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き っ か け の 青 い 夏

力が付いたからコンテストに出すんじゃなくて
コンテストに出そうとするから力が付くんだよ。

***

デザイン教室に通い始めて
半年ほど経ったころのこと。


「コンテストとかに出してみようとか
考えたりしないの?」
教室の帰りがけ、
私は先輩からそう尋ねられた。

もう6年もここに通っている先輩は
先生も一目置いている存在で
その日も、
二科展に出す作品の構想を
先生と熱心に話し合う声が
聞こえていた。

「私なんてそんな、まだ
コンテストに出せるレベルではないので、
もっと勉強しないと、、」
突然の質問に戸惑って
私がそう答えると

「うーん、それは、逆だと思うよ。」
と先輩は言った。

力が付いたからコンテストに出すんじゃなくて
コンテストに出そうとするから力が付くんだよ。
テキストだけで練習するよりも
実際の課題に向き合ってみた方が
取り組み方も変わってくるんじゃないかな。

やっていくうちに
うまくいかないところは出てくるだろうけど
そうなると
じゃあそれはどうやったら攻略出来るのか
あれこれ自分で考えたり調べたり
やってみるでしょう?

初めから答えが用意されているような
テキストと違って
その方がグンと上達できると思う。
それに、
コンテストに出ちゃいけない人なんて、
そんな人いないんだから。
応募するのはその人の自由だよ。


ハッキリとした先輩の口調に、
その時の私は
曖昧な返事をすることしかできなかった。





帰りの車を運転しながら
先輩の言葉を思い返していた。
誰かにこんなに真っ直ぐな言葉をもらったのは
久しぶりだった気がする。


「自分なんか、おこがましい」
「浮いてしまったら恥ずかしい」
「笑われるかもしれないし」
「もっと、準備してからじゃないと」

そういえば昔からこうやって、
言い訳を並べて
傷つかないエリアの中で
足踏みしてばかりだったな、と思う。

夜風をいっぱいに浴びたくなって
運転席の窓を全開にした。
風は私の前髪を勢いよくさらって
耳元を爽やかに流れていった。

私だって、変わりたい。


家に着いてさっそく
応募中のコンテストを探してみた。
難易度が高いものから易しそうなものまで
こんなにも多くの数開催されていると知って
驚いた。

その中で、
ある病気について理解を深めてもらうための
キャンペーンシールの図案を考える、
というコンテストを見つけた。
応募締め切りまではまだあと2週間ある。
やってみよう、と思った。



「 この作品を応募する 」

そう表示されたボタンを押して
送信完了を確認した。
作って悩んで迷走して修正してを
繰り返した2週間。

提出し終えたことにホッとしたはずなのに
どこか名残惜しいような心地がした。

***



受賞者発表日。
結局、劇的な展開は起こることなく
私は見事に落選した。

先生には後日談で、
コンクールに応募をしてみたことと、
呆気ない結果に終わったことを伝えた。

そうですか。
それはいいチャレンジをしたね。
色々、分かったこともあったでしょう。
どういうデザインを作ったのか
よかったら見せてもらえますか?
どう改善すればよかったか
一緒に考えみましょうか。

そう言って先生は
私の質問に一つひとつ答えてくれた。





実際に誰かの目に触れて、
評価されるという
緊張感。

ちゃんとひとつの形にして
自分のデザインを作り出すことができた
達成感。

自分の力不足に対するもどかしさ。


感じたことは、たくさんある。


それから、もう一つ
大切なことを知った。

「やっぱり、悔しい。

でも、悔しいから、
もっとやってみようと思うんだ。」


「1つのコンテストに応募した」
たったそれだけの事だけれど

私にとって
「きっかけの一歩」だった。


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