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眠れない夜に開く本

【とほん読書ノート014】

「もしあなたが憂鬱であったり、不安であったり、そのほか不機嫌なときには、すぐに真面目な仕事にとりかかりなさい。もしそれができにくいならば、だれかに小さな喜びを贈りなさい。」

『眠れぬ夜のために 第一部』ヒルティ/岩波文庫

「突き抜けよ。この短い言葉は、内的生活の多くの危機に、ほとんど魔術的な効果を持つのである。」

『眠れぬ夜のために 第一部』ヒルティ/岩波文庫

「他の人びとが欲するままに任せておいてよいことが、世には限りなく多い。結局、それはどうでもよいことだからだ。」

『眠れぬ夜のために 第一部』ヒルティ/岩波文庫

『幸福論』で有名なヒルティ(1833-1909)が、眠れない夜の時間を自らの人生を見つめ直すために活用しようではないかと書いた本です。

哲学者であり国際法の大家でもあったヒルティですが、何よりもまず敬虔なキリスト教徒でした。聖書を頻繁に引用し、信仰心に基づいた幸福を追求するための内容ではありますが、自身の経験に裏打ちされた実践的な助言も満ち溢れています。

信仰心があるからこそ本当の幸福を得ることができるというヒルティの言葉は無神論者の私にとってそのまま受けとり実行できるものではありません。それでも、何か思い悩んでいるときに、人にはさまざまな生き方があるのだと知ることで、鬱屈していた心の風通しがよくなっていくのを感じることができます。

見えない世界を「信じる」ことによって歩くか、それとも日常の世界を「見ること」によって歩くかにしたがって、人生は非常にちがった相貌を呈することになる。われわれは同一の外的状況のもとで、絶望することもあれば、また実に平安に、それどころか幸福でいることもできる。

『眠れぬ夜のために 第一部』ヒルティ/岩波文庫

悩みがあって眠れない夜の苦しいところは、同じことをぐるぐると考えてしまうところです。本書はそんな心をぐるぐるから解放してくれます。ヒルティはこう考えるのか。私はどうだろう。あの人はこう思うかも知れない。そんなふうに視野を広げていくことで、ものごとを客観的にみることができます。

本書は365日の日付とともに、数行から1ページ程度で完結する文章があるという構成です。眠れない夜にひとつづつ。前から順番に読んでもいいし、その日の日付を読んだり、なんとなく開いたページに目を落としてみたり。ヒルティの信仰心に感服しつつ、自分の心と向き合って、ゆっくりと読み進めたくなる本です。

※とほん企画展「眠られぬ夜の読書」推薦書籍

本書は10年以上前から愛読しています。とほん店主が前職時代に本の雑誌WEBで本書を紹介した文章がこちらです。

今でも枕元に置いて時々読み返しています。

眠られぬ夜のために 第一部
ヒルティ
草間平作,大和邦太郎(訳)
岩波文庫

2022/11/14 改訂版

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