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【冒険小説】機動屋台Gバスター

3つの屋台

文明の終末期――
スクラップが積み重なったような、巨大な塔。その中で僕たちは暮らしている。高さは3000メートルほどだろうか。巨大な寸胴鍋だと父は言う。確かにそう見えなくもない。

その日、塔の外に出ると、見知らぬ男が空を見上げていた。
といっても、空なんか見えない。霧が周囲を覆っており、数十メートル先も見通せない。
もちろん太陽も見えない。ぼんやりと明るくなれば朝で、暗くなれば夜だ。

夜になると、塔の周辺でぽつりぽつりと屋台が営業を始める。
「こんにちは食事ですか」と僕は男に声をかけた。うちはボルシチを売っている。
相手は何も言わない。
ぼろぼろの黒いコートを着て長い杖を持っている。年齢はわからない。若くも見えるし年寄りにも見える。体格はかなりごっつい。肩にハムスターが乗っているのが印象的だった。
「どこから来たんですか」
彼は、上を指さした。
「空?落ちて来たの?」
「歩いてきた」
「え?」
男が発した言葉はそれだけだった。隅に腰かけたままそれ以上何も言わない。

「父さん、世界は、どこまで続いているの」屋台の仕込みを手伝いながら僕は聞いた。
「なんだおまえ15にもなってそんな妄想を」と父が言う。
「世界はピザ生地みたいにまっ平なんだよ」とフィッシュアンドチップスの仕込みをしているゲンさんは言った。「その先に行ったら落ちちまう」
「いや、俺たちは玉の上で暮らしているらしいぜ」とカオマンガイ屋台の呉さんが言った。
「本当?それ面白い」屋台を手伝っている呉さんの娘リンが言う。
「ああ。じいちゃんがそう教えてくれた」
「玉の上で暮らせるはずなんかないだろう」と父。

突然、レーダーにつなげた警報が鳴った。
リンは双眼鏡を持って走り計器が示した方角を見る。
「Gが2匹、まっすぐこっちに飛んでくるよ!接触までおよそ3分」
彼女は僕の幼馴染だが、すでに有能な索敵担当としてみんなの役に立っている。
「寸胴鍋を片付けろ」と父が言った。
「わかった」
僕は鍋のふたを閉めて耐熱グローブをはめ、スープを塔の中へ避難させた。

父は屋台の中に入り込み、コンロ下のレバーを引いた。核融合エンジンがうなるように始動し、超合金バスタニウムの装甲が父をつつみこむように閉じた。
うちのボルシチ、ゲンさんのフィッシュアンドチップス、呉さんのカオマンガイ、この3つの屋台は合体し、人型ロボットになる。
ほかの屋台も駆動して装甲を閉じ、機体をジャンプさせ合体し、高さ15メートルほどの巨大ロボ「Gバスター」となった。

うちは胸と頭の部分、カオマンガイ屋台は腕部分、フィッシュアンドチップスは足部分。それぞれが操縦のプロフェッショナルだ。武器は、ペティナイフ型のレーザーソード。これでGを迎え撃つ。

ここまでは順調だった。
しかしこの日、Gは不意を突くように突然目の前に表れた。
「どういうことだ?まだ1キロ以上先にいるはずだぞ」父が言った。
バスターはとっさに腕を組んで防御姿勢をとり、Gの体当たりの衝撃を防いだ。
並みのパイロットチームだったら地面に倒れ込んでいただろう。
Gはバスターから離れ、羽をふるわせながらまた突っ込んできた。
「呉!」
「わかってるって」
接触寸前まで迫るのを待ち、レーザーソードを抜き打ちに振りかざして切った。
Gのツヤのある黒いボディが真っ二つになり転がった。黄色い液体が飛び散る。
「なんとかやっつけたか」
ところが、
「おじさん大変、あっちにも」リンが叫ぶ。
「なに?」
振り返ると、別のGがバスターの背後に表れ、しかも塔に向かって直進している。
「なぜだ?どうやって防衛バリアを突破したんだ?」父が言った。
「走るだけじゃ間に合わないぞ」とゲンさん。
「くそ、ホーミングを使うしかないか」と呉さんが低い声で言う。
「外したらえらいことだぞ。住民に犠牲が出る。俺たちのライセンスも」とゲンさん。
「わかってるよ…」
その時――
Gの羽が切り裂かれ、錐もみ状態で落下した。さらに地上に落ちたGの足が切られた。
1人の人間がヒートソードを構え、Gに挑んでいる。
あの男の人だ。杖だと思ったのは武器だったらしい。
父も呉さんもゲンさんも驚いて戦闘を見ている。Gの羽や足、胴が次々に切り裂かれ、バラバラになっていく。
「生身の人間がGと闘ってる…」
「しかも…勝っちまった…」
戦闘ののち、散乱したGの体の横で彼は静かに空を見上げた。僕は肩に乗ったハムスターを見ていた。

つづく?

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