き っ か け の 青 い 夏
***
デザイン教室に通い始めて
半年ほど経ったころのこと。
「コンテストとかに出してみようとか
考えたりしないの?」
教室の帰りがけ、
私は先輩からそう尋ねられた。
もう6年もここに通っている先輩は
先生も一目置いている存在で
その日も、
二科展に出す作品の構想を
先生と熱心に話し合う声が
聞こえていた。
「私なんてそんな、まだ
コンテストに出せるレベルではないので、
もっと勉強しないと、、」
突然の質問に戸惑って
私がそう答えると
「うーん、それは、逆だと思うよ。」
と先輩は言った。
ハッキリとした先輩の口調に、
その時の私は
曖昧な返事をすることしかできなかった。
*
帰りの車を運転しながら
先輩の言葉を思い返していた。
誰かにこんなに真っ直ぐな言葉をもらったのは
久しぶりだった気がする。
「自分なんか、おこがましい」
「浮いてしまったら恥ずかしい」
「笑われるかもしれないし」
「もっと、準備してからじゃないと」
そういえば昔からこうやって、
言い訳を並べて
傷つかないエリアの中で
足踏みしてばかりだったな、と思う。
夜風をいっぱいに浴びたくなって
運転席の窓を全開にした。
風は私の前髪を勢いよくさらって
耳元を爽やかに流れていった。
*
家に着いてさっそく
応募中のコンテストを探してみた。
難易度が高いものから易しそうなものまで
こんなにも多くの数開催されていると知って
驚いた。
その中で、
ある病気について理解を深めてもらうための
キャンペーンシールの図案を考える、
というコンテストを見つけた。
応募締め切りまではまだあと2週間ある。
やってみよう、と思った。
*
「 この作品を応募する 」
そう表示されたボタンを押して
送信完了を確認した。
作って悩んで迷走して修正してを
繰り返した2週間。
提出し終えたことにホッとしたはずなのに
どこか名残惜しいような心地がした。
***
受賞者発表日。
結局、劇的な展開は起こることなく
私は見事に落選した。
先生には後日談で、
コンクールに応募をしてみたことと、
呆気ない結果に終わったことを伝えた。
そう言って先生は
私の質問に一つひとつ答えてくれた。
*
実際に誰かの目に触れて、
評価されるという
緊張感。
ちゃんとひとつの形にして
自分のデザインを作り出すことができた
達成感。
自分の力不足に対するもどかしさ。
感じたことは、たくさんある。
それから、もう一つ
大切なことを知った。
「1つのコンテストに応募した」
たったそれだけの事だけれど
私にとって
「きっかけの一歩」だった。
これからもあたたかい記事をお届けします🕊🤍🌿