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源泉回顧録【伊豆半島周遊④ 蓮台寺 金谷旅館】

<前回はこちら>

 中伊豆方面から西伊豆を経由し、最終目的地は南伊豆へ。河津桜が咲き始めるころ、下田から熱海を結ぶ一本道、国道135号線は大渋滞となる。函南からの南下作戦は見事に渋滞を回避した。

 冬の底冷えと低気圧は全身痛を悪化させ、特に既に変形が始まっている左ひざ痛はこの時期がピークに達する。主治医からも、このまま動かさなければ将来歩行に障害が出ることも告げられていた。そんな中、温湯で広く深く、リハビリに最適な湯が南伊豆にある。

 【河内(こうち)温泉 金谷旅館】

 伊豆半島南端下田の一駅手前、蓮台寺駅から徒歩5分ほどにそれは存在する。江戸時代末期創業の趣ある木造旅館。言わずと知れた日本を代表する湯治場「酸ヶ湯温泉」と並び、千人(仙人)風呂と称される総檜大浴場はまさに源泉プール。

 泉温は47度、幅5m×長さ20m、最深部は1mにも及ぶ巨大浴槽。場所により温度が変わり、42度~40度ほどの浴感で長湯が可能。弱アルカリ性単純温泉とあり刺激は少なく、敷地内から湧出する毎分300ℓの自家源泉は鮮度が抜群に良い。

 温泉の浮力効果は地上の9分の1。身体への負担が少なく、尚且つ500キロもの湯圧が全身にかかり、マッサージ効果も期待ができる。歩行浴ができる温泉ともなれば、まさに竜に翼を得たる如し。
 
 最後の宿をこちらに決め、冬の伊豆旅を締める。だが、、こちらの宿心配事が一つ。。


 初めてこちらに来たのは6年前、日帰り入浴で訪れた際に信じがたい光景を目にした。メイン浴槽の千人風呂は混浴。入浴客の9割が男性だったが、時折女性入口から妙齢の女性が出入りした。すると、浴槽の最も温いエリアを陣取っていた男性客達が、女性を目がけて大移動。
 
 初めてワニ(※温泉に入ることを目的とせず、覗きをメインにする湯族)という存在を認識した瞬間だ。それ以来、混浴で女性客がいると必ず背を向け、視界に入らぬ様心掛けている。余計な疑いをかけられたくないからだ。   
 快浴を邪魔する奴らの存在、折角良い湯に浸かりに来ても、一気に気分が悪くなる。


 だが今回はある仮説を立てて投宿に臨んだ。迷惑客がいるのは大概日帰り営業時間のみ、宿泊までしてその行為に及ぶとは考えにくい。素泊まりのため、夕朝食時間をポイントで狙えば存分にその湯を堪能できると判断したのだ。

 
 15時ちょうどの到着。フロントにて前訪との変化に気付く。日帰り入浴が1,200円に値上がりしている。(時期によって変動。普段は1,000円~)。昔ここに来たときは700円だった。迷惑客対策のための値上げだろうか。

 案内された部屋は別館、旅館の隣のバレエスタジオの2階を改装した部屋だった。開業150年を誇る建築美も魅力の宿だが、治療を目的とする旅、部屋を選ぶ余裕はない。

 夕食時が近づくころ、メインの千人風呂に向かった。予想通り、皆食事中のため客は1人しかいなかった。日本一総檜風呂を思う存分堪能。他客がいれば流石に控えるが、湯の中でマッサージやストレッチ、歩行浴でリハビリを行う。膝の痛みは徐々に取れていく。

 食事時間の8時と18時、そして日帰り客が出払った22時以降を狙うと、ほとんど誰にも会うことはなかった。浴槽の中を一人ぐるぐると旋回。日帰りでは絶対にできない金谷旅館の楽しみ方だ。


 中日の昼、下田は2月下旬でありながら21度を記録する好天となった。膝の調子が驚くほど良好で、稲生沢川沿いを伊豆急下田駅までウォーキングすることに。距離にして往復5キロ、出発前には完歩など想像もできなかった。旅中は伊豆方面は暖かく、湯に浸かることで血行も促進されたのだろう。

 稲生沢川の水は澄んでいて、時々水面に銀の鱗がキラリと光る。淡水と海水が入り交じる河口付近、鱸のようだ。向こうに海が見えると尚脚が進む。
 長袖のTシャツ一枚でも暖かさを感じるほど良い気候だった。行きがけに寄った「蕎麦茶寮須田」という店でざるそばをいただき休憩。

 帰路は途中休憩できる店がなく、流石に痛みが出てしまった。宿に戻ると浴衣に着替えもせず、千人風呂へ向かい温湯へダイブ。この時間帯は流石に他の客がいたので、歩行浴は控えてマッサージを繰り返した。


 最終日は水曜日。この日は朝9時から千人風呂の大掃除と伝えられていた。時間一杯まで独泉を愉しんでいるとご高齢の女性スタッフが清掃にやってきた。

 「忙しなくてすまないね。でもすぐには湯が抜けないから、まだ入ってていいよ」

 一人の温泉好きとして、これだけの巨大な浴槽の湯がどのように抜けるの興味があった。そして、ちょっと欲張った。

私  「あの、誰もいないので写真撮っていいですか?」
女性 「どうぞどうぞ」

 浴場へのカメラ持ち込みは基本NGだが、許可を得れば大丈夫。
誰もいない千人風呂でワンショット。素晴らしい瞬間に立ち会えた。


 ここで伊豆旅行は終了。湯巡と言えば東北地方に目が行きがちだ。
だが寒さが応える持病と体質。この辺りで寒候期を凌ぐのも良いかもしれない。東伊豆とはアクセス面は劣るが、今回訪れた奈古谷温泉からの南西部、少々鄙びた雰囲気はあるが、療養には適していることを実感。
 
 東北まで行かずとも、良い源泉は伊豆にも多く存在した。
印象を変える良い旅だった。



                            令和3年春

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