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【冒険小説】機動屋台Gバスター 第2話

野生人間とハムスターの謎

Gの消失を確認した後にロボットは分離し、再び3つの屋台になった。
「さきほどはありがとうございます。しかし生身の人間がGとまともに闘うなんて…」と、屋台から降りたゲンさんが言った。
男の人は黙っている。
「ねえ、よかったらうちのボルシチ食べていってよ」と僕は言った。「結構おいしいんだよ」そう言ってイスを男の人のそばに置いた。
男の人は無言のままだが断るわけでもなくイスに腰かけた。大きな体がゆっくりと動いた。
ハムスターが肩から降り、毛づくろいをはじめた。

「しかしGはどうしてあんな攻撃ができるようになったんだ」と父は言った。
「たしかに、気付いたら目の前にいるなんて防ぎようがない」フィッシュフライの仕込みを再開しながらゲンさんが言った。
「レーダーが役に立たなくなっちまうな」と呉さん。
「そもそもGはどこからやってくるのかな」とリンが言った。
「壁を越えてくるんだ」と突然男の人が言った。
「え?」と全員が彼を見た。言っていることもわからなかったが、男の人が口を開いたことにびっくりしているようだ。
「やつらも進化しているんだ」
「進化…?」父たちは首をかしげている。

「まいったな、フィッシュが足りなくなっちまった」とゲンさんが言った。
「おい、ひとっ走り行って取ってきてやれ」と父が僕に言った。
「わかった」
「悪いな、白身魚なら何でもいいからとにかく新鮮なやつを頼むよ」
「うん」
僕はクーラーボックスを持って塔の中へ入っていった。

塔の内部は、極限まで迷路化・カオス化した空間で、さして広くはないスペースにありとあらゆる太さのパイプやら金網やら電線、配電盤、ライト、通風孔、何の目的で作られたのかわからない穴…そんなものがひしめいている。

僕たちが所属しているコミューンは、数百人ほど。塔の下層域(0m~100mほどの範囲)で暮らしている。
塔の上に住んでいる人間とは基本的に交流はない。ときどき仕事に関する伝達があるときに下りてくるだけだ。

そのとき、小動物が横をすり抜けていくのが見えた。男の人の肩に乗っていたハムスターだ。ハムスターは穴の一つに入り、地下へ潜っていった。
「そっちへ行ったらだめだよ」と僕は言って穴の奥を覗き込んだ。

地下は危険だ。普段は誰も寄り付かない。
狭い穴にもぐりこみ、梯子を伝って降りていくと、人が2人ほど通れそうなトンネルが表れた。上の方から光が漏れてくるので、それほど暗くはない。

ハムスターを探してトンネルを進んでいくと、突然体全体に衝撃が走った。足が何かに絡まって歩けない。

嵐儔(ランチュー)の電気罠にひっかかった、と僕は気付いた。
嵐儔とは野生化した人間で、人から隠れて入り組んだ塔の中で暮らしている。人の食物を盗んだり、時には人を拉致して食べてしまうという噂だ。

ボルトが低かったので意識は失わずに済んだが、体が動かない。早く足を締め付けている括り罠を切って逃げなければ。ポケットの中にジャガイモの皮むき用のナイフが入っているはずだ。しかし、気が遠くなりそうだ。

独特のすえたようなにおいが漂ってくる。嵐儔が姿を見せた。身長は150センチほどだろうか。義眼のような目でこちらを見ている。手にはスタンガンらしきもの。生餌にでもする気なのだろうか。半年前に死んだ母親のことが心に浮かんだ。

するとスタンガンを持った腕がボトリと落ち、鮮血が噴き出した。
僕の横に、男の人がヒートソードを持って立っていた。
片腕がなくなった嵐儔は腰を抜かし、血のりを引きずりながらその場から逃げていった。

男の人は括り罠を切り、僕を抱えて地上へと運び出してくれた。
僕は薄れる意識の中で、
「まさかあんな生き物がおるとは思わんかった、悪かったわ」とハムスターが話すのを聞いていた。

つづく


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