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東京大学2006年国語第1問 『死と宗教』宇都宮輝夫

 かつての東大現代文第1問の頻出テーマである「死」と「宗教」を文字通り真正面から取りあげた問題文。ただし、宗教的事象の存在理由がかなり割り切って論じられていて、とてもクールでドライな論考といえる。
 きわめて論理的であり、丁寧に根拠だてて述べられているのだが、論旨の展開やその根拠立ての順序が整然としているとはいえないため、注意深く前後を読み返しながら解釈していく必要がある。(第4段落末尾の「(後述)」がその象徴)
 それにしても、なぜかつて死は頻出テーマだったのか、そして近年は社会や政治などの現世的なテーマが多くなったのか、興味深いところだ。出題担当者がガラリと替わったのか、それとも学生にもとめる資質・能力が見直されたのか。

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(一)「死者は決して消減などしない」(傍線部ア)とあるが、どういうことか、説明せよ。
 傍線部アを端的に言いかえた箇所は、「先行者は生物学的にはもちろん存在しないが、社会的には実在する。先行者は今のわれわれに依然として作用を及ぼし、われわれの現在を規定している」である。
 これを傍線部に即してまとめると、「死者は生物学的には存在しないが、先行者として現在の世代に作用を及ぼし現在を規定しているという意味で社会的には実在するということ。」(64字)という解答例ができる。

(二)「人間は自分が死んだあともたぶん生きている人々と社会的な相互作用を行う」(傍線部イ)とあるが、どういうことか、説明せよ。
 傍線部イを読み解くカギは、「社会的」と「相互作用」の意味を明らかにすることである。
 まず「社会的」については、第3段落に「人間の本質は社会性であるが、それは人間が同時代者に相互依存しているだけではなく、幾世代にもわたる社会の存続に依存しているという意味でもある」と書かれていることから、世代を超えて存続する社会に依存しているという点が重要である。
 また「相互作用」については、傍線部の直前の文の「パラレル」と類義であり、「過去から現在へという方向」と「現在から未来へという方向」の二つの作用が相互性を持つということである。
 前者は、第3段落の「死んだ人間たちが自分たちのために残し、与えていってくれたものの中で生きること」であり、後者は「死を越えてなお自分と結びついた何かが存続すると考え、それに働きかける」ということである。そして、傍線部は後者の方に焦点を当てて述べたものである。
 以上をまとめると、「人間は、死者の遺産の中で生きるだけでなく、自分の死後のために働きかけもすることで、世代を超えて存続する社会と相互依存するということ。」(66字)という解答例ができる。

(三)「先行者の世界は、象徴化される必然性を持つ」(傍線部ウ)とあるが、それはなぜか、説明せよ。
 傍線部ウは、直前の文の「先行者は象徴を通じてその実在性がはっきり意識できるようにされなければならない」の言いかえである。
 この文は「それゆえ、」から始まるため、その直前の内容がまさに理由をあらわしていることになる。
 直前の文は「この縦の連続性=伝統があってこそ、社会は真に安定し、強力であり得る」だが、それはさらにさかのぼって「社会の連帯、つまり現成員相互の連帯は必ず表現されなければならない。さもなくばそれは意識されなくなり、弱体化してしまう。まったく同じことがもう一つの社会的連帯、つまり現成員と先行者との連帯にも当てはまる。この連続性が現にあるというだけでは足りない。それは表現され、意識可能な形にされ、それによって絶えず覚醒されるのでなければならない」と説明されている。
 以上のことから、「社会が安定し強力であるためには、現在の世代と先行者との連続性が意識可能な形に表現されることによって絶えず覚醒される必要があるから。」(65字)という解答例ができる。

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