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政府から補助金だしてるのにカカオ農家が一向に豊かにならないのはなぜだ?

とある開発ワーカーの勉強会グループでおもしろいスレッドがでてきた。カカオを多く生産している某国のおそらく政府職員であろう人が研修を受けいてるときに発した質問だそうだ。

これはぼくが興味関心のある分野の話であり、論点がいろいろあるのではないかと思う。

話を進める前提として、チョコレートの原材料であるカカオは、タバコ、コットン、砂糖、ゴム、茶、コーヒーと並んでソフトコモディティにあたり、世界中で需要があるにも関わらず、それらを栽培している農家は貧しいままだという現実がある。

そこで某国は、カカオ農家が貧しいのであれば、補助金をだしてカカオ生産を助けてあげれば生産量が上がって、つまりはたくさん売れるということだから貧困から脱出できるだろうという仮定で補助金政策を行っているのだと思う。

ところが、冒頭の若手職員には現実はそうなっていないと感じたのだろう。

(ほんとに補助金は農家に届いているのか<≒誰か着服してるんじゃないか>、補助金がでるから以前より生産量落としている<≒働かなくなった>ということは今回は考えないこととする)

ぼくの私見

カカオ豆はコーヒー豆同様に国際市場で取引されていて、つまりはロンドンとニューヨークの先物市場で価格が決まるので、農家に価格決定権がない。買い手の需要によって価格が決まるので、補助金を出して生産量が上がったとしても、市場全体の需要も比例して上がらないと供給過剰になってキロ単価が落ちて、補助金分が相殺されているんじゃないかと思う。

打開策としては、コーヒーではスペシャリティコーヒーといって、農家とコーヒーロースターが直取引して、質の高いコーヒーを提供しているように、カカオ豆農家もBean to bar (ビーントゥバー) ムーブメントに乗っかって、直取引を行って、量ではなく質で評価される商品づくりをしないと、現状は変わらないのではないかと思う。

ただ課題は、コーヒーは毎日飲む人がそれなりの数いるし(コーヒー豆の主要輸出先は欧州、北米、日本)、だからこそ質にこだわりたいという人も相当数いるのだけど、チョコレートはぼくたちは日常的に食べるものではないので、コーヒーほど需要がない≒チョコレート専門店が成立しにくい(通常の板チョコより高いお金を払おうという人が少ない)=農家としては量も見込めないので直取引が成立しにくい、のかなと。

べき論と現実はごっちゃにすべきでない

勉強会グループには実際にカカオ豆農家を支援している人もいたのだけど、なるほどなと思う意見はなかった。難しいテーマだし、ぽんぽんアイデアがでるようなら誰も困ってないし、そんなもんだろうと思う。

一応紹介しておくと、
・原材料だけを生産しているだけじゃだめだ (付加価値があるものを作らないと豊かになれない)
・カカオ豆の販売価格を上げないとダメ(国際価格のベースを上げようという話かな?)

前者は最もな話だけれど、じゃあ農家さんたちがグループを作って、オリバ村チョコレートみたいなブランド立ち上げて製造・販売させてみるかという話になると思うんだけれど、誰が初期投資するんだ、どこで売るんだ、誰が買うんだ、配送はどうなってるんだ、とか考えるだけで難度高そう。だって、一村一品をイチから立ち上げる話でしょ、これ。それに基本的にすごい辺鄙な田舎だから。カカオ農家って。結局、そんな仕事は廃業してホワイトカラーの仕事を探せという話になりそう、それが一番貧困解決の可能性高そう。

後者は、言いたいことはわかるけれど、非現実的にみえる。例えば、ガーナのカカオ農家が市場価格の2倍の値段でしか売らない決めるとする。それまでガーナと取引していた業者はその価格をのむしかないのかというともちろんそんなことはない。市場価格通りに販売してくれる別の国のカカオ農家から買うだけだ。それは隣国のコートジボワールかもしれないし、コロンビアかもしれない。

つまりは一ヵ国の政府がその取り決めをしたところで意味がない。では、全世界で組合を作って最低販売価格を決めるか?それもどうだろう、各国で物価も輸出先への送料も生産量も変わってくるのに合意が得られるとは思えない。60年くらい前から国際コーヒー機関なんてものがあるけれど、コーヒー農家は豊かにはなっていないんだから、組合をつくれば万事解決という話ではないのだろう。資本主義社会に生きている以上、高い価格を出す業者がいれば、それよりも安い価格で売って利益を得ようする業者がいるわけで、世の中はその駆け引きの絶妙なバランスの上に成り立っているのだから、勝ち目はなさそうだぞと思ってしまう。

仮に販売価格を上げることを実現できたとしても上手くいくとは思えない。それは基礎的な経済学の需要曲線で説明できてしまう。つまり、商品価格が上がれば消費者の購入量は減る(※需要曲線は価格変化以外の、消費者の収入や嗜好、他の競合商品の価格などの要因は変わらないと仮定)。

まずメーカーの購入量が減れば、最終商品であるチョコレートのカカオの含有量が減る。そして価格も上がっているだろうから、仮にそれまで100円だったものが、150円になると、消費者の購入量も減る。そうすれば総需要が減る。それはつまりカカオ豆の国際取引価格も下落するわけで、結局意味ないというか、誰もハッピーにならないんじゃないかと思ってしまう。

もちろん、待遇改善を訴えること自体は悪い事ではない。大事なことだと思う。

けど、実務家として、開発ワーカーとしてすべきことはそれか?それだけなのか、いつ待遇が改善されるのか、本当に改善がなされるかもわからないことに期待するしかないほど、声をあげてただ待つしかないほど絶望的なのかと、あまりにも自分でコントロールし得ないことに頼りきり過ぎてはないかと思ってしまう。我々ができるのは、すべきなのはモノを高く売る(利益を多く残す)努力だけれど、ちょっと方向性が異なる。

ビーントゥバーの専門店はどれほど?

ビーントゥバーとはなにかついては各々調べていただくとして、簡単にいうと、” 専門店が「品質の良いカカオ豆を売ってくれるなら市場価格以上の値段で買いますよ」と持ち掛けて農家がそれにのる” ものだ。農家とチョコレート屋さんの直接取引なので、価格が市場価格に左右されず、品質が上がればよりよい値段で (チョコレート屋がつぶれたり、気分が変わったりしない限り) 恒久的に買ってくれる。

農家側はメーカーがどんなものを欲しているか知ることができるし、高く買ってくれるし、メーカー側も質の良いものを仕入れることができ、それにより多くのお客さんを惹きつけることができるという双方にメリットがある。

いま世界にカカオ農家と直取引できるようなビーントゥバー専門店は600~700くらいあると言われている。ここ10年ほどで4~5倍増えているようだ。これを多いと見るか、少ないと見るか、すごく成長している市場だと見るかは人それぞれだけれど、急激にメーカー数は増えていても原料であるカカオの購入量の伸び率は同じペースで増えていないそうだ。生き残り競争も激化するだろう、なにせぼくたちは毎日チョコレートを食べているわけではない。

全国100店舗!みたいなチェーン展開ではなく、2~3店舗あるいは1店舗程度の規模感で安定的に現地と取引をしつつ経営することを志向しているのかもしれない。それは文脈的にはサスティナブルかもしれない。

さらにおもしろい動きとして、ビーントゥバーメーカーが先進国だけではなく、カカオ生産国にも進出している例が多くあるらしい。すでにラテンアメリカに数百社あると言われている。

たしかに、ぼくは数年前セントビンセントというカリブの島国にいたのだけど、セントビンセントのカカオ生産はイギリスのメーカーが農家と契約か雇用契約を直接結んでいて、現地法人もありシングルオリジンのチョコレートを5~6ドルで売っていた。隣国のセントルシアも、グレナダも、トリニダード・トバゴも地元のカカオでチョコレートを作って売っていた。たぶんお土産市場がターゲットだと思う。

課題はマッチングといかに板チョコ1枚に2,000円だせる消費者を増やせるか

で、課題はやはり、どうやって先進国のビーントゥバーメーカーにやる気溢れる片田舎のカカオ農家が見つけてもらうか、だと思う。カカオの事例はあまり知らないけれど、コーヒー豆の場合だと、スペシャリティコーヒーをやりたいようなコーヒーロースターは、商社からの紹介が多いようなので、商社が仲介業者ということになる(カカオは人づてで現地事情に詳しい人に間に入ってもらうと聞いたことがある)。

つまりは、生産者側の農家は買い手からの問い合わせ待ちと言える。

コーヒーの事例でいうと、ルワンダでは政府や援助団体が小規模農家とコーヒーロースターをつなぐためにマッチング事業や、どんな品質の豆を作ればよいかの講習会もひらいているようだ。そういう取り組みが、カカオ業界でも求められるのではないかと思う(そしてたぶんこれはぼくが知らないだけであるはずだ)。その取り組みは業界の底上げにもなり、全体の品質アップにも寄与するはずだ。

(ただ、仲介業者って要するにどの農家を顧客に紹介するかの裁量があるといえるので、気をつけないと腐敗の温床になりそう)

現在、スペシャリティコーヒーは業界の生産量の10%程度を占めるようなので、現実的に、国際市場に卸す分も農家は持っているだろうと思う。なので、個々の農家としては、直接取引の比率を上げる努力をしているのかなと思う。まだまだこの分野の研究は少ないけれど、貧困削減には確実に寄与しているらしい。

カカオ農家も同じようなシナリオを通るのだろうが、カカオの場合はビーントゥバーメーカー全体の課題として板チョコ1枚に2,000円払える消費者をいかに増やすかが今後の業界の存亡にも関わる課題だと思う。

コーヒーなら、マクドナルドに行けば100円程度でコーヒーを飲めるけれど、かといって1杯300円のスタバも流行ってるし、5~600円のブルーボトルコーヒーも人気がある。何が言いたいかというと棲み分けができている。

チョコレートには今それがないことはない。ちょっとしたプレゼントなどでゴディバの高級チョコレートを買うことは多くの人にとって選択肢としてある。けれど、日常的に自分用のおやつで、となると板チョコ1枚100円程度がこれまでの基準だったわけだから、300円くらいならともかく、10倍の1,000円だなんてめちゃくちゃ抵抗がある。だってチョコレートでしょ? それが消費者の印象。この壁を乗り越えないといけない。

100円と1,000円のチョコレートのクオリティの差を多くの人に知ってもらって、価格に納得感を持ってもらわないといけないわけで、難度高い。各メーカー、ストーリーを語っておしゃれな包装や店内デザインでブランディングしている。ぼくも実際に買ったことあるし、個々のメーカーのストーリーに魅せれられるんだけれど、いずれどのメーカーのストーリーも似通って見えてくるんじゃないか、消費者が区別できないのでは?と思わなくもない。大きなお世話なのかもしれないけれど。

課題は多い、それでも…

前半はマクロな視点というか、市場全体について考えてみて、後半はミクロ、個別事例というか業界の小さな取り組みを紹介した。

スペシャリティコーヒーにしろ、ビーントゥバーにしろ、農家が生産する量のごくごく一部の取り組みに過ぎない。まだまだこれからの取り組みだ。(5年ほど前の話だけれど、ベトナムのコーヒー農家の時給は50円ほどなのだそうだ。ベトナムの平均年収はおよそ32万円ほどと言われているから、時給50円×10時間労働/日×30日/月×12カ月としても18万円なのでしんどい。)

それでも、農家の側が、豆のエンドユーザーであるメーカーと協力して付加価値創出に取り組むというのは、インターネットと物流インフラの発展の賜物であろうし、ただ何かを幸運を待つよりも、実際にメーカーと触れ合うことで起業家精神も育まれるだろうし、そこからまた新しい何か生まれるのではないかと期待もする。

とにかく、受動的ではなく能動的な取り組みというのはポジティブな結果を生むとぼくは信じているので、業界の動きは注視していきたいし、良い事例、良さげな事例は研究していきたいと思う。

「こんなアイデア・事例あるよ」「この認識はちょっと違うんじゃない?」というのがありましたら、気軽にコメントください。ぼくとしては議論を発展させたいと思っているので、多様な意見にふれたいし、小さな希望を見出したいのです。

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