いますね。最低単位としては1/10錠単位の減薬が必要な人もいますし、1/4錠単位で考えても良さそうな人もいますし、もっと大雑把でいい人もおられる。その方にとって、薬が現在の量になるまでの過程があるじゃないですか。そのプロセスを確認して、ある程度減らしても大丈夫だっていうことが分かっていれば、1/10という単位まで用心しなくてもいいと判断できます。ただそこからは気持ちの問題がすごく関係してきますので。不安を持っている中で減薬するとその不安が原因で色々な反応が出てくるから、安心して減らせる量はどのくらいか考えながらという感じで進めていきます。しかも必ず戻せるようにして処方はします。
 
月崎 そうなんですね。減薬している途中でも、それ以前に服薬していた量の薬が患者さんの手元にあるという安心感の中にいられるように処方を行うということですね。

遅延性の激しい離脱症状への対応

月崎 減薬だけでなく常用量の服薬でも激しい離脱症状が出て治らないという方、一気断薬をきっかけに始まった離脱症状が固定化してしまったといった症状についてはどうでしょう。
 山田 漢方学会で栗田先生が発表された、向精神薬断薬後も疲労倦怠感、記憶と集中力の問題 羞明感 味覚異常、聴覚過敏 慢性的な微熱、手指の拘縮、むくみといった離脱症状が長期にわたって継続する場合があるという発表は目から鱗でした。発表されていた色々な症状については、私自身は体験していないつもりだけれど、因果関係に気がついていないだけかもしれないと思いました。
 
月崎 栗田さんの発表した断薬後の症状に対する山田先生の感想に驚きました。大多数の医師は自分の認識していない症状を患者さんが訴えると「教科書にもないからあるはずはない」と患者さんの気のせいや心因性ということにして取り合ってくれませんから…。そこで、質問ですが、もしどうにもならない離脱症状の方がいらした場合は、何か手立てはありますか?
 
山田 目の前の事実から出発するのが科学ですから。詳しい医学書に載ってなくても、世界初の症例報告かもしれないと思ってお話しします。どんなことでお困りなのか診せていただき、何か良さそうなことがあればやってみますという提案はしてみますが・・・・
 
月崎 実際の患者さんがいらしてみないと有効な手立てがあるかどうかはわからないということですね。来てはダメということではなく何か提案はしてみるということですね
 
山田 そうですね。なにしろ、やっと手探り状態になったところですから。

身体を整えるための栄養療法的アプローチ


月崎 
東洋医学では、本来患者さんが持っている回復力を引き出し、体質を改善していくといった考え方があると思います。私はここ数年の取材の中で漢方や栄養療法などで、まず身体全体の状況を整えていくことで、向精神薬を楽に減薬をしていけるのかもしれないというような印象も持っているのですが、先生はその点どんなご意見ですか?
 
山田 それはもう、大事なことで。私の診察でもまず皆さんに勧めていますよ。
 
月崎 そうなんですね。回復に向けて身体を整えることについて具体的にはどんな提案をしていますか?
 
山田 まず、回復ということについて考える必要があります。発病前の元気な頃に戻るイメージをお持ちの方が多いのですが、それではいけません。故中井久夫氏がおっしゃっているように、それでは同じ躓(つまず)きの石にまた足を取られる可能性が大きい。「折角発病したのだから、またならないようにしましょう。折角というのは角を折ると書きます」とおっしゃっていました。
 なぜ躓いたのかを理解して、そうならないように手を打つのが回復です。次に栄養療法に関しては、広島の藤川徳美先生のブログや Facebookの投稿などを参考にしています。それらの情報をまとめて、さらにあの情報もあった方がいいんじゃないか、これもあった方がいいんじゃないかと思う色々な情報に加え、ちゃんとしたサプリを安く買う方法など入れ込んで、書面を作って患者さんにお渡ししています。私がどういう考え方で治療の提案をするのかを印刷して渡します。来院者の8割以上は栄養療法が有効だと思っています。
 
月崎 そうですか。その患者さんにお渡しする書面というのがどのような内容か少し教えていただけますか?
 
山田 簡単にまとめると
1.      まず蛋白質と鉄を充分に摂り糖質を抑える
2.      ビタミンB群を摂る
3.      他の水溶性ビタミン(B3・C)や脂溶性ビタミン(E・D3)・ミネラルを摂る
というような順番で栄養状態を改善していく方法です。サプリメントの使い方などを、藤川医師の考えをベースに具体的に説明しています。藤川先生も、まだお考えは変化していますのでキャッチアップは欠かせません。本当かなと思うところもあるし。

月崎 なるほど、それで、先生の診察室の棚にはサプリメントがあるのですね。
 
山田 はい、栄養の話をすると、必ず患者さんから「ここで買えますか?」という話になるので。サプリメントは送料がかからない量をまとめ買いをして、仕入れている価格そのままで、患者さんにお分けしてます。面倒なので1円単位は切り上げです。買った値段より安く売ってはいけないという縛りがあります。1個で最大9円の暴利です(笑)
 
月崎 それはいいですね。サプリメントの選び方も難しいですから、先生のところでそのように入手できると患者さんも安心できますね。
 
月崎 藤川徳美先生の本も、待合い室の本棚にたくさん置いてあリますね。食事の指導などもかなりやっていらっしゃる感じですが。
 
山田 私も本を参考にしながらやっています。何人もの患者さんが、例えば激しい強迫性障害の方、躁うつ病圏の方、統合失調症圏の人も食事で嘘みたいにスッと良くなるという場合を経験していますので、栄養療法は間違いないなと思って勧めています。お勧めする以上は自分もやらなくてはと思って、自分で人体実験しています。
 
月崎 栄養療法を先生ご自身もしていらっしゃるのですか?
 
山田 自分でもと思って、人体実験をやっています(笑)

月崎 どんなふうにしてらっしゃるのですか?
 
山田 実は以前は2〜3人前ぺろっと食べるような大食漢だったんですよ。それをほとんど蛋白質中心の食事に変えて5年以上やっています。プロテインは3年以上。プロテインはホエイである必要はないと思っているのね。当初は大豆プロテインを朝37グラムほど飲んでて、1年ちょっとして検査したら尿素窒素(B U N)が17くらいまでしか上がらなかったのにはびっくりしました。分子栄養学的栄養療法では最低20を目指します。自分ではちゃんと食べているはずなのですが、それにもかかわらず分子栄養学的に見ると低蛋白だったのね。それで朝晩プロテインを飲むようにしたら、4週間で尿素窒素(B U N)が21ぐらいまで上がりました。この体験からずっとその量で飲んでいます。1年以上尿素窒素は規定量をクリアーしています。人体実験としてはもうぼちぼち減らしてもいいのかなとも思うけど。減らしたらどうなるかというのを見るのも実験。
 
月崎 なるほど。確かに人体実験ですね。尿素窒素の基準値は8.0〜20ということですね。実感として効果はいかがですか?
 
山田 やってみてるんだけどね。しているから何がいいのかっていうのは全然わからない。元が悪くないから(笑)。だから悪いことはないことだけはわかった。
 
月崎 そうみたいですね。とても調子が悪い時には効果がはっきり見えるけど、まずまずの健康体だとあまり感じられないという傾向がある気がします。私も自分で色々人体実験してみています。よくわかりませんが、まあ元気です(笑)

向精神薬と漢方薬それぞれの得意なところをいいとこどりする


月崎
 先生は先日の日本漢方交流会全国学術総会にも参加なさっていて、日々の臨床にも漢方薬を取り入れていらっしゃるということです。そこで漢方薬について教えていただきたいのですが、治療における具体的な漢方薬の使い方として、たとえば西洋薬Aを減らした時は代わりに漢方薬Bを入れていくというような、体系的ノウハウはあるのでしょうか?

 山田 それはありません。まず、その症状によって、漢方薬が得意とするものと向精神薬が得意とするものがあると考えています。ある症状について、西洋薬と漢方薬の効果がほぼ一致するという場合については漢方薬に置き換えをするということもあります。しかし効果やその範囲がぴったり一致しているということは少ないのです。元々の考え方も漢方医学と西洋医学では異なりますから。よく言うのは、ユークリッド幾何学と非ユークリッド幾何学みたいな関係で、同じ言葉でも意味が違いますから。そのため患者さんの症状を見ながら、薬のいいとこどりをするみたいな出し方が基本ですね。それぞれの薬に得手不得手がありますから。よく言えばオーケストラのコンダクターみたいなイメージです。なので多剤になりやすい。カクテル処方です。 また、もちろん症状によるのですが、“この向精神薬の代わりにこの漢方を”というところまで漢方薬にパワーがあるのか?というところもあります。中国で発表される統合失調症の方剤。日本で定着しているものを知りません。加味温胆湯をおすすめの先生もおられますが、置き換えるにはパワー不足だと思います。

月崎 西洋薬と漢方薬を使うと多剤処方のカクテル処方になりやすいというのはどういう意味なのでしょうか?

 山田 処方の時は西洋薬の使い分けをいつも意識します。取り切れずに残った症状のこの部分にはこれ、あの部分にはあれとやっていくと、抗不安薬だけで4種類なんて事も起こる。抗うつ剤、抗精神病薬も同様。規制前はいつもこんな感じでした。

月崎 なるほどそういう意味ですね。ところで最初から漢方薬だけを希望して受診される患者さんもおられますか?

 山田 はい。漢方薬しか使ってほしくない人もおられます。漢方薬でいけそうだったらできるだけ尊重します。限界はあるとお話ししながら。私の中では漢方を優先するようにしています。でも最初に言ったように漢方薬にも西洋薬にもそれぞれ得手不得手がありますから、一概にはいえません。

月崎
 漢方薬の強みというのはどんな点でしょうか?漢方薬というと緩やかで長期的に服まないと効果が出ないものというイメージがあったのですが、実は即効性のある漢方薬もあるそうですね。

 山田 そうです。そもそも昔は急性疾患も漢方でやっていたわけですから。例えば漢方薬ならではというのでは、悪夢で眠れないというのは漢方薬の独壇場ですね。その日から効きます。8割くらいの方には甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)が効きます。これを2袋まとめて服んでもらう。1袋だと有効率は5割ちょっと。2袋だと8割を越す。甘麦大棗湯が効く人の特徴は朝起きて少しすると見た夢を忘れちゃうことです。「なんだったかな?」となって夢が浮かんでこない。嫌な夢を見た記憶はある。夢を見てずっと嫌な気分が尾を引いて、昼頃・夕方ぐらいまで悪夢の気分を引きずるという人には桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)を処方します。これで大体悪夢に関しては9割越すくらいカバーできると考えています。残りの1割弱は帰脾湯(きひとう)加味帰脾湯(かみきひとう)酸棗仁湯(さんそうにんとう)。その他には大柴胡湯(だいさいことう)黄連解毒湯(おうれんげどくとう)抑肝散(よくかんさん)などを使うこともあります。

 唐仁原 今ベンゾではなく、睡眠薬としてオレキシン受容体拮抗薬のベルソムラ(スポレキサント)やデエビゴ(レンポレキサント)が処方されることが増えていますが、この薬の影響で悪夢に苦しむ方が多いように思います。そういった場合はどうでしょう?

山田 その状況での悪夢にも使えます。

 月崎 ベルソムラデエビゴを服みながらそれらの漢方薬を足してもいいんですか。

 山田 はい。大丈夫です。ベルソムラについて製薬会社の人に聞いたら、服薬することで夢が増えると言っておられました。夢が増えるので悪夢も増えるのだと。

 唐仁原 なるほど。その感じですね。

漢方薬を使ったフラッシュバックの治療法

月崎  こころころころクリニックのH Pの『私見』というところにありますフラッシュバックの治療法「『神田橋処方のキモは芍薬』神田橋処方山田方式」について少し説明していただけたらと思うのですが。

山田 神田橋処方は桂枝加芍薬湯四物湯の合方。「当時はフラッシュバックに効く薬はない」と言われていたので、画期的なことでした。組み合わせで効くことも漢方薬の特徴ですが、生薬が効くことも多い。
 どの生薬が効いているのか色々やってみました。煎じをやっているので、その辺は可能なのです。結論としては神田橋先生もおっしゃっているように芍薬がキモのようです。神田橋処方エキス剤に芍薬の粉を足すと効果が増強しました。試しに芍薬の粉だけを処方してみたら有効だった。なので、その方に合う薬方を選んで芍薬末を追加すればいい。愛用しています2回に分けて1日6~24g使います。フラッシュバック治療の試行錯誤の中で、ロゼレムも有効なことを発見しました。また、アーテンも有効だという情報を見て使ってみたら、かなり強力でした。お勧めです。どれも治す薬です。詳しくはホームページをご覧ください。

山田先生が治療によく利用している漢方薬

栗田 山田先生がよく使われる漢方にはどのようなものがありますか?
 
山田
 使っている量が一番多いのは、人参養栄湯(にんじんようえいとう)ですね。くたびれてる人が多いですから。補中益気湯(ほちゅうえっきとう)十全大補湯(じゅうぜんだいほうとう)を使っていると、特にお年を召した方が長く服むと血圧が上がってくるパターンがある。あれが嫌でなんとかならないかなと思っていたら、クラシエのパンフレットでは人参養栄湯の副作用に高血圧が書いてなかったので使ってみた。実際に血圧の様子をみると上がらない。因みに補中益気湯で血圧が上がった人は、六君子湯(りっくんしとう)に変えると血圧がスッと下がるんです。だから人参が悪いわけではないんですね。病状的に、もう補中益気湯の昇提作用(垂れ下がったものを持ち上げる作用)が要らなくなっているのだなと。
 
栗田 なるほど。
 
山田 なのでここでは血圧が上がる心配のないものを使う。必要に応じて補中益気湯はピンポイントで使うことがあります。
 
唐仁原 私の場合は補中益気湯を服んだらぼやっとしたり、口渇があったりしますね‥‥ここは要確認。
 
山田 あなたはそんな感じになりますか。頭がぼーっとするのは聞くことがあります。(補中益気湯には抗コリン作用はない。確かパロキセチンの話だったと思うけど。他の抗コリン作用がある薬だったかもしれない。いずれにせよ補中益気湯の話ではない)

唐仁原 そうなんですね。
 
山田 補中益気湯もメーカーによる違いがあります。漢方薬の場合、同じ薬方でも製造している会社によって効き味が違う場合が結構あるから。うちの薬局では同じ漢方薬の処方を異なるメーカーで数種類おいてもらっていて、助かっています。多いものは、剤形の違いも入れると5~6種類。
 
栗田 漢方薬エキス製剤はメーカーごとに生薬の配合量、配合生薬の種類が異なる場合があり、そのメーカーがどの資料を出典とするかで異なってきます、よって漢方薬にはジェネリックはありません。たとえば○○さんはツムラの葛根湯がきくが、○○さんにはコタローの葛根湯しか効果が出ない、などということがあります。
 
月崎 そうなんですか。ありがとうございます。向精神薬と漢方薬について少し理解できました。引き続き勉強します。

減薬して心身が回復していく時に必要な気持ちの安定

月崎 先ほどの抗不安薬のお話で患者さんが薬を減らしていく場合でも、さまざまな心配事が出てきたり不安になったりするというお話がありました。たとえば盆暮に親戚が集まるとか、新しいことが始まる4月の入学シーズンなど、季節的にストレスが出やすい時期、気候が大きく変わるなど、さまざまな環境の中のリスクと減薬について、先生はどのようなお考えをお持ちですか?
 
山田 人が集まる時期をどう過ごすか。それがストレスであるということはもう本人がわかっているので、それはご本人が話題にして提案もしてきます。たとえば「正月はストレスのかかる時期なので薬を増やしておきたい」という希望を出される方もいます。
 
月崎 日常の診察の中でそういった調整をしていらっしゃるわけですね。
 
山田 はい。クリニックにおいでの方は、入院もできる病院に通っておられる方に比べて健康度が高いから、自分からそういう話題をふられますよ。
 
月崎 そうなのですね。でもそれは先生との関係性ができているからでしょうね。
 
山田 減薬とも関連しますが、「服んでいれば大丈夫な感じになることが第一目標」と言いましたが、そこから先。まあいろんなことがありますよね。その時でも、何種類かの薬を服んでいる方が「今どの薬をどのくらい増やしたり減らしたりするのが自分にとってちょうどいいのか」というのを、ご本人が決められるようになるのが次の目標なんです。だからうちに来ておられる患者さんは自分で調節されますよ。
 
月崎 患者さんが自ら自分の体と相談して提案する薬の調整方法を先生が受け止めるというイメージでしょうか。
 
山田 はい。患者さんが服み忘れたりすることもあるでしょ?それもすごくいいチャンスでね。「その時どんなだった?」って聞くんです。そうすると、その薬を服まないとどんな感じなのかがちょっと確認できるわけです。
 
月崎 “いいチャンス”と考えてくださるのがすごく嬉しいです。そうですよね。私は減薬を希望する方の患者会の世話人もしているんですけど、「減らしたい」というと一気に薬を切ってしまう先生もいるし、逆に怒り出す先生もいるので「怖くて薬のことは言い出せない」という方もいらっしゃいます。そういう時に“服み忘れたふり”をしてその様子を伝えることで、減らしても大丈夫そうなことを遠回しに伝えるというのも1つの方法だねと話しています。それでいきなり医師によって断薬される危険性がなくなるというか・・・。ただそこまで患者側がお医者さんに気を遣わなければならないのも本末転倒な気がしますが。
 
山田 本当に同じ職業に就いてる者として恥ずかしくなるような言動をされる方がおられるから・・・。他の科に通院しておられる方に、服み方を変更した結果を報告するとその先生も判断しやすくなるからいいよと話したりします。見通しが持てていないから、患者さんに変更を勧める自信がない。で、そこを突きつけられると逆上するんじゃないかなと思ったりします。真実は人を傷つける。だから用心が必要。

キャンセルしたら懐に少し痛い金額のカウンセリング料

月崎 このクリニックでは、デイケアをやったり臨床心士さんに診てもらったりといったことはしていただけるのでしょうか?P T S Dなど心理面で複雑な状態の方はどうでしょう

山田 スペースがないのでデイケアはやっていません。3階建てにしなければ間に合わない。ピアカウンセリングの場とか提供したかったけど、そこまでの予算は無理だったので。PTSDに関しては、自分なりの考え方があります。元々、できるだけ色々聞かないで治療できたらいいねと思っていました。漢方薬もその1つ。話してもらうことは再体験してもらうことなので、傷口に塩を塗ってもう1度出血させることになる。それが必要な場合はあるけど、PTSDの方だとフラッシュバックを起こして傷つき記憶を強化する。病状が悪化する。あとの手当までワンセットであればいいけれど。なのでできるだけ聞かないで治療したい。だから神田橋処方なのよね。カウンセラーは2人来てもらっています。曜日は違うけれど、どちらも週2日です。1人は1昨年公認心理士国家資格を取りました。もう1人は日本の心理士国家資格はお持ちではないですが腕は確かな人です。フランスで医籍を取り、そこでラカン派の教育分析を受けた方です。日本に戻られてからもラカン派分析家として知られており、児童・思春期・青年期にも強い。どちらが患者さんに合うかなということを考えてカウンセリングをお願いしています。来院可能な曜日も条件として考えます。雇っているわけではありませんがもう1人の臨床心理士は、メディア依存相談窓口として箱庭療法などもやってくれています。

箱には療法専用の部屋があります

 月崎 これは自費ですよね。ちなみにどのくらいの費用がかかるのでしょうか?
 
山田
 もしカウンセリングで予約をすっぽかしたりキャンセルしたら、予約料はいわば没収になるでしょ?飛行機の予約と同じ。それが患者さんの懐にちょっと痛いなと思うくらいの金額!通常は2200円。
 
月崎 えっ!そんなに少ないんですか?
 
山田 キャンセルした時に、懐が痛ければいいのです。収入の少ない人は1100円。
 
月崎 うわあ〜〜
 
山田 生活保護の人でも550円はいただきます。懐が痛いと、なるべくキャンセルしないようにしていただけます。その積み重ねが効果に大きく影響する。いただいた分にちょっと足して、応援したい3つくらいのNPOに寄付しています。年間150万以上は寄付していますね。

月崎 先生、それって赤字じゃないですか?
 
山田 そんなもの、最初からカウンセリングで黒字なんて考えてないのよ。治療に必要だと思うから入れてる。自分でやっているから、自分の収入が減ることさえ覚悟すればいいのね。2005年に開業したんだけど、自分が必要だと思う治療をするのが目的だからそれでいい。雇われていると思うような治療ができないのね。血液型がA型だからなのか、ついつい勤務先の採算を考えてあげたりするから。自分のクリニックなら考えなくていい。収入が減るだけのことだから。それが理由で開業したので、そこは変える気ないのよ。

プレイルーム。感覚統合療法室。  主に発達障害の方に身体の色々な感覚受容器(センサー)を磨いてもらい、それを統合していく(SI)のに使います。当院では心理士がついてカウンセリングとして行います。身体のバランス感覚が取れると、こころのバランスも取れることが多い。

勤務医をやめて自分のクリニックを開院したわけ

月崎 山田先生はここの開院以前は勤務医をしていらしたのですね。

開院10周年のお祝い詩人の工藤直子さんに描いて頂いた絵

山田 開院前は病院、そのあとそこのサテライトクリニックに勤務していました。いずれ自分で開業する気持ちはあったから、サテライトクリニック勤務は勉強になると考えて引き受けました。病院ではずいぶんわがままさせてもらっていたから、ある程度はできていたんです。でも性格的に採算とか考えてあげてしまうのね。サテライトクリニックでは普段は1日30人前後だけど、年に2回ほど、1日50人もの患者さんを診察することがあったのね。そういう時というのは年末などで「いつものお薬くださいな」というような患者さんばかりなのね。そういうことばかりしているとやはり診療が荒れてくるんだろうなと感じていました。まず自分の気持ちがざらざらしてくる。処方していないと薬が切れることになるので、「お薬を渡すことが最重要だ」と分かっているにもかかわらず、そうなる。病院勤務の時も漢方外来というのをやっていました。通常の外来担当の日以外に勝手にそういう日を作った。理事長が太っ腹な人で、正しいと思うことはやっていいという方針でした。当時外来では平均して診察時間は1人8分だったのね。何日も調べて計算しました。30分〜40分話して帰る人もいれば、薬だけもらうのに5分、「変わりありません」とたった一言だけっていう人もいるのだけれど、平均時間を計算すると1人8分だった、現在このクリニックではひと枠15分取っています。30分・45分以上喋って行く人も何人かいますよ。もう亡くなったけど、2週間おきに90分取ってた人もいた。お昼休みがほぼ潰れてたけど、必要だと思うことをするのはそこまで疲れない。それでよくなってたかどうかは疑問ですけどね。

月崎 そうですか。このクリニックでは患者さんが安心して先生とお話しできるのだろうと感じました。私の拙い質問にも山田先生がとても誠実に答えてくださったこと、そしてクリニックの充実した設備に驚きました。先生のお話をうかがい、患者さんが自分の体の声を聞いて、薬の使い方を自分で決められるようになることが減薬の第一歩なのだということが印象に残りました。本日は長時間ありがとうございました。

インタビューを終えて…

コロナ禍後に久しぶりに対面で行ったインタビューはとてmの充実した時間になりました。インタビュー後に山田先生には原稿を丁寧に何度も推敲していただきました。

山田先生のコメント
この原稿を推敲していて、自分はなんと贅沢な生き方をしているんだろうという実感が湧いてきました。ただ、したいことをしているだけなのですが、それがなんと得がたいものであるのかという判断くらいはつく年令になりました。 収入だけで言うと、いわゆる一流企業に就職した別の学部の友人と話すと、部長まで行かなくても私よりも多くの年俸をもらっていました。しかし、私には充分すぎるほどの年収です。幸い家族もそういう意味での物欲はないのでお釣りが来ていますし、家族もそれぞれしたい事を目一杯しています。気づきを与えていただいて、ありがたいと感じています。ありがとうございます。

山田宗良医師プロフィール
昭和23年  福岡県糸島市出身
昭和50年3月 九州大学医学部卒
昭和50年4月 同大学医学部麻酔科入局
昭和52年4月 同大学医学部精神科入局
昭和54年4月 大阪回生病院神経科
昭和59年4月 飯塚記念病院
平成9年10月 心のクリニック・飯塚
平生17年4月 こころころころクリニック開院




 





























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