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詩や短歌をよみます 自由律の俳句もよむかも
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#ショートショート

道の駅西瓜をおいた夕暮れにほおずきが浮くちりんちりりりん

ずっと待っていた。わたしは哀しかった。ただそこにいたいだけなのに常に痛みを感じていた。いつもみんなをみていた。みんなはわたしから眼をそむけた。夏の雨に降られるようにこの世界から消えてゆくのがこわかったわたしは、夕暮れの境界に立ち尽くすようにして自分で自分を縛り付けていた。長いときが経った。ひとはわたしをじぶんの仲間でないなにかとして畏れた。脚がひきのばされ顔が横につぶれたわたしの姿をみたものはみん

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椿のようにとろけなさいしゃらりら君はわたしの躰のなかよ

夕立がとろけるように降ってきた。あじさいが咲くように傘が次々とひらいた。ぼくは傘もなく立ち尽くしていた。理由は単純、忘れてきたからだ。しかしぼくには分かっている。もうすぐあの子がぼくのそばに来て、「仕方ないわね。また忘れてきたの……」ほら、こんな風になかば呆れ顔で傘の片側を差し出してくれるのだ。彼女は誇らしげなかおをして愛らしい傘を突き出す。ぼくは恭しくその片側に収まった。苔と草いきれと湿った土の

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