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【小説】蛙男

※この作品は、ノンフィクションの要素をふんだんに混ぜ込んだフィクションです。

---あらすじ---
 
自分の仕事は終わっているのに定時に帰る勇気がなく残業してしまう優柔不断な男、河津未知男。突如スマホに表示された「絶対に変われる4島を巡る6泊7日の旅」という謳い文句の旅に半信半疑で申し込む。旅に出るとその謳い文句の予想外の意味が判明する。
 それぞれ特色の違う4島を訪問し、巻き起きるハプニングを乗り越えた先に未知男が見つけたものとは?


※この作品は、ノンフィクションの要素をふんだんに混ぜ込んだフィクションです。


<序章>

「ーッ。ピーッ。ピーッ。ピーッ。」
 頭の遠くに聞こえていた音がだんだんと耳の方に近づいてくる。それがスマホのアラームだと気づくとともに目が覚めた。もう朝か。さっき寝たばかりのはずなのに。昨日も早く寝ようと思っていたのに、ついついスマホでゲームをしたりTwitterを見たりしていたら寝るのが遅くなってしまった。
 スマホをとり、アラームを止める流れでスマホのロックを解除をした。Twitterを開いて自分が寝る前にアップした投稿をチェックする。いいねが3つ押されている。全部フォロワーからのものだった。3つか。今回は自身があったんだけどな。どうやったらバズるんだろう。そんなことを考えながら胸の上にのっている猫のハッピーを降ろしてベッドから立ち上がった。

 ハッピーは元同僚が転勤で大阪へ行くときに、向こうの寮では飼えないというので引き取った黒猫だ。ちょうど3歳なので人間でいうと、28歳くらいだ。黒猫は不運だという文化もあるが縁起がいいとする文化もある。僕は良い方の解釈をしてラッキーにしようかと思ったが、運任せのラックではなく、運なんかに左右されず幸せになれるようにハッピーと名付けた。貰った時はまだ子猫だったが、教えないのにトイレで用も足せたくらい賢くて大人しい猫なので飼いやすくて助かっている。

 急いで会社に行く支度をすると、ハッピーに「行ってくるね」と言って家を出た。
 
新卒で入社してから5年通っている会社へはドアtoドアで1時間くらいだ。もう少し近ければいいのにとも思うが、東京の中心部に近いと家賃も高くなる。払えなくもないが、帰って寝るだけの場所にお金を払うより、趣味とかに使った方がいい。というほどの趣味らしい趣味もないのだが、単に引っ越しが面倒だという理由の方が大きい。

 いつもの時間に駅に着き、電車に乗ろうと改札の30mくらい手前から交通ICカードを準備する。周りの人の流れを見ながらタイミングを考えてササッとタッチする。間違って引っかからないか、スムーズにタッチできるか、毎回この瞬間はドキドキする。ちょっとでももたつくと後ろの人に舌打ちされかねないからだ。
 ホームのいつもの場所で電車を待つ。電車に乗るといつもの場所に立った。通勤時間帯なので高齢者の乗客は少なく、優先席はいつもの顔ぶれが揃っている。いつも決まって入り口側に座る女性は、3駅先の急行が止まる駅でいつも降りるので、俺はいつもその空いた席に入れ替わりで座る。
 今日もいつものように入れ替わりでその席に座ると、急行の停まる駅でドドドっと沢山の人が乗り込んで来た。俺はいつものようにスマホでゲームを始めた。ゲームのシステム上好きなだけ遊べるわけではなく、体力と呼ばれるものが0になるとまた時間が経って体力が回復するまで遊べない。体力がなくなった俺は、ネットニュースを見ようとしてクリックした。広告収入で成り立っているためか、やたら広告が多い。広告が多いので1ページのデータも重く、すぐに表示がされなかったりする。さらに無駄にページ数も多く、一つの記事を読むのに3,4ページくらいめくらないといけない。その度に重いページをめくらなければならないので記事を読むのに時間がかかる。俺は画面から目を離して記事が表示されるのを待とうとした。
 すると目の前に立っている女子高生の様子が少しおかしい気がした。満員電車なので、単に押しつぶされて苦しいだけかもしれないが、時々顔を歪めながら身体を動かしている。もしかして、痴漢?そう思った俺は、持っているスマホを見ているふりをしながら録画ボタンを押した。じっと観察していると、女子高生は身体の向きを変えようとしているのに、後ろの男がぴったりと女子高生にくっつき、一緒になって付いてくる。男の顔を見ると天井を見上げ目を瞑り、若干微笑んでいるようにも見える。
 (キショッ)
 そう思いながら証拠を捉えようと機会を狙うが、決定的部分が見えそうで見えない。電車は次の駅に着いた。またドドドっと人が降り、入れ替わりでドドドっと人が乗って来た。女子高生は一旦降りてまた同じ場所に乗って来た。そして一旦乗客が乗り降りした時にフォーメーションが変わるはずなのに、痴漢らしき男はまた女子高生の後ろに張りついている。しかも今度は女子高生の前側に立っている。こいつ絶対痴漢だ。そう確信した。俺は一瞬痴漢男の顔を見た。すると痴漢男も俺を見て目が合った。痴漢男はバレたと思ったのか、くっついていた女子高生から身体を離した。
 俺は痴漢男から目を逸らしてスマホを見るふりをした。そしてしばらくすると、痴漢男はまた女子高生に張りついた。俺はスマホの画面越しに二人の様子を観察し続けた。すると痴漢男は屈むような姿勢をしては立ち上がって、また屈んで、という動作を繰り返している。手に携帯を持っている。よく見ていると、携帯を持つ痴漢男の手の甲が女子高生の恥骨あたりにあたっている。痴漢と訴えられた時に「ちょっと携帯があたっただけです」とか言って逃れる気満々なのが分かる。セコイ奴め。女子高生は困惑しているが、何も言えずにいる。
 助けなきゃ。でもどうやって?もし痴漢じゃなかったら?車内はかなり静まっているよな。なんて考えていると、
「ちょっと。あんた、いいかげんにしなさい!」
 急に声がして驚いて顔をあげると、中年の女性が痴漢男の手を捕まえている。さらにそれを見ていた別の女性も加勢した。結局痴漢男は女性2人に捕まえられ、電車を降りていった。周りの乗客はその様子を静かに眺めていた。

 俺は今撮った動画を、顔だけモザイクを入れてすぐにTwitterにアップした。

 
その日の昼休みにスマホを開き、今朝アップした痴漢男のTwitterの投稿を見た。いいね数が1021。千を超えているだと!ついに、

「バズったーーーーーーーーー!!!!!」

 俺はそう叫んだ。心の中でだが。
 スマホを見てから1~2時間は高揚感に浸っていた。コメント欄を見たくてうずうずしながら。

 17時になった。定時だ。いつものことだが誰も席を立たない。自分はもうやることがない。本当に仕事がある時もあるのだが、仕事がない時でもパパッと帰れない。自分でも何で「お先に帰ります」というだけの勇気がないのか不思議だ。
 仕事をしているふりをして残っていると、部長が話しかけてきた。
「川津も残業か?」
「え、いやー、まぁ。。」
「今日新人女子2人とあと何人か誘って飲みに行くんだけど、お前もどう?」
「え、あぁ。どうしようかな」
(新人女子2人か。他のやつらは大分仲良くなってきてるっぽいけど、俺はなかなか話す機会がないから飲み会に行って少し距離を詰めておくかなぁ。でも給料前でお金無いし、明日も仕事だし、あーでも)と考えていると、
「ま、給料日前だしな。無理しなくてもいいよ」
 と、部長はそう言って、俺の答えを待たず席に戻って行った。
 普段は19時頃に誰かが退社し始めるのだが、今日は飲みに行くためか、17時半を過ぎた頃、飲み会参加者の一行が退社したので、それを見送った後俺は会社を出た。

 この会社は大学の就職活動で、30社ほど面接を受けまくり、ようやく拾ってもらった会社だ。特にやりたかった仕事でも入りたかった会社というわけでもない。給料は良くも無いし悪くもない。ただ東京で暮らしていると手元には残るのはしれている。お金を稼ぐために働いているのに、時間もお金もあまり余裕がなく、一体なんのために働いているのだろうと時々考える。

 
帰りの電車に乗ると、ずっと気になっていたTwitterを開いた。
「いいね」の数は昼に見たときよりもさらに増え、1万を超えていた。きっとインフルエンサーとかに拾われて、広がったんだろう。
 
しかし、バズって欲しいと願っていたものの、いざバズってみると大変だった。俺の投稿には様々なコメントが書かれていた。

「犯人終わったな」        「撮ってくれてありがとう」
       「女の人偉すぎ」   「周りの男なにしとるん?」   
            「常習犯やな」
  「続きどうなった?」       「なんで逃げないの?」
        「撮ってないで助けろよ」
     「モザイクかけてたって見る人みればわかるよね」
「ってかそこ優先席だよね?」     「被害者の人晒されて可哀そう」

「撮ったやつタヒね」

 俺への非難はDMでも来た。マイナスのコメントの方が明らかに少ないのだが、マイナスコメントはプラスコメントの10倍位の攻撃力で俺の体力を削った。
 (悪いのは痴漢をしたやつだ。俺じゃない)
 そう思っているのにコメントが気になるのは後ろめさがあるからだろう。
 俺はTwitterのDMを閉鎖し、メッセージを受け取れないように設定して、Twitterを見るのをやめてゲームをすることにした。

 家に着きドアを開けるとハッピーが玄関まで迎えに来た。
 電気ケトルのスイッチを入れ、お湯が沸くのを待つ間にハッピーに餌をあげた。カップラーメンにお湯を入れて、大体3分くらい待ったくらいのところで蓋を開けて、麺をすすった。

 ハッピーはささっと餌を食べ終え、ベッドの上で熱心に毛づくろいをしている。
 いいよなぁ猫は。仕事もしなくていいし、好きな時に好きなだけ寝て、自由でいいよなぁ。

生まれ変わったら猫になりたい

 そう思った次の瞬間、「ピコン」とスマホの通知音とともに通知画面が浮かび上がった。
 見覚えのない通知だった。
 黄色い背景に黒のゴシック体の文字。危険な時など注意を促す時の配色だ。
 なんのアプリの通知だろう?
 タップすると、リンク先に飛び、それが何の通知だったかを確認できなかった。リンク先の画面にはこう書かれていた。

今のあなたとは違うあなたになれる!
絶対に変われる4島を巡る6泊7日の旅
(全朝食付)

大袈裟な広告だ、と画面を閉じようとした時、画面の下の数字が目に入った。

「29,800円」

 やっす!安すぎるだろ。どうせ余った航空券の空席を埋めるための企画とかなのだろうが、沖縄旅行だって6泊7日で29,800円なんてあり得ない。
 海外は修学旅行で行ったきりだ。
 6泊7日か。会社に入ってから有給をとったことがなかった。勿論届出を出したらダメとは言われないだろう。ただどんな顔をされるか。それを考えると、有給をとる勇気がなかった。自分のいない間の仕事のことも心配だ。他の人では出来ない部分も多い。旅行から帰ったらポストがなくなっていた元同僚のことも頭をよぎった。

 ハッピーを見ると、ベッドの上で気持ちよさそうに寝ている。

ポチ。

 ま、なんとかなるさ。
 今まで休まず頑張って来たご褒美だ。
 申し込みフォームを書き入れ、送信ボタンを押した。

 申込をしてから数日後に1通の封筒が届いた。差出人はドリームプランニングとある。例のチケットだろう。中のチケットが破れないよう注意して開ける。中には2枚の紙と航空券が入っていた。紙には、

この度は「絶対に変われる4島を巡る6泊7日の旅」に
お申込みいただきまして
誠にありがとうございます。
どうかお客様の人生が華やかなものに変わるよう
スタッフ一同願っております。

と書かれていた。そしてもう一枚の紙にはこの旅の工程表のようなものが書かれている。フリープランなので行先とホテル名だけ書かれた簡単なものだ。なんだ、目的地が決まっているじゃないか。少し安心した。しかし、どこも聞いたことのない地名ばかりだ。スマホで書かれている場所の名前を入力してみた。
 出てこない。地名がカタカナで書かれているので、正しいスペルでないと出ないのかもしれない。そんなマイナーなところなのか?それとも自分は騙されているのか?急に不安になった。金額自体はそう大したものではないが、会社には既に有給の届け出を出している。旅に行くという話もしてしまった。騙されていたなんて恥ずかしくて言えない。いや待てよ?騙すならわざわざこんな航空券のようなものを送ってくるか?
 とりあえず待とう。最悪騙されていたとしたら、自費でどこかに行こうか。そんなことを考えながら、出発当日を待つことにした。

 旅の当日、田舎の母に来てもらった。自分が留守中のハッピーの世話を依頼したためだ。ご飯や飲み水の分量、トイレの掃除方法などを説明し、母とハッピーに別れを告げて家を出た。

ムルア島

 空港でチェックインの時に聞いた情報によると、最初の目的地のムルア島は、日本から飛行機で7時間ほど南に行ったところにあるらしい。さほど遠くないのにあまり知られていないのは、その島にたいした見どころがないのか日本とあまり繋がりがないのか、理由は分からないが他の人が行ってないところに行けるというのは貴重な体験かもしれない。

 機内食を食べ終え、出されたビールをチビチビと飲んでいると、朝も早かったせいか、だんだん眠くなってきた。特にすることもないので寝ることにした。

 目を開けると床と一緒に見覚えのある靴が見えた。徐々に視線をあげると見慣れたズボンも見えてきた。さらに上を見上げると、見慣れた顔がこっちを見ている。
 そいつと俺は同時に叫んだ。

「俺だ!」「僕だ!」

 確実に俺がそこにいる。俺があいつであいつが俺で・・まさか!
 俺は死んだのか?幽体離脱って下から見上げることもあるのか⁉
 俺は、近くにあった鏡を見た。
 鏡には、俺とケージに入った猫の姿が映っていた。
 右手を上げると鏡の中の猫も右手を上げた。左手を上げると向こうの猫も左手を上げた。間違いない。俺は猫になっている!しかも、この猫は飼い猫のハッピーだ。俺が買ったペーズリー柄の赤い首輪をしているので間違いない。
「お前は、ハッピー?」人間の俺にそう聞くと、
「君は、みっちゃん?」と俺の姿をしたやつが聞いてきた。
「みっちゃん!?ちょっと待て、みっちゃんってなんだよ」クククッ。こいつ、俺のことをみっちゃんって呼んでいたのか。
「だって元カノの咲良がそう呼んでたでしょ?」
 元・・カノ・・・。そうだ、こいつは猫だから、俺が「サッたん❤️って甘えているところや、あんなことやこんなことも、ぜーんぶ見てたわけだよな。
「わーーーーー」
「どしたの、みっちゃん?毛が逆立ってるよ?」
「いや何でもない。もう何も言わないでくれ」

 あとで聞いた話によると、俺が猫になりたい、と思っていた同じ頃、ハッピーも「人間になりたい」と思っていたらしい。
 そしてハッピーの世話に来た母が換気をしようと窓を開けっぱなしにしていたところ、いつも気になっていた白猫が塀の上で呼んでいたので、付いて行った。でも白猫はボスの女だったらしく、ボス猫に追っかけられて必死に逃げて木の上に登った。登ったはいいけど、降りられなくなったハッピーは、近くの屋根に飛び移ろうと思ったら失敗して落ちた。そして気づいたら飛行機の中だった。というわけだったらしい。

 お互いが入れ替わっていることを理解した俺らは、とりあえずこのまま旅をすることにした。
 俺はケージから出してもらい、思いっきり背伸びをした。

 ムルア島の空港は日本の地方空港程の規模の空港だった。免税店のようなものは見当たらず、キオスクのような最低限の飲み物と食べ物を買えるだけの店が一つだけある。
 空港のビルを出ると、ふわっと生温くて埃臭い空気が顔を包んだ。海外に来たな、というが実感が湧いてきた。ハッピーと俺は並んでいるタクシーに乗りこみ、指定されたホテル名の書かれた紙をドライバーに見せた。
 車窓からの景色を眺めると、だだっ広い道路に消しゴムを縦にしたような形・地味な色のビルが点々と建ち並んでいる。街の景観はあまり統一感がなく各々が好きに建てました。といった感じでお世辞にも綺麗とは言えなかった。
 外の世界を初めてちゃんと見るハッピーは興味深々で外を眺めている。
 どうやって積んだんだろうと思えるような2階建てバスの高さほど荷物を積んだトラックが沢山行き来している。よく積荷が落ちないなぁ、と思って走っていたら案の定荷崩れを起こして立ち往生しているトラックがいた。さらに進むと今度は荷台が燃えているトラックがいた。車がビュンビュン走る横で三輪車のような乗り物をゆったりと漕いでる人もいる。そして多くの車が行き交うこの道路を信号機もないところで横断する人達もいた。極めつけは車道の真ん中に人が倒れているのに、誰も助けようとしない。血っぽいものも見えたので車に轢かれたのだろう。俺はその倒れている人が気になってタクシーが通り過ぎても見ていると、それを避ける車がいる中、避けずに轢いていく車が数台いた。さすがにその光景にはハッピーも驚いていた。
 旅の序盤からこんなものを見た俺は、この先の旅が一気に不安になってきた。

 タクシーが信号待ちで止まり、歩行者用の信号機が青に変わると、横断歩道を渡っていた人が停止線を過ぎ突っ込んで来た原付バイクに軽くぶつかった。徐行していたので恐らく怪我はしていないだろう。だけどこれはれっきとした交通事故だ。原付バイクの運転手は軽く手をあげて謝る仕草を見せた。女の人も一瞬「あっ」となっていたものの、通行人同士がぶつかった程度のリアクションでそのまま横断歩道を渡って行った。

 ホテルについて部屋に荷物を置いた。そこで俺はずっと気になっていたことを口にした。
「ねぇ、ここどこなんだろ?」
「知らないよ、そんなこと。僕にとってはみっちゃんの部屋以外全てが外国みたいなものなんだから」
「だからちょっと俺のスマホのGPSで調べてみてよ。ホテルだからWi-Fiくらいあるでしょ」
ハッピーは俺の荷物からスマホを出して、パパっとパスワードのロックを解除した。
「おい、なんで俺のスマホのパスワード知ってんだよ」
「そりゃいつも隣にいるんだからスマホのパスワードくらい分かるでしょ。あとこの7777っていうパスワードやめた方がいいよ。セキュリティ的に良くないから」
「うーん・・・」
 猫にそんなことを言われた俺は唸るしかなかった。
 スマホで調べた結果。正確に言うと調べようとした結果、ここがどこかは分からなかった。ホテルに聞いてもこのホテルにはWi-Fiがなかったのだ。
 仕方がないのでホテルに置いてあったタウンマップを頼りに街に繰り出すことにした。地図を見る限り、電車はないようだ。街の中心まで歩けそうなので歩いてみることにした。

 いつぶりだろうか、目的もなく歩いたのなんて。考えてみれば俺は外を歩くときは必ず目的があってどこかに向かっている。テーマパークの中でさえ次に何に乗るかを決めて、そこに向かって歩いている。スタンプラリーの時にスタンプをもらうことしか頭に無く、途中経過を何も楽しまずにひたすら次のスタンプポイントに突き進むのと似ている。こうやって上を見上げて歩くのだって久々な気がする。いつも目的地を急ぐことばかりを考えて歩いているから、自分が歩く先しか見てない。こうやって歩く速度でゆっくりと街を眺めてみると、目的地に一直線に向かっていた時には気づかないような色々な情報が目に入る。

 ハッピーがお腹が空いたというので、テラス席のあるレストランを探した。テラス席にこだわったのは、猫も一緒に過ごせるからだ。ハッピーは鳥肉の揚げたものと、コーヒーを頼んだ。
 俺は、身体に悪いという理由でハッピーがスーパーで買ったキャットフードを食べていた。もちろん俺の身体を労ってくれたわけではなく、お互い元の身体に戻った時の自分の身体を労っただけだ。せっかく旅に来たのに食事を楽しめないなんて損した気分だ。だが初めてのキャットフードの味は、そう悪くなかった。
 ハッピーが鶏肉をワシワシ食べながら、コーヒーは口に含んだ。
 ブゥッファーーーーーーッ!
 俺の顔面にコーヒーの香りがついた水しぶきが飛んできた。
「苦いっ!」
 俺はいつもブラックで飲んでいるが、実際に飲んでいるやつはコーヒーを飲むのが初めてでしかも猫だから、コーヒーが苦かったらしい。俺が砂糖を入れるように助言すると、「うまい」と言って飲んだ。

 俺は顔にかかったコーヒーを一生懸命舐めて綺麗にした。完璧に綺麗にしたつもりだったがまだコーヒー臭い。どうやら首輪にもコーヒーがかかり、染み込んだせいのようだ。

 
食事を終えて街をぶらぶら歩いていると、マッサージ屋の看板が目に入った。価格表を見ると、現地の言葉と思われる表記の下に英語でも書かれている。60mins 300pow 日本円で3,000円くらいだ。
 ハッピーがやってみたいというので、入ることにした。
 
中に入ると、まだ子供じゃないかと思うような子達がスタッフとして働いている。
 受付に行くと、猫を入れるなら100pow払えという。ハッピーが100pow 払うと、受けとった人はそれをポケットに入れた。
 
個室に案内されると片言の英語で椅子に座るように指示された。英語は話せるらしい。それなりに観光客が来ているということか。ハッピーの担当は日本だと13歳くらいの見た目の嫌みない笑顔が可愛い女の子だった。気さくで拙い英語ながら色々と話しかけてくる。化粧はしてないが肌は綺麗だ。いや、してないから化粧荒れもなく綺麗なのかもしれない。
 この島の事などを、ハッピーを通して色々聞いた。日本人は来るのかとか、何歳から働けるのかとか、ネットは普及しているかとか、気になっていたことを質問した。
 女の子は、日本人はあまり見かけず、働けるのは16歳以上、ネットはあるが、フリーWi-Fiみたいなものはなく、金持ちに自由はあるが、お金がないと病院にも行けないし学校も行けないと話した。
「ねぇハッピー、来る時に見た道路の死体のこと、聞いてみてよ。」ずっと自分の中で引っ掛かっていたので、現地の人に聞いてみたかったのだ。
 ハッピーが来るときに車に轢かれた人が道路に放置されていたという話をすると女の子はこう答えた。
「変に助けると助けた人が訴えられるかもしれないから、関わらないのが一番なのよ」
「でも轢かなくてもよくない?もう轢かれてるのに」
「生きていると、訴えられるかもしれないでしょ?だから確実に死んでもらった方がいいのよ」そう言って、最後に笑顔でこう付け加えた。
「この島は人がいっぱいるから、少しくらい減っても大丈夫だよ」
 まだ幼く純粋そうな少女のこの発言にはショックをうけた。

「やっぱマッサージは気持ちいいなぁ」
 マッサージ店を出て、ホテルへ戻ろうとマッサージ店の建物沿いに反対側へ回った。するとこっちにも同じ店の入り口があることに気づいた。入口と言ってもロゴが大きく書かれた俺たちが入った側の入口とは違い、従業員入口のような地味な入口だ。店名とメニューが書かれた小さな紙が外に貼ってある。ハッピーに抱っこしてもらい、価格表を覗き込む。
「あれ?値段違わない?」
「そうだっけ?」
 こっちの価格表には英語の表記がなくムルア島の表記だけしかなかったが、メニュー構成は同じに見えた。
「ねぇちょっと、写真撮って」と、メニューを写メするようハッピーに言った。ハッピーは鞄の奥からスマホを取り出し、価格表の写真をとった。もう一度確認するため正面入口へ戻り、今撮った写メの価格と比べた。
 やっぱりだ。メニュー構成、書かれているムルアの文字は同じなのに、価格が違う。ハッピーが受けたマッサージは裏口だと100powになっていた。

 次の日、次の島に行くため空港に行こうとタクシーを捕まえようとするが全然見当たらない。タクシーを探すため少し歩くが、店が全部閉まっている。人も昨日と比べてパラパラとしか見当たらず、街全体が静まり返っている。
 なんだよ。あんなにお金が大事だっていうなら、お店なんか閉めないで営業した方がいいのに。

「そんなにカリカリしたって暑くなるだけだよ」
 背後から声がして振り返ると1匹の茶猫がいた。
「どうかしたのかい?」
 そうか。今俺は猫だから猫の言葉が分かるってことか。
 その猫に、今日空港に行かなければいけないがタクシーが捕まえられなくて困っているという話をした。
「しょうがないねぇ、ちょっと着いてきな」と行ってスタスタと歩き出した。歩きながら俺は聞いた。
「今日はなんで店が全部閉まっているの?タクシーもいないってどういうこと?」
「今日はこの島の独立記念日だよ。だから皆休みなんだよ」
「そんな大切な日なら皆でお祝いするんじゃなないの?」
「祝ってるよ皆。それぞれの家で。だって店を開けたらその店の人は休めないだろ?」
 昔の日本の正月みたいなものか。昔の日本も正月はどこも休みだったと爺ちゃんに聞いたことがある。
「ちょっと待ってな」そう言って茶猫は1軒の家に近づいて行った。その家の軒先で6,70歳くらいのお爺さんが庭先で缶ビールを飲んでいた。茶猫がお爺さんに何かを訴えると、お爺さんはこっちを見た。
「あの、タクシーが見つからなくて困ってて」とハッピーがお爺さんに伝えた。
 するとお爺さんは一旦家に入り、戻ってくると「来い」という仕草をして、停めてある車に俺たちを誘導した。そして俺たちはお爺さんに空港まで送ってもらうことになった。
 これで一安心だ。
 ただ俺には一抹の不安が残っていた。そして見事にその不安が的中することになる。

 空港に向かって走っていると、検問が見えてきた。引っかかるとヤバい。さっきお爺さん、は缶ビール飲んでいた。つまり、飲酒運転だ。そんな俺の不安をよそに車は止められ、検問員に聞かれるお爺さん。
 お願いだ。気づかないでくれ!
 アルコール呼気量を量る機械を出す検問員。
 ハーっと息を吐くお爺さん。
 あー、もう駄目だ!
 そう思った瞬間、お爺さんはポケットから現金を出し検問員に渡した。
 検問員は「行け」という合図をした。

 何とか無事に空港に着いた。
 俺はハッピーに、お爺さんにお金を渡すように言った。
 ハッピーは、「これ」と、来た時のタクシー代よりも多いお金をお爺さんに渡そうとした。
 するとお爺さんはお金を数秒見つめ、表情を険しくした。
「少ないんだよ、きっと。もっと多くあげなきゃ」とハッピーに小声で伝えた。どうせ今は人間ではないので小声である必要はないのだが。
 額を増やして再びお金をお爺さんのもとに差し出した。
 すると、お爺さんは手を出し、お金に触ったかと思うと、それを跳ねのけた。結局お爺さんはお金を受け取らなかった。
 いきなり知らない外人を空港まで送ることになって、検問員に賄賂まで渡すはめになって、お金を受け取らないってどういうことなんだ?
 俺はふと田舎にいる父親を思い出した。
 父は、近所の人がどこかに行くっていうと、自分の車を出していた。お金や見返りなんか求めずに当然のように乗せていた。当時は俺もそれが当たり前だと思っていたが、大人になって上京して、ドライブデートでガソリン代をどうするべきとか、女の子側はお菓子や飲み物をあげるべきだとか、よくSNSで論議にされているを見て、それが当たり前ではなかったと知った。

 お金が大事だと思っていた島なので、お爺さんがお金を受け取らなかったのはとても驚いた。しかし、もっと驚いたことがあった。帰りに空港へ向かう途中、行くときに道路に放置されていた死体が、なんとまだそのままだったのだ。

アティティスルイ島

 二つ目の島、アティティスルイ島は、細部に凝ったデザインで曲線に満ちた建物が多く、神秘的な街だった。
 空を見上げると、深い青空に、絵具でしか見たことのないような輪郭がくっきりとした雲が浮かんでいる。

 ただ、暑かった。この島はとにかく暑かった。毛皮を着て、地面から近く、靴を履いていない今の俺にとっては身体の暑さもさることながら、足の裏がとにかく熱かった。俺は日陰に沿って歩いた。

「どこ行こうか?」ホテルに荷物を置いたハッピーは俺に尋ねた。
「適当に、歩いてみる?」
「OK!」
 実は俺はこの適当にぶらぶらするということに快感を覚えていた。
 気の向くまま、行く当てもなく興味のある方向に進んだ。建物と建物の間の細い道路とも言えないような小路を通り、民家の裏口から中の生活を覗き、日差しを避けて寛いでいる猫に挨拶をし、地べたに寝そべっている野良犬に目を合わさないようにし、家の中にいるような服装で近所の人と談笑するおばちゃん達の前を通りながら街の景色を堪能した。
 ここの島でも昼下がりはお店が閉まっている。
 ただ歩いているだけだったが、人間本来、というか生き物本来の生き方をしているように感じ、心地良かった。猫だろうが人間だろうが、もうどうでもいい気がしてきた。

 それにしても暑い。一体いつまで俺はこの身体なんだろう。まさかずっとこのままなんじゃあ。なんてことを考えていると、遠くに公園の木々らしきものが見えた。
「ねぇ、ちょっと公園で休まない?」先にそう言ったのはハッピーの方だった。
 公園の中に入ると噴水が見えた。砂漠のオアシスに向かう象のように俺たちは噴水の方へ向かった。噴水に溜まっている水に手を入れる。水は冷たいと言えるものではなかったが、十分気持ちが良かった。身体全部をここに浸らせたら気持ちいいだろうなぁ。なんて妄想する。
 ピシャピシャ。水の音が聞こえた。
「あ~気持ちいい~」
 ズボンを膝上までまくり上げたハッピー噴水の中に入っている。
「みっちゃんも入りなよ。気持ちいいよ」
「え、何勝手に入ってるんだよ。怒られたらどうするんだよ」
「大丈夫、大丈夫」
 一瞬頭に悪魔と天使が浮かんだが、周りを見渡し、誰もいないことを確認すると、前足からそーっと水の中に全身を入れた。
 あぁ、なんて気持ちいいんだ。解放感と冷涼感に包まれた。

 噴水で涼をとると、ベンチに腰掛けた。
「ねぇ、ちょっと見て」と、ハッピーがベンチの下を指さす。
「どうしたの?」と指の先を見た。
「あ、お金が落ちてるじゃん」
「どうする?」
「警察に、とど・・・ける?」
「日本じゃないんだから、警察に届けたって誰も取りに来ないと思うよ。現金だけなんて特に」
「だよな。猫糞(ネコババ)しちゃおうか」
「うん。でも何かその言い方やめてくれる?」
 そう言って、落ちていたお金を財布に入れた。

 ベンチで休んでいると、警官っぽい制服を着た男が二人、アイスを食べながら、こちらに向かってくる。
 ドキドキしながらその場に固まっていると、ニコニコしながらこっちに手を振り、通り過ぎていった。
 俺らはお金をネコババした後ろめたさもあり、逃げるようにその場を去った。

 公園を出て歩いていると、人だかりができていた。人だかりの中心と思われるところからは怒号のような声が聞こえる。
横を通りながら見ると、1人の男が数人の男に袋叩きにあっている。取り囲んで見ている人達もそれを応援するように見ている。
「え、ヤバくない?さっきの警官に言った方が・・」
「そうだね。でもほら。。。」
「大丈夫だよ。もしバレてるとしたらさっき言われてるでしょ」
 するとちょうどさっきの警官がこっちに向かって歩いてきている。
 ハッピーは走って警官の方に行き、人だかりの方へ来るように身振り手振りで伝えようとしている。
 俺は、木陰にいた白猫に話しかけた。
「ねぇ、ちょっと」
 白猫は顔を動かさず目だけこっちを見た。
「なんであの男が殴られているか知ってる?」
すると白猫が教えてくれた。

「あいつは泥棒だよ。だからしょうがない」
さっきお金を拾ってネコババした俺はギクッとした。俺もバレたらあぁなるのか?さっき警察に届けなかったことを後悔した。
「泥棒って、何を盗んだの?」
「よその旦那の妻を寝取ったのがバレたんだよ。あの殴っているのがその妻の旦那と親父」
「でもあんなことが許されるの?」
「悪さしたんだから、当然でしょ」
「だって罪を裁くのは裁判所とかだろ?勝手にやり返したら殴ってる方が罪になるんじゃない?」
「じゃああんたは自分の娘や妻が他の男に寝取られても許せるのかい?」
「それは・・・」
 だからと言ってこんな目には目を、みたいなことが許されていいわけがない。復習が有りだとすると、恨みの連鎖になってしまう。

 ハッピーが声をかけた警官もその様子を見ていたが、ただ見てるだけだった。

次の日は復習されるようなことをしないように気をつけながら、また街をぶらついた。

アティンテポ島

 アティンテポ島は、アティティスルイ島から小舟で川を5時間ほど登ったところにあった。原住民の村だということで、英語ができるコーディネーターも一緒に行った。
 陸に上がるとすぐにバンに乗り換え、今度は舗装されていない悪路を2時間ほど水上と同じくらい揺られながら進んだ。普段乗り物酔いなどしない自分でも吐き気を催してくる。

 村に着くと、そこが島なのか大陸なのかも分からなかった。コーディネーターは一通り村を案内してくれて、この村の長である村長を紹介してくれた。村長はおしゃべり好きのようで、この村のことを色々と教えてくれた。
 食事は1日2食、芋やバナナなどを食べる。男性は結婚したい女性が初潮を迎えると、その女性をさらって処女を奪う。もし同時に二人の男性が一人の女性の取り合いになった場合は、村長がどちらの男性の嫁にするかを決める。女性に選択権はない。

 俺らは村長に言われた村人の家に泊まった。小屋4畳ほどのスペースで、小屋の住民一家3人+客人1人+猫1匹が寝るにはギリギリだった。急に村長に知らない外国人を泊めるように命令されたこの小屋の旦那とその奥さん、子供に笑顔はなかった。子供にいたっては、訝し気に俺らをじっと見ていた。
 家の主が自分が飲んでいるものを勧めてきた。ハッピーは断れない雰囲気を察して出された飲み物を飲んだ。
「うっ」一瞬顔をしかめようとするが、こらえているので苦笑いみたいな顔になっていた。
 飲み物からは酒の匂いがした。俺は自分の姿をしたハッピーが必死にこらえる自分の顔を見て笑った。
 旦那は飲めとどんどん酒を勧めてくる。
 だんだん慣れてきたのか、ハッピーは調子にのって酒を普通に飲んでいる。俺は酒は多少強い方なので身体の方はある程度は大丈夫だろう。酒が進み陽気になっている。それを見た旦那や奥さんの顔も緩んでいる。しまいには立ち上がって、一緒に踊ろうと誘っている。
 俺も酔った自分を目の当たりにして、酒の飲み過ぎには気をつけようと思った。
 両親が気を許している姿を見て、娘も笑った。
 宴が終わると小屋の一家は眠りについた。ハッピーは用を足すために小屋の外に出たので俺も付いて行った。
 アティンテポ島の夜空は綺麗だった。そしてとても静かだった。この村に長くいたわけではないのに、人工の騒音から隔絶されたこの村にいると、自然の音に敏感になった。木々が揺れて摺り合わされる際に出るちょっとした音や虫の鳴き声もうるさいくらい強く聞こえた。

 次の日は狩に行くというので付いて行った。熱心に働くものがいる中サボっているものもいたが、咎めるものは誰もいなかった。狩で捕った獲物は平等に皆に分けられた。

 村長と話していると、「その靴はどこで手に入れたのか?」と聞かれた。
「日本で買った」と答えると、「欲しい」という。
 いきなり欲しいと言われても困る。靴をあげると裸足になってしまう。
「無理です」
「なんでだ?靴をくれ」
「無理ですって」ハッピーも困っている。
 すると今度は、「じゃあその服でいい。君たちはこの村に来るのに土産を持ってこなかった。土産を渡すべきだ」と主張した。
 確かに土産を持ってくるのを忘れて失敗したと思っていた。しかし靴や服を渡すとこの先の旅に支障をきたす。物を渡すのに渋っていると、村長は
「Ж★Д!ΞΛ!!!」と凄い剣幕で憤激した。コーディネータも訳さなかったので何を言ったか分からなかったが、さっきまでニコニコしていた村長が急に怒りだしたので俺らは恐怖で固まった。
 仕方なく僕はハッピーに着ているTシャツを村長にあげるように言った。靴は一足しかないが、Tシャツは何枚かあったからだ。足りなければ後で買えばいいし。とも思った。
 実は狩に行った時も度々こういうことがあった。怒りの矛先は俺たちではなかったが、今まで平穏に過ごしていたのに急に怒りだし、またすぐに何事もなかったように大笑いしていた。

 彼らは、怖いと思えば怖い顔をし、悲しい時には悲しい顔をした。常に感情と表情が一致していた。初めはいきなり怒り出したりして怖かったけど、気を使うとか空気を読むとかいったことをしないので、この人は本当は何を考えているのだろう、とか考える必要もなく楽だった。また問題を引きずらないのも彼等のいい部分だった。
 俺は普段、相手がこう思っているのではないだろうかと想像して、良かれと思って行動したことも、実は相手にとっては全然そんなことなかったり、反対に気をを悪くさせることがある。しかもそれを教えてくれればまだ救われるのだが、何も言ってくれないから、俺の悪い印象だけがその人の中に残っていたりする。

 別れ際、ハッピーは日本語で「ありがとう」と伝えた。
 後で「なんで日本語なの?Thank youくらい知ってるでしょ?」と聞くと、「Thank you と言ってコーディネーターに現地の言葉に訳してもらうことや、直接現地の言葉を教えてもらって伝えることもできるけど、僕が伝えたいのはThank you の気持ちではなく、ありがとうの気持ちだったんだよ」と答えた。
 ハッピーに「ありがとう」と言われた彼等は、俺らと会ってから一番の笑顔を僕らに向けてくれた。

原住民達と別れたあと、朗を見ると浮かない顔をしている。
「どうしたの?」
「気持ち悪くて」
「え、大丈夫?なんか変なものでも食べた?」慣れない原住民の食事が合わなかったのかもしれない。
「いや、身体」
「ん?」
「洗ってないから。早くシャワーしたい」
綺麗好きかよ・・・

星も綺麗だし、毎日仕事に追われることも満員電車のストレスもないし、こういう生活もいいなぁと思って、ハッピーにこう言った。
「彼等には発展とかしないで、ずっとこのままでいて欲しいな」
「なんで?」
「だって、この古き良き文化を守って欲しいじゃん」
「それは彼らが決めることじゃない?僕ら猫だって、人間が勝手に良かれと思って服を着せたり、誕生日ケーキで祝ったり、長生きするようにとマズイご飯で管理しようとしたりするけど、僕らからしたらそんなのどうでも良かったりするからね。おいしいご飯を毎日食べて、適当に遊んでくれて、ブラッシングやマッサージを沢山してくれた方が嬉しいんだよ。でも人間たちはそんな僕らの気持ちなんて分からないだろ。」
 言われてみればなるほど、不便な時代を経て今があるわけで、今更不便な生活をしたいなんて俺は思わない。でもその一方で、俺の婆ちゃんは便利な家電があるのにわざわざ古くて手間のかかる方法でやっていた。人それぞれ心地の良いポイントというのは違うのかもしれない。

そして帰りもまた、俺らは再び吐き気と闘いながら来た道を戻った。

タベルリ島

「おはよう!」
ホテルの部屋で目を覚ますと、レストランで朝食を食べ終えて、爽やかな顔をしたハッピーが戻って来た。
「やっぱシャワーを浴びれるって最高だね」

 今回の旅の最後の島、タベルリ島は他の3島と比べてあきらかに近代的だった。高層ビルなんかも立ち並び、交通量も多い。なんだかホッとしている自分がいた。
 街を見わたすと見慣れた黄色いmの文字にハンバーガーのモチーフの看板が目に入った。
「今日はマックでいいかな?」とハッピーに聞いた。
「なんで食べないみっちゃんが決めるの?しかもマックって、、、日本でも食べれるじゃん」
「いや、ほら。お前もいつまで人間の姿か分からないだろ?今のうちに人間の代表的な食べ物も食べておいた方がいいかな、と思って」
 ハッピーにはそういったが、知らない土地での旅で少し疲れていたので気を落ち着かせたかったというのが本音だった。

 
店に入るとお店の雰囲気は若干違うものの、脳に刷り込まれた空間デザインが広がっていて、安心する。
 メニューには初めてみる美味しそうなものがいくつかある。
「俺、あれ食べたい」
「みっちゃんはダメだよ」
「え、なんで?昨日、猫だって食べたいものを食べるべき、みたいなこと言ってたじゃん」
「そうは言ったけど、みっちゃんは人間に戻ったら好きなだけ食べられるんだから、今は無理して食べることないよ」と言って、
「僕の身体だし」と付け足した。
 結局それだろ。
 そう言ってハッピーは一人でフィレオフィッシュバーガーセットを注文した。
「飲み物は何が美味しいかな?」
「うーん。オレンジジュースとかが無難かな?炭酸は初めてだと無理かもしれないし」
 注文を終えて来たものを見ると、フィッシュバーガーとフライドポテト、オレンジジュースにコーラがついていた。
「コーラも頼んだの?」
「いや、頼んでないけど。間違いかな?」
「うーん。ちょっと待って」と、もう一度メニューを確認した。
「これ、セットのコーラって変えられないんじゃない?変えられるって書いてないし」
「日本だと変えられるの?」
「うん、日本だとね。でも普通一人で2杯飲むとか思うかなぁ?」
「お客さんが注文したものに対していちいち突っ込まないんじゃない?本当に2杯頼んでたとしたら、失礼じゃん」
「確かに」
 そういえばセットの飲み物を変えられると当たり前に思っていて、いちいちメニューなんか確認したことがなかった。

「うっま~」ハッピーはフライドポテトを頬張っている。
「僕が子猫の時に1度だけマックのポテトくれたじゃん?」
「そうだったっけ?」
「うん。あれめっちゃうまかったんだけど、2本目食べようと思ったらヒョイってとりあげられたからさ、あれ以来みっちゃんがマックのポテトを買ってくる度に、匂いだけするけど食べさせてもらえないのが辛かったよ」
「だってこんな油っこくて塩分高いもの、猫に食べさせるわけにいかないでしょ」
「まぁそうだけどさ。にしても、うっまー」
 俺ってうまいもの食べてる時ってこんな顔するんだ、幸せそうな顔してるなぁ、と自分の姿を見て思った。逆に今、俺の鞄から取り出して、前の残りのキャットフードを食べている猫の顔は不満そうな顔をしているんだろうな、と想像した。

 
隣ではカップルの男が女に自分の飲み物を進めている。女は男になにやら告げると、男は手を差し出した。すると女は口に入っていたガムを手で取り出し男の手の上に置く。飲み物を飲むと再び男の手からガム取り口に戻した。
 この、一度口に入れたガムを口から出して再び入れて噛むという発想を思いつくのも、一連の流れをお互い大人なのになんの躊躇もなくやってのける自由さがなんだか心地よく、また羨ましくもあった。

 タベルリ島は、電車も通っていたので電車で移動することにした。電車に乗ろうと電車の入口を通ろうとすると
「Ж★※Д▽ΞЖΛ!!」と僕らに向かって何か言われた。急に言われたので、何を言ったのか全く分からなかった。ヤバい。猫はダメだったか?と思った瞬間、そのおっちゃんは違う方を指さした。
 指の先を見ると「入り口」と英語で書いてある。どうやら俺たちは出口から入ろうとして注意されたようだ。そういえばここの島はあらゆる場所で入口と出口が別になっている。普段そんなこと考えていないから入口らしきものがあると無意識で入りそうになってしまう。

 電車に乗ると、席は全部埋まっていて、座れなかった。
俺は地面の上を歩くと危ないので、地下鉄内はハッピーに抱っこされて移動をしていた。抱っこされる眺めはなかなか悪くない。
「あぁ、重い」ハッピーが言う。
「人間のお母さんになったと思えば大したことないよ」人ごとなのでそんなことを言ってみる。
「そんなこと言うなら床に置いて踏まれてもいいの?」
「ごめんごめん。こんな異国の地で、しかも猫の姿で人生終えたくないよ。だからもうちょっと辛抱して」
すると一人の若い女性が
「どうぞ」と英語で言って席を立った。
「あ、、、」ハッピーがなんか言おうとしているが、元々英語だってそんなに話せない上に急な出来事に対応できずアタフタしている。結局うまく断れず、素直に座ることにした。
 その若い女性は「いい子ね」と言って、僕の頭を撫でた。
 猫のままいるのも悪くないなと思った。
 その後も何度か電車に乗り、何度か席を譲られた。勿論優先席ではなく、普通のシートに座っていた人にだ。不思議に思って周りを観察していると、年配の人はもちろんだが、年齢や性別関係なく、疲れてそうな人にも声をかけているようだった。

 電車を降りて階段を降りていると前を降りている女性が重そうに荷物を持っている。すると近くにいた男性が女性のもとに駆け寄り、一言何か言ったかと思うとサッと荷物を持った。階段の下まで荷物を運ぶと足早に去って行った。女性はいい慣れた感じで軽くお礼を言った。

 今日は旅の最終日だったので、猫もゆっくり話が出来るようにホテルの部屋で食事を済ますことにした。
 一体俺はいつまでこの身体なんだろう。まさかずっとこのままなんじゃあ。なんて不安がよぎった。数日猫になってみて、思ったほど楽でないということに気づいた。
 まずご飯。毎日キャットフードで飲み物は水一択。そして何より娯楽がない。今は旅の途中なので色々見れて楽しかったけど、四六時中部屋の中で毛づくろいをしたり寝ているだけなんて耐えられない。
「やっと気づいてくれたね。僕はゴールにゃんデラックスのチキン味のドライフードが好きなのにさ、いつも安いニャントミックスのカツオをを買ってくるじゃん?またいつかゴールにゃんデラックスのチキン味にならないかなぁと思ってたんだけど、ずっとニャントミックスだし、おやつだって気まぐれでくれるじゃん?みっちゃんだって、今日は鍋だって時はずっと鍋の舌になってるでしょ?猫だって今日はおやつを貰えると思っておやつの舌になってるのにおやつが出てこないと辛いのよ」
「うん。よく分かったよ。今度からドライフードはゴールにゃんデラックスのチキン味にするよ。おやつも毎日仕事から帰ったらあげる。あと時々だけどフライドポテトも食べさせてあげる」
「それからブラッシング。みっちゃんたまに面倒だからと言ってサボるでしょ。あれちゃんと毎日やって欲しい。唯一の楽しみなんだから」
「はい。分かりました」
「あとさ、香水臭い女を家に連れてきて来るのもやめてくれない?」
「え?」
「人間にとってはいい匂いでも、鼻のいい猫にとっては我慢ならないんだよ」
 確かに、俺も猫になってみて、ちょっとした匂いでもキツかったことが
何度かあった。
「猫も色々大変だってことが分かったよ」
「僕も人間も考えないといけないことが沢山ありすぎて大変だって思ったよ」
「今度からはもっと猫の気持ちも考えるようにするよ。無論元の体に戻れたらだけどな」

「それにしても自分が変われる旅って、まさかこういう意味だとは思わなかったな。まさか姿が変わるとはな」と僕が笑うと、
「変わったのは姿だけじゃないと思うよ」
「え?」
「この旅を通してみっちゃんの価値観や考え方も変わっていると思うよ」
「そうかな?」と俺は答えた。

 今回の旅を振り返ってみた。いきなり猫で旅をすることになり、慣れない猫の身体に戸惑った部分も多かった。トラブルもあった。トラブルに巻き込まれている最中は必死で、楽しむ余裕なんてなかったけど、時間が経って振り返ってみるといい思い出になった気がする。何もなくスムーズに旅をするよりも色濃く思い出に刻まれたことは間違いない。たった6日間だけど、凄く凝縮されたあっという間の6日間だった。あとハッピーの気持ちも知れたし。
「ね、ハッピー?」
「ん?」ハッピーは、揚げ物やスナック菓子、チョコレートやデザートなどを買い込んで、いつ終わるか分からない人間の食事を噛みしめている。

 翌朝、荷物をまとめて空港に来た。俺はもちろんケージの中だ。
 これから暗くて狭い中で数時間我慢するのかと思うと気が遠くなってきた。カウンターでハッピーがチェックインを済ませようとする。
 カウンタースタッフが首を傾げている。
「予約が入っていません」
 なんだって?そんなわけない。ハッピーに粘るように言った。
粘って詰め寄ったが、やはり予約は入っておらず、さらに本日は満席だという。カウンタースタッフは「NO」の一点張りなので、一旦俺らは公衆電話から旅行会社に電話した。
「申し訳ございません。日付を間違っていました。すぐに手配いたします」といって、帰りの便を手配してくれた。だが新しく手配された便の日付は、なんと1週間後だった。
 1週間もここで滞在しろと?仕事はどうする?お金は?もうお金もそんなにないぞ?

 次の日起きると、身体が重かった。長旅の疲れが出ているのかもしれない。
 周りを見たが、ハッピーがいない。朝食でも食べにいったのか?起き上がり、目の前にあった鏡を見ると、そこに映っていたのは、俺だった。俺とはつまり人間の俺。
 右手を上げると鏡の向こうの俺も右手をあげて、左手を上げると鏡の向こうの俺も左手をあげた。
 戻ってるーーー!!

 つまり、もともと旅の予定は6泊7日。本来帰るはずだったのは昨日、だから予定通り俺らは昨日元に戻ったのだろうと推測した。
 せっかく人間に戻ったので街に繰り出した。食べたかったマックのメニューを食べたり、観光をして人間としての旅を堪能した。

 次の日俺は空港に行った。カウンターで便の空きを聞いてみた。
「あるわよ」とカウンター職員は答えた。
 ダメ元ではあったが、もしかしたらと思い、来てみたのだった。キャンセルが出たのか、もともと満席ではなかったのかは分からないがそんなことはどうでも良かった。
 「帰る」という目的を達成できたのだから。そうして俺は言われていた1週間後より5日間早く飛行機に乗り込んだ。

<帰国>

 空港から帰りの電車に乗ろうと交通ICカードをゆっくりと出してタッチする。タッチした瞬間後ろの人が自分を抜かして前を走っていく。旅の間盗まれないようにと、鞄の奥の方に入れていたので、カードを出すのに時間がかかっていたのかもしれない。

 スマホの電源を入れた。ツイッターを開いたが目の前がぼんやりとして中身が頭に入ってこない。他のアプリも開く気にならず、スマホをズボンのポケットにしまった。不思議なことに、ボーっと何もしていない時間がそれほど苦にならなくなっていた。
 乗り換えの駅を降りると、20代くらいの青年が大きいスーツケースと大きいボストンバッグを2つ重そうに抱えて階段を降りていた。
 僕は考えるより先にその人のところに行って声をかけた。
「手伝いましょうか」
「大丈夫です」
遠慮だと分かったので、「大丈夫ですよ」と言って荷物をもって階段の下までおろすのを手伝った。スーツケースは思っていた以上に重かった。
「あ、ありがとうございます!」と戸惑いと喜びが混じった顔でお礼を言われた。

 空港からの電車から自分の最寄駅が通る電車に乗り換えると、スーツケースを持った人の多い少しのんびりとした空間の空港からの電車とは違い、緊迫感とストレスの悪霊に取りつかれたようなスーツ姿の人たちが多く目立った。急に現実に引き戻された。さっきの電車とは違い乗客も多い。
 ふと9日間も仕事を休んでしまったことが気になりだした。9日間分の仕事を取り返すと考えると、少し不安になってくる。
 有給を提出した時、部長は「おお、珍しいな。楽しんで来い」と言ってくれた。あれは本心じゃなかったのかもしれない。そんな風にも思えてきた。

 電車は帰りの通勤ラッシュ時間で混んでいた。もう少し旅の余韻に浸させてくれよ、と思った。
 ふと視線を落とすと後ろを気にしながら困った顔をしている女性がいる。
 俺は急いでスマホだした。そしてスマホを女性にだけ見えように出した。
 女性はこくっと頷いた。
 僕は女性の後ろに立っていた男に声をかけた。
「あの、女性の身体にあなたの手が触れているようなのですが?」
「え?いやっ。あーそうかな?すまんすまん」と言って男は逃げるように別の車両に移動した。
 女性は、「ありがとうございます」と俺に例を言った。

 最寄駅に着くと外はもう暗かった。家に着くと、鍵が開いていた。ドアを開けると、ハッピーのお世話を頼んでいた母親が玄関に飛び出して来た。
「ちょっと、未知男!あ~、良かったよ~」
 母親とはいえ、おかえりの一言もなく話し出すなんて一体何なんだ、この人は、と思っていると、母はさらに続けた。
「あんたが出かけた日よ。ハッピーが逃げちゃってさ。辺りを探したんだけれど全然いないのよ。ふらっと戻ってくるかなと思ったんだけど全然戻ってこないし、探偵にでも依頼しようかと思ったんだけどさ」
 向こうでハッピーと一緒だった、というより自分がハッピーに入っていたのだからこっちにいなくて当然だろうとは思っていたが、自分の身体に戻ってからのハッピーの行方が気になっていた。
「そしたらつい二日ほど前にふらっと戻って来たのよ。良かったよ」
その話を聞いていたのかハッピーが寄って来た。
「んにゃぁ~」
「本当どうしようかと思ったよ。ねぇ、ハッピーちゃん」と猫撫で声でハッピーに話しかける。我が息子にはそんな優しく話しかけたことはない。なんて思ったりもするが、とにかくハッピーが戻っていて良かった。いや、もしかするとあれはハッピーではなかったのかもしれない。もしくはずっと何かの夢をみていたとか?いずれにせよどう考えても理解可能な出来事ではなかった。
 安心してハッピーの顔を見ると、首輪に茶色い染みがついている。染みに顔を近づけて匂いを嗅ぐと、微かにコーヒーの香りがした。俺はすぐに首輪を外してあげた。
「あ、そうだ!靴穿いてるならゴミ捨ててきてくれない?」
と言って母は45Lのゴミ袋を渡して来た。
 長旅から帰ってきた息子に一歩も部屋に上がらせず、尚且つゴミ捨てを頼むというあまりにもマイペースな母に言い返す言葉も見当たらず、素直に荷物を玄関に降ろし、ゴミ袋をもって再び外に出た。

 マンションのゴミ捨て場に向かおうとエレベーターに乗り、1Fのボタンを押した。扉が開いてエレベーターの外に出るといつもの景色と違う。
 階を間違えたか?
 引き返そうと思い周りを見た時だった。
 あれ?あんなところに階段が。そうか、ここは最上階か。自分の住むフロアとはレイアウトが随分違っていた。興味本意で少し歩き進み、階段があるところまで来た。階段は屋上へと繋がっていた。その手前に柵があり『屋上へ入る際は十分ご注意ください』と書かれている。柵に鍵はかかっていなかった。どうやら自由に屋上に行けるようになっているらしい。柵を開けて屋上に上がった。
 屋上に上がると、それほど高いマンションではなかったが、近くに高い建物が少ないので街全体が見渡せた。毎日通っている会社の周りの高層ビルも意外に近くに見える。ビルの窓から漏れている灯りが輝いて、まるで星空のようだ。
 その小さくなった沢山の建物を見下ろしていると、自分の中にあったモヤモヤが一気に晴れて、全ての問題が大した問題でないような気がした。
 何とでもなる。何も怖くない。
 ここを降りて、朝になり、普通の生活に戻って、また詰まることがあると思う。でもその時はまたこうやってここに来て上から見下ろせばいい。そう思った。

 部屋に戻ると、母さんが、ハッピーの餌がなくなりそうなので買ってくるという。なんの餌を買えばいいかと聞かれたので、僕は答えた。
「ゴールにゃんデラックス-チキン味で」と。
 ハッピーの方を見ると、俺に向かってウィンクをした。
                        ・・・ように見えた。



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