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春の東北湯治⑳【鶯宿温泉にて、再会を果たす】

<前回はこちら>

 一泊2,000円の石塚旅館、チェックインは5月1日。
この時期宿を選り好みする余裕はなく、とりあえず大型連休の特別料金が落ち着くまではここに居ることにした。
 湯治旅に出てからも仕事から手が離せずにいたが、やっと世の中的にも休みに入った。テレビ会議もないため、暫し会社のPCは閉じたままで数日間を過ごす。「ワーケーション」から「湯治」へ、ここから完全に切り替える。

 可能であればもっと長くいたい気持ちもあるのだが、こちらはWi-Fiがフリースポット。通信状態は脆弱で、会議は疎か資料作成もままならないほど。
 ポケットWi-Fiも圏外のため、ネット環境を使うにはテザリングで大量のデータ容量を消費することになる。6日は仕事日となるため、その前には別の宿に移らなければならなかった。

 どうやってもワーケーションには向かない環境で、却ってパソコンから解放されるという意味で療養には向く宿と言ってよいかもしれない(※一般の電波は入る)。

 2日目に昼食の仕込みをしていると、見覚えのある女性と炊事場で鉢合せた。

私  「おねえさん??」
女性 「あっ!久しぶりです」
私  「覚えていますか!まだこちらにいらしたのですね」

 
 一年前にこちらで1週間湯治をした時に、この宿で生活しているご夫婦がいた。過去にも大沢温泉や鉛温泉(岩手県)と言った湯治宿で、1年~2年単位で過ごしていると前回聞いた。

 初めての宿で戸惑う私に、カメムシの処理の仕方を教示してくれたこの女性。通常はガムテープで取るのが定石だが、ここでは全く通用しない。とにかく数が多いため、いくらあってもガムテが足りないのだ。

 慣れるまでは大変だったが、ここではペットボトルに水を張り割箸で口から落とす。動きは遅いため簡単で、一度下に落ちたカメムシは二度と上には戻ってこない。湯治場で暮らす人の逞しさを感じた瞬間だった。

 この方にはこごみやモツ煮をお裾分けいただき、いつかちゃんと謝意を伝えたかった。前回の滞在時、最終日は炊事場で会うことはなく御礼を言いそびれていた。
 いくら湯治場で親しくなったとは言え、流石に部屋まで挨拶に行くのは無礼と判断。中でくつろいでいる時間を邪魔してまで私欲のためにやることではないだろう。

 湯治場で何度か経験があるが、色々と良くしてくれた方が急にいなくなってしまったり、仲良くなった方とも連絡先を交換せず、そのままお会いできないことも多い。

 「もしかしたらまだいるかもしれない」

 そう思案し、私はこちらに来る前に嶽温泉で名物の嶽キミ(とうもろこし)を何本か買っていた。会えれば一本お渡しし、いなければ自分で食べるつもりでいた。確率は五分と見ていたが、いらっしゃったために一年越しの御礼が出来た。

 
 奥様と談笑しているとご主人がお見えになられた。前回はお会いしていなかった方だ。
 少々温泉談義で盛り上がると、今度はトウモロコシの御礼にとまた料理を振舞ってもらった。ご主人は安比あっぴ高原で板前をやっていたらしく、手際よく野菜炒めを作り、どこかへ出かけて行った。

私  「凄い早さですね」
女性 「すごいでしょ。もたもたしていると怒られるのよ」
私  「(苦笑)」

 そして今回も、以前いただいたこごみのマヨネーズ和えを拝受。湯治場に顔の知った方がいるのはやはり有難い。

 
 こちらでも車を動かさず、1日4度の入浴を繰り返しながら身体を休める。
無色透明の湯は朝方だと50度近くになっており、ホースで水を差し温度を調整。タイルがかなり剝れており、これも再現不可の芸術品。修繕するつもりもなさそうだ。

 無色透明で、湯垢に見えなくもない湯花が舞う。ほんのりミルクの様な香りのする源泉で、下風呂~恐山~嶽温泉で蓄えた硫黄臭も、完全に抜け切った。

 ストーブを点けるとカメムシが活発になるので、眠る少し前に湯で身体を温めてから布団に就く。今回はほとんどカメムシは出なかった。

                           令和4年5月4日

(※石塚旅館さんは現在新規のお客様は受けていない模様です)

相変わらずの炊事場・・・
一年振りにお裾分け 同じ味
芸術的にボロい浴槽
こどもの日にお孫さんが来るという
全部屋鍵がかからない

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