椿のようにとろけなさいしゃらりら君はわたしの躰のなかよ

夕立がとろけるように降ってきた。あじさいが咲くように傘が次々とひらいた。ぼくは傘もなく立ち尽くしていた。理由は単純、忘れてきたからだ。しかしぼくには分かっている。もうすぐあの子がぼくのそばに来て、「仕方ないわね。また忘れてきたの……」ほら、こんな風になかば呆れ顔で傘の片側を差し出してくれるのだ。彼女は誇らしげなかおをして愛らしい傘を突き出す。ぼくは恭しくその片側に収まった。苔と草いきれと湿った土の匂いの漂う中ふたりで歩く。蝸牛が近くの家の茂みを這うのを横目で見る。ねっとりとしたその這い跡はぼくにゆうべの事を思い起こさせた。あの子が家に誘ってくれたゆうべ。しっとりとした乳房の形と触り心地。貝殻のような美しい白い膚。胎内のぬちりとした暖かさ……。再び横目で彼女を見る。黒い髪に桃色の唇。昨夜の情事を全く匂わせることのない無垢な可愛らしさをあの子はまとっていた。「なによ、いやらしい眼でみられるのはごめんだわ」ぼくに躰を明け渡しておいてこの子はこんなことを云う。イノセンスの化身のような彼女を手に入れたようで、ぼくは独りほくそ笑んだ。「気持ちわるいわね、あんまりにやにやしてると置いてくわよ」

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