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秋の鳴子温泉湯治⑥【栗駒へ~高東に来る人、旅する人】

<前回はこちら>

 今回一緒に太極拳を行ったNさんは、お会いするのは今年だけで4度目になる。3回は高東旅館で、春に一度肘折温泉でもお会いした。年上の彼女、実は一度も会う約束の下でお会いしたことはない。

 蛇の道に蛇で、何となく「この日に来るだろうな」、と思っていると本当に現れる。温泉の力とは凄いものだ。高東旅館が大好きなのだろう。


Nさん 「ちょっと瘦せた?」
私   「良く分かりましたね。先週発作が出て、絶食だったんです」
Nさん 「もう、気を付けて下さいよ」 

 今回初めて伺ったが、Nさんも仕事でバーンアウト気味になった時に、湯治で高東旅館を利用したのだという。県内なので頻繁にこちらに訪れるNさん。立派な「通い湯治」と言えるだろう。湯治をする仲間がいるというのは、想像以上に心強いものだ。

 
 東京からお越しのOさん。日本中車中泊で旅をするという。見るからに才気煥発という女性だ。今回は高東旅館に3泊、日中はテレワークを行うという。

 「ボトルキャップは何処に捨てるんですか?」
 「調理器具はどこに?」
 
 積極的に声掛けをしてくるOさん。私の最寄り駅から快速で一駅のところに住んでいるということも分かり、すぐに親しくなった。
 翌日は東鳴子の名店「千両」のカツ丼を食べに行ったり、夕食は互いの食材を持ち合って同卓。別れ際にOさんから聞いた話に、思わず笑ってしまった。

Oさん 「チェックインの時に御主人がね、何か分からないことがあったら、いつでも帳場に聞きに来てください」「あと、隣の彼(私)に聞けば、何でも教えてくれるからって」 
私   「ははは、そういうことだったのか」

 これにはお互い破顔一笑。

Oさん 「信頼されてるのね」
私   「常連認定されてるってことかな。嬉しいですよ」

 
 彼女がこちらを去る日、私は往路で給水した風早峠かぜはやとうげの水が枯渇してしまい、栗駒峠まで湧水を汲みに行く計画だった。ここにも日本屈指の名水「栗駒神水」がある。

 山登りが趣味な彼女。「まだ早いかもしれないけど、」と言いつつ紅葉の状況を見たいと一緒に出ることになった。398号線を北上し秋田県に入ると、国道沿いに顕現する栗駒神水。雨が続いたからか間歇泉が横溢するかのようにドバドバと飛び出していた。20ℓをここで補給する。

 ハッキリとした物言いのOさん。

Oさん 「水の違いは余り分からないけど、ここは美味しい気がする」
私   「岡目八目ですよ。旨いんですこれは」

 標高1,000mを超え、秋田と岩手の県境へと進む。
まだ紅葉には随分と早く、それどころか瑞煙に巻かれるように辺りは真っ白だった。近くの散策路を歩く予定が、視界不良のため断念。折角なのでと須川高原温泉に日帰り入浴をして帰ることに。

 こちらに寄るのは5年振り。日本屈指の強酸性泉のため、私の身体には刺激が強く長く敬遠していた。だが湯治開始から1週間近くが経ち、体調は良好。大日岩を前にした絶景温泉を前に、少しだけでもと私はダイブを決めた。

 記憶では白濁のイメージだったが、この日はブルーに近かった。
湯触りも思いのほか柔らかく、癖のある強烈な硫黄臭というよりは、ほんのりとした芳香。以前湯巡りをしていた時はメモも写真も撮らず、数をこなすのに必死だった。記憶がいい加減だったのだろう、素晴らしい浴感だった。

Oさん 「紅葉、全然ダメだったね」
私   「来月ですかね。でも久しぶりに須川高原に入れて良かった」
Oさん 「この後は泥湯に行くの。そのあと大朝日岳おおあさひだけに登って、日曜帰り」
私   「凄い体力ですね。もうちょっと簡単に登れそうなのがあったら教えて下さいな」

 またどこかでと約束し、互いを見送る。
高東旅館に集まる人々、理由は様々。だがその多くは、良い湯と良い環境、そして御主人と女将さんに魅了され、きっとまた戻ってくることだろう。

つづく
                          令和4年9月25日

東鳴子の名店「千両」 看板は外れたまま
名物カツ丼 少々時間がかかるが絶品 
中華そば600円 こちらもたまに食べたくなる
栗駒神水 20ℓを給水
須川高原温泉
この日はガスガスだった
源泉が川のようになっている
源泉の湯元がこの奥

<次回はこちら>


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