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〖アホ短編小説〗ドラゴン税

「心の中のドラゴンに従って、思うままに生きなさい」

幼少期、泣き虫だった僕に、父さんはこう言った。
さっぱり意味がわからなかった。

小学生になっても、僕の泣き虫は治らなかった。
ちょっとした事で目を潤ませてしまう僕は、いじめっ子たちのターゲットになるに決まっていた。

毎日繰り返されるいじめに、僕は我慢ができず
大きな声で反抗し、いじめっ子たちのリーダーを突き飛ばした。
突然の僕の行動に驚いたいじめっ子達は、その日から僕に近寄らなくなった。

ドラゴンのように強く。
父さんの言葉の通り、自分の中のドラゴンの思いに従って生きるとその時誓った。  
その頃から、目を瞑れば心の内に棲むドラゴンの姿がはっきりと見えた。
大きくは無いが、炎のように赤いドラゴンが。

22歳になった今も、父さんの言葉の真意は分からない。
あくまで、自分の解釈でドラゴンのように強く生きるということを念頭に今日まで過ごしてきた。

社会人として最初に選んだ会社も競争が激しく、強く生きなければ振り落とされてしまうような場所だった。

怒涛の4月を乗り越え、ついに初めての給料日。
手渡された明細書を片手に両親の待つ家へ帰る。

「ただいま」

いつものように家に帰るが、足取りは遥かに軽く感じた。
跳ねるように階段を駆け上がり、自室へ飛び込む。
はやる気持ちを抑えながら、給与明細が入った封筒を開ける。
が、拍子抜けだった。

「え…これだけ…?」

税金が高くなっているということは知っていた。
給与が上がっても、税金のせいで手取りが増えないと。

思っていたより少ない金額にガッカリしながら、何がどれくらい引かれているのかを確認する。

「…は?」

思わず漏れる声。
給与明細の最下段、そこには

ドラゴン税 ¥16,500-

なんだこれ?
夢でも見ているのか、いやしかし明らかにドラゴンと書かれている。

頬を引っぱたくという古典的な方法で夢では無いことを確認した後、今しがた跳ね上がってきた階段を転がるように降りる。

「父さん!!これ見て!」

「あん?なんだ、今日給料日だったのか。お疲れさん。」

「違うって!これ!このドラゴン税ってなに!?」

「何ってお前、心の中にドラゴン飼ったんだろ?
そんなでけぇもん飼ってんだから、そりゃ税金かかるだろうよ。
あのなぁ、もうちょっと小さいのにしとけば扶養家族扱いに出来たのに。
中型以上だと無理なんだよ。
そもそも飼うなら一言いえよ。母さんにすっげぇ怒られたじゃねぇか。
あんたが昔余計なこと言うからって。
しょうがねぇよな?男ならみんなドラゴン飼いてぇもんだから。」

マジで何を言ってるのかさっぱり分からん。
意味わからん情報を怒涛の勢いで頭に流し込まれた。
意味わからない状況すぎて、むしろ冷静になれている。

ドラゴンは実在する?
いや、実在はしてないのか。心の中だから。
心の中のドラゴンってなんだ?
情報は頭の中で錯綜する。

なにはともあれ、心の中のドラゴンには税金がかかるらしい。
そうなれは、言うことは決まっている。

「父さん、ドラゴンもう要らんのやけど
どうしたら捨てられるの?」

「馬鹿野郎!!
1回面倒を見ると決めた動物を簡単に捨てるんじゃねぇよ!!!」

なんで俺は怒られたのか。
心の中のドラゴンに尋ねるが、何の答えも得られない。
そりゃそうだ。住んでるだけだからな。

〜〜気が向いたら続く〜〜


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