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怪異を訪ねる【緑風荘】番外編 その後

 初めて訪れた東北の、新縁が爽やかな風土を身に纏い、念願だった緑風荘での検証から自宅に戻った。普段の旅行であれば、帰宅すると一気に現実に引き戻される感覚に陥るのだが、不思議なお宿でパワーを授かったからなのか、怪異がまだ地続きになっているようで、亀麿様はどこかで私を見護ってくださっているような有難さを感じて日々が再出発した。前向きな気持ちで人生を歩むきっかけとして、不思議を求め彷徨うことは悪くないものである。

 本稿では、その後の話として、緑風荘での記録を総括して、さらに帰宅後に起きた不思議な話も追記しておきたい。

 緑風荘に限らず、あらゆる旅館で「ザシキワラシは気に入った宿泊客に付いていく」と言い伝えられている。前回までの投稿でも記したが、まず、私の緑風荘での体感としては、槐の間よりも宿泊した部屋でのほうが不思議な感覚があった。埃の可能性が高い写真は何枚も撮れたが、埃にしては不自然な、色味が明瞭だったり大きめのオーブが写った写真は全て客室で撮影されたものだった。まだ写真をご覧になっていない方は是非とも確認して頂きたい。
 今回の検証では、一泊二日の僅かな滞在時間で、槐の間と客室、亀麿神社、廊下などに意識を集中させた。何か不思議な写真が撮れないか、声が聞こえないか、足音は聞こえないか、夜に寝ている時に気配がしないかなど、春を迎えた旅館の平穏を享受ししつつも、怪異を訪ねる気持ちを絶やさなかった。
 しかしながら、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言間近という混沌の社会情勢であっても、普段から予約が殺到する人気の宿なので、宿泊客はそれなりの人数が居たこともあって、少し気配を感じたり、廊下から足音が聞こえたぐらいでは、それが座敷わらしによるものかは判別困難であると思い知った。もしかしたら、私が部屋で聞いた存在しない二階からの足音や、就寝中に聞こえた廊下を歩くような音は亀麿様からのサインだったのかもしれない。だが、テレビ番組のように、一日、旅館を貸し切って特別に検証させて頂けるような力は私にはない。限られた時間と空間で怪異と遭遇する可能性は低く、だからこそ、また次を期待する気持ちも同時に芽生えたのだった。

 自宅に帰ってからは、亀麿様が身の回りに影響を及ぼしていないか、時間のあるときに部屋で検証を続けてみた。例えば、夜に寝る時にスマートフォンのカメラで部屋を撮影したときのこと。これまでは特に不思議な写真やオーブが写り込んだこともない。しかし、埃に混じって、異様な大きさのオーブが画面に乱入したり浮遊している写真が撮れた。

カレンダー横に大きな白いオーブが写る
箪笥の上に写ったオーブ。表情があるようにも見える

 部屋の灯りを暗くしてカメラ機能の照明を点けたり、フラッシュを焚いて撮影すると、埃が光って球のように写ることはこれまでの記事で言及した。しかし、素早いスピードでその存在感をアピールしてくるようなオーブや、他の埃より明らかに大きな恰幅の良いオーブが出現したことは事実である。そのような現象が一ヶ月ほど続いた。

 またある日のこと。座敷わらしのことは深く考えず、実家の家族と画面を映し合ってテレビ電話をしていたときの話。たまたま父親と近況報告を話し合っていると、突然、画面に映る父親の目が丸くなったように私を見て、僅かな沈黙が流れた。

「今、白い球がお前の後ろを通ったぞ」

 画面に集中していた私の目にも、後ろを横切る何かがはっきりと確認できた。おや?と思ったときに父親からその言葉を掛けられたのだ。これまで何度もテレビ電話をしているが、このような異変が起こったのは初めてだった。

かなり大きなオーブが映った部屋

 それ以降も、部屋で定期的にカメラで動画を撮影していると、大きなオーブが不規則な動きで通過したり突進してくることがあった。緑風荘と同じ現象が私の家でも起こっているのであれば、私を気に入った亀麿様が付いてきてくれたのかもしれない。不思議な縁だとプラスに捉えてその後の人生を過ごしていると、何だか、ネガティブな思考が減ったようで、それだけでも緑風荘に足を運んだ価値はあった、と感謝の気持ちで胸は一杯になった。
 
 怪異を訪ねる。緑風荘での時間は、私にとっては遠方で検証、取材をすることのきっかけを授けてくれた、忘れられない大切な第一歩となった。

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