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P155. 作品紹介『時間迷子』
※過去にラジオドラマとして書いた作品を公開しています!
「いらっしゃいませ。お客さん、いつの時代からいらっしゃいました?
いえね・・ここは時の狭間の、いつでもない場所なんです。
いきなりそんなこと言われても信じられないでしょうけど。
いろんな時代からいろんな人が、ふとした瞬間に迷い込んできます。
・・ああ、そうですか。あの時代だと増税やらなんやらで大変でしょう?
よかったら、どうぞ。カモミールティーです。リラックスできますよ。
・・・私?私は、皆さんのお話を聞くのが好きで、ここで迷子喫茶というお店をやってるんです。
ここに迷い込んでくる皆さん、悩んでいたり傷ついていたり。
だから少しでも気持ちが落ち着くような温かい飲み物をお渡ししてるんです。・・・おや、また誰かいらしたみたいだ。いらっしゃいませ。
・・・・あれ?どこかでお会いしましたっけ?」
女性「・・・?いいえ。」
ずっと前、いつの時代かも覚えていないけど、私は彼女に会ったことがある気がする。まだ若くて何もできないくせに、形のない大きなものばかり追いかけていたような・・・
女性「あの・・ここは?」
「ああ、失礼しました。あなたはどこかから迷い込んでしまったんですよ。一先ずなにかお飲み物、アッサムかダージリンティーなどいかがです?」
女性「・・それじゃ、アッサムティーお願いします。」
「はい・・・どうぞ。失礼ですけど、何かお悩みですか?・・ここに来る皆さん、何か理由がおありのようですから。」
女性「・・・・・両親に、勘当されてしまいました。彼との結婚は認めない、どうしても言うことを聞けないなら、と。」
胸がズンッと重たくなった気がする。やっぱり私は彼女を知ってる。
それも、よく、よく知ってる。
「それで、家を出るのですか?彼と一緒になるために?」
女性「はい。どうしても、彼のいない未来は考えられないんです」
彼は今でこそ貧乏な生活を送っているが、いつか売れっ子のミュージシャンになって彼女を幸せにすると約束してくれたのだそうだ。
彼の大きくて形のない夢の裏側でこんなに苦しんでいるのに、ご両親の反対を押し切ってまで彼を選ぶなんて・・・
「不安はないのですか?私には、そんな危ない橋を一緒に渡らせようとする人は信用できませんよ。・・いや、すみません。ただ…心配なんです。」
女性「不安がないって言ったら嘘になりますけど。この人でダメなら仕方ないって思える人なんです・・・理由になりませんか?」
「彼は、自分の夢の為にあなたに苦しい思いをさせます。その夢だっていつか薄れて擦り切れたものになり、なにより!子供がほしいと言ったあなたを夢の邪魔者のように・・・・・こんなこと言ったって、嫌な気持ちにさせるだけですよね。・・すみません。」
女性「・・・私は、彼の夢の邪魔なんでしょうか?」
「夢ってなんだったんでしょうね?売れっ子ミュージシャンになることなのか、あなたを幸せにすることなのか。きっと、前者を追うことが後者に繋がると思い込んで、一番大事なことをおざなりにしてしまったと思うんです。だからここへ迷い込んだ…!ずっと迷い続けてるんです。
2人の未来の為にお願いします。
今は気持ちをグッとこらえて…ご両親のもとへ帰ってみてください。あなたを失わない為なら、私…いや、彼はきっと頑張りますから。
今無理をしたら、大切だった2人の時間はすれ違い始めます。そうならないためにどうか・・・・・信じてください。」
女性「・・・なんだか、私の彼とよく似てますね。嘘みたいにおかしなことばかりなのに、信じてくださいって言葉に嘘がない。きっとやってくれるって思わせてくれるんです・・信じます。ちょっと、不安だけど」
「ありがとうございます。大丈夫、あなた方はまだお若いのだから。少し離れて過ごしても、その後沢山の幸せが待っているはずですから。」
女性「はい・・・紅茶、ご馳走様でした。」
そう言って、彼女はここを出て行った。
これで良かったのか?答えを知る術もないけれど、今度こそ幸せになってもらいたいな。。。
あれ、今日はお客さんの多い日だな。
「いらっしゃいませ。」
老女「お久しぶりです」
「え?あの、どこかでお会いしましたっけ・・?」
老女「昔の話ですよ。とりあえずまた、アッサムティーをちょうだいな。」
「あ、はい・・・。」
あれ?なんだろうこの感じ。なんだか落ち着かない。
老女「あれから言われたとおりに両親の元へ帰りましたらね。彼、本当に死に物狂いで頑張って。売れっ子ミュージシャンとは言えないまでも、作曲家としてお仕事ができるようになったんです。もともと色んな人のお話を聞くのが上手な人ですから、人の詩に音をつけるのが楽しくて仕方ないみたいですね。」
・・・そうか。あの時ちゃんと頑張っていれば、こんな素晴らしい夢を掴めていたんだな。・・・彼女の優しく、幸せそうな笑顔を見ていたら目頭が熱くなるのが感じられて、思わず顔を背けた。
なんだか、急に、酷く眠たくなってきた・・・・
久しぶりにぐっすり眠れそうだ。
今度目を覚ましたら迷子にならないようにちゃんと夢を、見つめ直してみようかな。
老女「お帰りになるんですね・・・気をつけて。迷ったらまたここで、紅茶でも飲んでゆっくりやり直せばいいんですよ。大丈夫。信じてください」
「ありがとう、ございます。ありがとう。。。
また、きっとお会いしましょうね。その時は、きっと・・・」
おしまい
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