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 住んでる場所マウントかるた 「す」

「住みやすそ〜」 いや僕たちの家 1kmも離れてませんよ?

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 先日、ティンダーで会った人に「住んでる場所マウント」をとられた。

 その人と私は同じ23区内に住んでいる。しかし彼女は、私の家があるエリアのことを、まるで群馬か山形にある土地の名前を聞いたときのようなテンションでこう言ったのだ。

「え、幡ヶ谷…? 聞いたことあるかも。住みやすそうでいいですね〜」

 一瞬、なにを言われたのか理解できなかった。というのもその彼女が住んでいるのは、私の家から1kmと離れていない場所だったからだ。

 つまり、隣駅のことを知らない様子なのである。果たしてそんなことってあるのだろうか。聞けば彼女は、少なくともいまの家に1年ほど住んでいるらしい。だとすれば、あまりにも自宅周囲の環境に無頓着すぎないだろうか。この人は”天然”なのか? それとも……。

 そこで私は気づいた。ああ、自分はいま「住んでる場所マウント」をとられているのだと。それも、ゆで卵に張り付く薄皮を剥がすくらいの絶妙な力加減で、うっすら”カマされている”のだと。

 その瞬間、彼女に尊敬の念を抱いた。おそらく彼女は、

「わたしとおまえは同じ渋谷区に住んでるけど、一緒だと思うなよ。なぜならこっちはユニクロの柳井社長を始めたくさんの著名人が住んでる代々木上原で、おまえんところはハザードマップ上でトナカイの鼻くらい真っ赤っかの幡ヶ谷なんだからな。自重しろよハゲ」

という心情にもかかわらず、「住みやすそ〜」というオブラートに包んで、私にボールをパスしてくれたのだから。

 ふーむ、これはなかなか、手強いぞ。

 そうして序盤にジャブを入れられた私は、なんとなく会話のペースを掴めないまま、そのあとの立ち振る舞いも上手いことできなかったのだ。

 結局、彼女とは早めの時間に解散した。そして私は肩を落としながら、ハザードマップ上で真っ赤に染まる自宅に向けて歩き出したのだった……。

これが街に住む楽しさでもある

 都市部に住んでいると、上で挙げたような出来事にたびたび遭遇する。

 なぜなら都市部は、数百メートル移動するだけで街の様相がガラっと変わるから。道路を1本挟むだけで、マンションの価格が数割アップするなんてこともザラだ。

 だから上で挙げたようなことが起こるのだが、私は、これこそが都市部に住む楽しさのひとつだと思っている。

 元来、地球には国も県も市も区もなかった。人間が勝手に国を作り、区画を制定し、土地に対して価格を定めただけのことである。

 我々人間は、そうして区分けされた土地にランクを付け、ブランドイメージを求め、そこに住んでいるという満足感/非満足感を得るようになった。

 その行為が最も盛んに行われているのが都市部だ。人々は数百メートル単位でマウントをとりあい、自分が住んでいる場所が「いいところ」なのだという充実感を噛み締め、各々が誇らしいと感じている区役所で住民票を取得する。

 その気持ちよさは、食欲や性欲を発散するのと同等ですらあると私は思う。ゆえに人々は「住んでる場所マウント」を止められない。止められないし、その区分けが細分化されればされるほど、マウントの手口も巧妙になってくる。

 そこで私は考えた。どうせこのビッグウェーブに乗るなら、スマートにこなしたいものだと。それこそティンダーで会ったあの女性のように。一見褒めているようで、実際のところは、

「住みやすそうでいいですね〜(なんにもない駅なんでしょw  イノシシとかタヌキいそうで草)」

という感じで、あくまで大人としての表面上のマナーは守りつつも、しっかりとマウントをとる姿勢を忘れないように。

 なのでこの記事では、東京限定ではあるが、「住んでる場所マウントかるた」を作ってみたいと思う。 

 ルールは簡単。大人として大っぴらにディスをせずに、相手の街をいかにクサすことができるかどうか。

 そしてマウントというのは相対的な行為なので、今回は、「どこに住んでるどんな人が」「どこに住んでいるどんな人に」発言しているのか、条件を与えることにした。たとえば、世田谷区経堂に対しマウントをとる際に、”カマす”側が八王子市に住んでいたら行為として成立しない。なので、その辺りを明確にした上で、今回はかるたを作ってみたいと思う。

果たして「住みやすそうですよね〜」を超える札を作れるのか。ワクワクするところである。

住んでる場所マウントかるた「あ」

あ〜あのへん! ホムセンとかもあって 便利そう(笑)
目黒区中目黒在住 女性(34歳)アパレル広報→→→大田区馬込在住 女性(31歳) 製造業事務

住んでる場所マウントかるた「い」

いいじゃんいいじゃん〜 学生街だから賑やかそう
世田谷区若林在住 女性(27歳)ジュエリーショップ店員→→→中野区中野在住 女性(27歳) 同ジュエリーショップ店員

住んでる場所マウントかるた「う」

うっそでしょ! あそこって意外と家賃相場高いんだ
目黒区祐天寺在住 女性(36歳)インフラ系企業マーケティング→→→江東区東陽在住 女性(38歳)スタートアップ系企業役員

住んでる場所マウントかるた「え」

え〜そんなことないよ 池袋のほうが都会だよ
文京区茗荷谷在住 女性(33歳)古美術店経営→→→豊島区要町在住 女性(33歳)エステサロン経営

住んでる場所マウントかるた「お」

お〜知らなかった 成城石井とかあるんだね
渋谷区富ヶ谷在住 男性(35歳)外資系証券会社営業→→→板橋区ときわ台在住 男性(33歳)物流系企業総務課

 ちょっと飽きたのでこの辺にしておくが、世にはびこるマウンターを発見次第、またこの記事はアップデートしていきたいと思う。

 みなさんも街のカフェで、病院の待合室で、職場の廊下で、都市部に住む者同士のアツいマウント行為を見聞きしたら、コメントで教えていただけると幸いである。

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