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東京大学2019年国語第1問 『科学と非科学のはざまで』中屋敷均

 本問については、きわめて異例なことに、著者自身による解答例が公開されている。(著者オリジナルの解答例を公開!
 これを読んであらためてわかることは、著者の書いた文面から、著者自身の頭のなかにあったことを読み取ることは、やはり至難なのだということである。

問題文はこちら

(一)「自然界ではある意味、例外的なものである」(傍線部ア)とはどういうことか、説明せよ。
 
本設問を解くにあたり、傍線部アを含む第4段落から第6段落までの「カオスの縁」という概念と生物の関係に着目する必要がある。
 傍線部の「例外的」というのはまさに、「生物の営み」が自然界のなかで例外的、言いかえれば、第1段落からあらわれる「カオスの縁」の一種に属するということを指しているからである。
 まず、自然界の特徴は、傍線部の直後にあるとおり、「熱力学第二法則(エントロピー増大の法則)に支配されており、世界にある様々な分子たちは、より無秩序に、言葉を変えればカオスの方向へと、時間と共に向かっている」ことである。
 そして、その世界のなかで「『形あるもの』として長期間存在できるのは」、「化学的な反応性に乏しい単調な物質」が主なものである。
 しかし、生命は、「無秩序へと変わりつつある世界から、自分に必要な分子を取り入れ、そこに秩序を与え『形あるもの』を生み出していく」。
 また、「その積み上げられる分子の特徴は、鉱石などと違い、反応性に富んだ物質が主」である。
 このようなあり方は、「“安定”と“無秩序”の間に存在する、極めて特殊で複雑性に富んだ現象」であるとしている。
 以上のことから、「熱力学第二法則により分子が無秩序に向かうはずの世界から、化学的反応に富む分子を取り入れ、秩序づける生物の営みは特殊だということ。」(64字)という解答例ができる。

(二)「何か複雑で動的な現象」(傍線部イ)とはどういうことか、説明せよ。
 
まず、設問(一)においては隠れた主語が「生物の営み」であったのに対し、設問(二)においては「生命」が主語となっている。
 傍線部イのある第8段落は、生命が、「原子の振動が激しすぎる太陽のような高温環境」でも、「原子がほとんど動かない絶対零度のような静謐な結晶の世界」でも生きていけないことについての言及から始まるが、これを受けているのが、傍線部の直前の「様々な意味で生命は、秩序に縛られた静的な世界と、形を持たない無秩序な世界の間に存在する」という部分である。
 傍線部は、その前の第6段落および第7段落の内容を受けていると考えられるので、その要素を要約すれば解答ができる。
 第6段落については、「偶発的な要素に反応し、次々に違う複雑なパターンとして、この世に生み出されてくる」がメインであり、第7段落については、「進化は、自己複製、つまり『自分と同じものを作る』という、生命の持続を可能とする静的な行為と、変異、つまり『自分と違うものを作る』という、秩序を破壊する、ある種、危険を伴った動的な行為の、二つのベクトルで成り立っている」と「生命は、その静的・動的という正反対のベクトルが絶妙なバランスで作用する、その“はざま”から生まれ出てきた」が重要である。
 以上のことから、「生命は偶発的要素に反応し、複雑な類型として生成され、自己複製と変異という正反対の作用が絶妙なバランスで成立することで進化するということ。」(68字)という解答例ができる。

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