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 夜の槐の間から部屋に戻った。散らかした風船や玩具の位置が変わっていないか、期待込めて確認してみたが特に変化はない。座敷に腰を下ろして、いろんな角度からカメラで室内の撮影を試みる。

風船が動くことはなかった

 ここで、洗面台に向かい、しばしば異界との入口と表現される鏡の前に立ってみる。合わせ鏡は異界への道が拓けるとか、電気を消して待つと悪魔が現れるなど、伝承や都市伝説の類は世界中に流布している。さて、自分と対峙してしばらく沈黙を過ごす。スマホのカメラで写真を撮ってみる。

鏡を撮影。水回りのお手入れも清潔な緑風荘さん

 オーブはおろか、人影など写ってはいなかった。まさか、何も起きないだろうと思ってはいても、どうしても夜の鏡は意識してしまうものだ。

 一旦、消灯。シチュエーションを変えて変化を窺う。

就寝用の明かりだけが点いた部屋

 真っ暗にすると何も写らないので、微かな明かりをどこかに点けて、部屋の配置がわかるぐらいに留めておく。デジカメで撮影すると、赤黒く部屋は写って不気味だが、不思議な感覚はなく怖さもない。何度か電気を点けたり消したりして撮影を繰り返すだけの時間が過ぎた。
 午前一時半。撮った写真を見返してるときに、あることに気が付いた。テレビ画面の方を連続で撮影した複数の写真に違和感がある。

テレビ画面に埃のようなものが確認できる

 写り込んだテレビ画面の真ん中やや右側をご覧いただきたい。パソコンや携帯電話の画面を明るくして確認いただければわかりやすいが、白い塊が見える。

白い物体の拡大版

 一瞬、また埃が写り込んだだけだと思った私は、次の写真を確認してみた。

連写の二枚目。白い物体は写っていない

 やはりそうだ。埃が飛んで移動したから写らなくなったのだ。やや撮影した角度が異なるが、ほぼ同じ撮り方だからそんな風に受け流した。そして次の写真を確認する。

今度はテレビ画面にはっきりとオーブが写る
拡大版。白いオーブが確認できる

 どの瞬間にどのタイミングでフラッシュを焚いて撮ったかは、一枚ずつ記憶できる方はいないのではないだろうか。それは私も同じだ。だからこそ、いつの写真で何枚目はフラッシュを焚いたかは記憶にない。それはともかく、写り方から推測すると、このときはフラッシュを焚いたはずなので室内が青白く映ることは仕方ない。そういうこともあるだろう。稀に赤色や真っ黒な写真が撮れることもある。その前後で災いが関係者に起こる話も怪談ではよくあることだ。ただ、この写真は確かに不思議だが、すぐさま霊的な何かの影響と断言することは難しい。偶然にも色が変わったんだなあぐらいにしか思わない。
 問題は、白いオーブだ。やや角度を変えて撮ったが、軽微な埃にしては滞留時間が長すぎる。また、輪郭がはっきりしている。テレビの向かい側にある押し入れやお手洗いのドアノブが反転して写ったのだろうと思ったが、振り返ると押し入れの引き戸は真っ黒な丸型であり、お手洗いのドアノブはL字型の下げるタイプである。どうやらその可能性もなさそうだ。

テレビ画面の反対側
テレビ画面に反射しそうな球体はない

 不思議な写真が撮れたと思っていたら、時刻は午前二時。いよいよ丑三つ時に入っていく。もう少し粘ってみる。

静かな暗い部屋

 何かの気配を感じることもない。三十分が経過したが、睡眠はそれなりに取りたいので、潔く寝ることにした。ベッドから写真を撮ってみる。

居間を撮った写真。埃とオーブの共演

 かなりの量の球体が飛んでいる写真が撮れた。埃も混じっているとは思う。ただ、直前に埃が舞うような大袈裟な動きは取っていない。これまでの写真ではこれだけの埃が一斉に写ったことがなく、「何故、今回の検証でこの一枚だけが?」という疑問は残るが、言えば切りがない。
 小さな明かりを点けて、少しずつ真っ暗にして眠りに就く。漆黒の闇に向かって「亀麿くーん」とか「亀麿さまー」と呟いたり、心の中で言葉を発してみる。そうして何もないまま、眠気も起きず沈黙が続いた。

「タン、タン、タン、タン」

 どれほどの時間が経ってからか、足音が聞こえてきた。私のベッドの頭側が廊下だ。廊下から足音が聞こえる。「こんな時間にも槐の間に行って検証する人もいるんだなあ。そりゃそうか。自分ももう一回、行っても良かったんだけどなあ」そんなことを考えていると、意識は遠退いていった。(続く)

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