社員教育のポイント(「伸ばす」より「揃える」)
会社の成長のため、社員教育に力を入れることを否定する経営者はいないでしょう。一方で、社員教育は、費用対効果が見えにくいことも事実です。
今回は「社員教育のポイント」をテーマに社員教育実施にあたって経営者が考慮すべきポイントについてまとめていきます。
社員教育の分類
社員教育には、大きく分けて2つの分類があります。「OJT」と「off-JT」です。
「OJT」とは、職場内において、上司や先輩から直接実務にかかる指導を受ける教育です。日常業務内で実施されるため、得た知識をすぐに経験化でき、教育効果が見えやすい反面、指導者によって、指導方法(教育の質)にブレが発生する可能性があります。
「off-JT」とは、日常業務を離れ、社内外の専門家から指導を受ける教育です。必要な知識や技術、理論などを座学中心に学ぶことが多く、指導者による指導方法(教育の質)にブレが発生しない反面、受け手である受講者の知識、経験、姿勢によって、教育内容の活用にブレが発生する可能性があります。
近年では、技術の進展、働き手の価値観の多様化等、企業を取り巻く環境の変化が著しいこともあり、職場内のリソースのみに偏った「OJT」では、社員に必要な教育の場を提供できないと考える経営者が増えています。
その結果として、外部の専門家を活用した「off-JT」の機会が社会全体として増えているようです。
拡大する企業向け研修サービス市場
2023年10月27日に公表された株式会社矢野経済研究所『企業向け研修サービス市場に関する調査を実施(2023年)』によりますと、
と記載があり、コロナ禍により一時的に減退した市場も、再びプラス成長となっています。
一方で、社員教育は費用対効果が見えづらく、かつ、off-JTは、業務を離れて実施されるため、教育期間中、教育参加者による実務による社内貢献がストップするという弊害も発生します。
社員教育にまつわる弊害を踏まえた上で、経営者はどのように社員教育を組み立てるべきなのでしょうか。
これについて、組織の原理原則から考えてみたいと思います。
社員教育はどのような意味を持つのか
組織とは、一人では実現できないことを二人以上の人が集まり実行する過程で生まれます。
すなわち、組織とは目的や目標に向かう上での「分業と調整」の一連の流れと捉えられます。
会社においては、営業、製造、開発、マーケティング、総務、経理等、必要な機能を各従業員に分業し、分業した各従業員の成果を、調整して、会社組織としての成果に結びつけていくことが組織の全体像です。
分業後の調整について、沼上幹著「組織デザイン」(日経文庫、2004年出版)によると、5種類(標準化、ヒエラルキー、環境マネジメント、スラック資源活用、水平関係の設定)があると述べられています。今回は、『標準化』の観点から、社員教育の意味を考えてみます。
上図にある通り、組織における『標準化』の方法には、3つの箇所があります。
「人」という観点でこれら3つの箇所を見た時、
インプット:人材の質(考え方や知識、技術、技能レベル)を揃える
スループット:仕事のやり方を揃える(マニュアル・ルール化)
アウトプット:各人の目標を明確に設定し、ゴール設定で揃える
以上3つのポイントで『標準化』はなされ、分業された各人の成果を一つにまとめ上げていきます。
社員教育の多くは、このいずれか3つのうちのどれかに効果があるものとなります。(副次効果として、部門横断的なoff-JTにより社内の水平関係が醸成される可能性が考えられます)
例えば、新入社員研修は、「インプット」部分の標準化に資するものであり、「社会人とは」という、その組織の当たり前の基準を揃えることを目的とするものでしょう。
一方、スキル系の研修は、インプット面での人材の技能レベルの向上と、スループット面で、標準的な業務の進め方を学び実践することで、メンバー間のズレを僅少化していきます。
管理者研修は、管理者としての目標設定、管理の在り方を学ぶことで、アウトプット面での標準化の手法を学び、標準化の3つの観点を俯瞰で捉え、自ら構築する術を得ることが目的となると望ましいと考えます。
会社はそれぞれに目的や目標が異なるため、目的、目標に向かう上での分業と調整の在り方も異なります。
社員の考え方、スキル、知識等の当たり前の基準(インプット)が異なる中で、いくらOJTでスループット改善の教育を行っても、十分な効果が得られないでしょう。
また、自社の目的としての理念を全く反映させることのない新入社員研修は無意味ですし、管理者研修については、自組織の在り方をベースに、求められている成果に結びつける視点がなければ、現場で活かすことは出来ません。
組織の原理原則、組織の目的や目標といった全体像を捉えた後、社員教育が構築されることが組織にとって望ましい形ではないでしょうか。
求められる目的、ルール、目標、管理の在り方との連動
社員教育を構築するにあたって、教育の前段階として「インプット」「スループット」「アウトプット」の概念を整理する必要があります。
インプット:自社は目的(企業理念)としてどこを目指し、考え方、知識、技能において、どのような人材を求めているのか。会社としての当たり前の基準を明確化する。
スループット:業務の標準化にあたり、ルール、マニュアルを整え、これに基づく教育になっているか。また、必要に応じて、随時、ルール、マニュアルを改善する仕組みを組織として持っているか。
アウトプット:組織の目標は明確か。また、組織目標達成に向けて、各部署、各チーム、各人の目標は明確になっており、関係者間で共有されているか。また、管理者は、目標管理する手法において理解があるか。
上記3点を組織内で整理した上で、不足を改善すべく社員教育を実施していく流れが求められます。
社員教育は「伸ばす」ではなく「揃える」
社員教育という言葉を聞くと、社員の「能力を伸ばす」「出来ることを増やす」というイメージを持たれる方が多いと思います。この考え方自体に問題はないのですが、「伸ばす」「増やす」という言葉は、現時点の状態が基準となるため、「Aさんは伸びたけど、Bさんは伸びていない」というように教育の成果が相対的なものになります。
そうなると組織としての課題と次の施策が検討しづらくなります。
前述した「調整」の観点から考え、社員教育は、会社が求める水準に社員を「揃える」ために実施すると捉えて頂くと、会社の基準と現在のメンバーの状態の可視化が進み、社員教育がより効果的になると考えます。
社員教育を「揃える」で捉えて頂くためにも、社員全員に求める当たり前の基準、各部署・各メンバーの段階に応じた求める基準を可視化することが不可欠です。
記事のまとめ
社員教育は、目に見えないものであり、費用対効果が見えにくいものです。
しかしながら、会社には目的・目標があり、そこに社員が一丸となって向かうために社員教育は力を発揮します。
社員が一丸になるために、インプット・スループット・アウトプットの観点から、自社社員に求められている社員教育はどこにあるのか、社員を「伸ばす」というよりも社員を社内の基準に「揃える」という見方で捉えて頂くことが有効だと考えます。
そして、自社の「目的、ルール、目標、管理の在り方」について、是非、再度、見直して頂き、自社の成長に結びつく社員教育を実施下さい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?