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源泉回顧録【塩原~南会津① もみじの湯】

 ※この記事は2020年2月の日記を元に、加筆修正をしたものです。


 夏が近づくといつもあの温泉を思い出す。
年々酷化するゲリラ豪雨や水害。毎年聞く ”観測史上最大の雨量” 
 「嗚呼、あいつは大丈夫かな。また、流されていないだろうか?」

 南会津にある名湯、「湯ノ花温泉 石湯」と「木賊温泉 岩風呂」。
共同浴場好きには堪らない風情、募金箱に無人スタイル。川縁に建つその湯小屋は、鉄砲水により度々流されてしまう。

 特に木賊温泉は、川に手が届くほどのロケーション。絶壁の麓にあり、土砂崩れが起こると、湯船がそのまま砂に沈んでしまうという脆さ。足元から湧出するのは源泉は43度、浴用は40度くらいの絶妙なぬる湯。度々長湯でお世話になった。一度入ると長かった、ポコポコ足元から気泡を見ながら大地の恵みを有難く拝湯。2時間は浸かっていた。

 もう今回ばかりは復旧困難か、そんな時も地元有志と全国の温泉ファンからの義援金により不死鳥の如く復活する。源泉の素晴らしさはもとより、梶原一騎作、「あしたのジョー」を彷彿とさせる、何度でも立ち上がる雄姿に心打たれる。

 2019年夏、各地に甚大な被害をもたらした台風19号。未曾有の大災害にこの湯も被災した。それからおよそ半年後、2軒共に復活を果たしたとの噂を聞き、現地を追った。


 近年まれに見る暖冬だった。ダンロップのスタッドレスを新調したものの、今冬全く活躍の場がない。本旅向かうのは東北の玄関口福島県。
栃木県塩原温泉を通過し県南地区の南会津町、下郷村、天栄村へと向かう。例年豪雪地帯となるこのエリアも、ライブカメラの映像を見るとほとんど積雪がなかった。
 
 週末の渋滞を警戒し6時に自宅を出発。少雪のためスキー客不在なのか、ガラガラの東北道。想像以上に快適なドライブ、8時前には西那須野ICを降りていた。ここからは塩原温泉街を抜け、じりじりと下道で福島入りを目指す。

 予定外の早さに一湯立ち寄り。開湯800年以上の歴史を誇る塩原温泉郷。「塩原十一湯」と呼ばれる温泉群。60軒の宿に150本の源泉数。種類や色も多彩だ。東京都心からも2時間、気軽に湯巡りが出来る温泉地として人気を博す。

 ちょうどその中間にある古町温泉、「もみじの湯」は、7時から営業している。関東では珍しい、無人、無料(善意の投金箱あり)の露天共同浴場。 
 吊り橋を渡ると目隠し用の板張りで囲われた浴場が。外からは見えない造りだがワイルド系の野天風呂の雰囲気を残す。
 塩原には以前似たような造りの共同浴場が他にもいくつか存在したようだが、混浴とあり迷惑客が多く、閉鎖に追い込まれたようだ(もみじの湯もその後閉鎖、再開未定)。

 そう言えば、同県の湯西川温泉「薬師の湯」も、数か月前に閉鎖されていた。ここも募金箱スタイルの共同浴場だった。木小屋の中に岩をくり抜いた浴槽があり、鮮度の良いph9.3の源泉が張られていた。町民が当番制で管理しており、この一帯で最も気に入った湯だった。

 前年夏、駐車場に車を停め意気揚々と源泉へと歩いて行った。川縁に向かうと衝撃の光景が。なんと、「ない」。間違いなくそこにあったはずの薬師の湯が、コンクリートのガラだけを残し、跡形もなく消滅している。
 やはりここも混浴だった。観光客の減少かもしれないが、迷惑客が原因だったのだろうかと邪推してしまうほど、怒涛の勢いで混浴は消滅へと向かっている。
 
 「混浴に名湯多し」
温泉ファンには良く知られた話だが、元々限られた湯量しか出ない自然湧出泉。浴槽を切り分けることが出来ず、古くから湧く温泉にはこの形態が残されている。
 時代の流れから仕方ないと思いつつ、混浴の閉鎖の話を聞くたびに、日本人のマナーの零落を突き付けられるような寂寥感が胸に残る。

 
 こちらの湯を始め、近年閉鎖してしまった「広河原温泉 間欠泉 湯の華(山形)」、ごく最近だが「新菊島温泉(福島)」も、超個性派の混浴名湯だった。類似泉を探そうとも絶対に不可能な貴重泉が、次々と閉鎖に追い込まれている。


 「もみじの湯」は、到着が早かったので独泉を期待したが先客がいた。ツーリングで来たという男性2名、この募金箱スタイルの野天は初めてのようで物珍しいようだった。
 
 半年ぶりの本湯。熱湯と温湯の2つに仕切られており交互浴が可能。割と泉質も良く気に入っていた。だが湯に浸かると、ちょっと気になる湯底のヌルヌル感。以前来た時よりも、明らかに滑りがある。
 清掃が行き届いていないのだろうか、そう思った数か月後、「もみじの湯」は閉鎖されてしまった。「ウイルス対策のため」という大義の様だが、復活はあるのだろうか。。


 少し物憂げな旅のスタートになった。 

                           令和2年2月頃

 ※画像はなくなってしまった湯西川温泉「薬師の湯」です。

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