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環境危機を叫ぶ若者は脱経済成長の夢を見るか?「人新世の資本論」

20万部突破した売れに売れてるコミュニズムの本。

表紙に4人推薦してる人がいるんだけど、そのうちの2人は明らかにアレな人でアラート鳴りまくりで、普通はスルーするんだけれど一目置いてる人もおススメしていてだったら…と思って読みました。

結論からいうと、本書の1章と2章はぼくたちが直面している気候変動の課題の現状と取り組みを説明してくれていて非常に勉強になります。これはほんとに一読の価値があります

先月、ベトナムに石炭火力発電を輸出するって本当ですか?というニュースが話題になりました。

ぼく、これ、曲がりなりにも貧困削減に取り組む者として、「じゃあベトナムの人は一生貧乏してろってこと?」って思ったんですね。

以前に、イギリスでトレーラーの中で39人のベトナム人の遺体が見つかったというニュースを見て心痛めたというのもあります。かなりバイアス入ってます。

地元にいても低賃金の仕事しかないから、一攫千金を夢に見て不法入国、不法就労に手を出してるんですよね。すっごいお金かかるんですけど、借金して、危険を冒して渡航するんですよね。

で、火力発電っていうのはその安定供給できる電力によって当該地域に新しい産業と雇用を生んだりして、地域の生活の質を上げるわけですね。

それを、先進国という安定した電力と生活を享受してる側の人が否定するのか…という気持ちだったわけです。

で、本書の1章と2章を読んで、どういう理屈で石炭火力発電輸出やめてくださいって言ってるのか理解できました。

端的にいうと、彼らは2030年までに二酸化炭素の排出量を半減、2050年までの純排出量をゼロにしないといけないと考えている人たちなんですね。

100年に1度レベルの台風や異常気象がほぼ毎シーズン、各地で起こるようになって、「環境危機はもう起こってるんだ」と意識させられる人は多いです。北極の氷や永久凍土が融けると海面が上昇したり、氷で閉じ込められていたメタンガスや未知の病原菌が流出するんじゃないかとも言われています。これらは、一度進行していくところまで行ってしまうと、もう手遅れ(=ポイントオブノーリターン)になってしまうんですね。

その手遅れを防ぐためには2100年までの平均気温の上昇を産業革命以前の気温と比較して1.5℃未満に抑え込むことが必要だと科学者は求めています。

すでに1℃の上昇が生じてしまっている(このままなら3.5℃~4℃上昇してしまう)ので1.5℃未満に抑え込むためには、2030年までに二酸化炭素の排出量を半減、2050年までの純排出量をゼロにしないといけないわけですね。

経済<環境派の人たちはこのポイントオブノーリターンをかなり意識してるんだと思いました。

だから、先進国のエネルギー効率の良い火力発電(途上国の技術でつくるよりも排出は相対的に抑えられる)でも排出される二酸化炭素の絶対量が増えてしまうから新規建設は反対なんだなと。それによって発展から取り残されてしまう人がいたとしても。

これはどっちも正しいと思います。

二酸化炭素の削減をしないといけないのは事実ですし、発展から取り残された人たちの悲惨なニュースは今後も起こり続けるでしょう。

で、本書は3章からコミュニズムがそういった問題を解決しますよ!と謳っているんですが、これはどうなんでしょうね。資本主義の世の中で選択肢があることは良いことだという価値観で育ってきた身としては、脱成長経済と言われると、また貧乏のままでいろという話かと辟易する気持ちがあります。

まず思ったのは、共産主義と環境問題って親和性高いが故に、若者の支持獲得できそうではあります。

ぼくの理解では共産主義って、どんな資源も有限だと定義しているんですね。なので、石油しかり、天然資源の枯渇や気候変動に対して、資本家が有限なものを無制限に使い過ぎた結果だ!と言い易い。そして資本家に対して徹底した不信感を持っているので、彼らは短期利益しか考えないんだ(自分たちさえ儲かればいいから労働者や環境のことなんて気にしないんだ)と批判するわけです。

たしかに、昨今、資本主義をちょっと変えないといけないとは世界中の人が主張しています。

( ぼくは個人的には、短期利益しか考えないのは資本主義関係なくて人間の脳の仕組みのせいだし、profit maximization(利益第一主義)なアングロサクソン資本主義がダメなんであって、三方よしの精神があれば、独り勝ちを指向しないようにインセンティブを設計すればよいのでは?と思っているんだけど。)

そもそもなぜ経済成長が必要かというと、金利というものが存在するからんですよね。企業や個人が新たに事業をしようと思えば、大抵の場合、自己資本だけでは足りないので銀行からお金を借ります。そのお金で機械を買ったり人を雇ったりして事業を行い、その売上から少しずつ返済していくわけです。

けど、その借金には利子というものが引っ付いてるわけです。借りた額より多くのお金を返さないといけないわけです。で、返し終わるころには、機械が古くなってたりして買い換える必要がでてきてまた借金する…という自転車操業なことになるんですね。

ぜんぶ自己資金でやればそうしなくても済みますが、そうするとその自己資金を貯める時間がものすごくかかるんですね。お金貯めている間にビジネスチャンスなくなっちゃうよね、機会逃したくないなら、お金を借りるしかないわけです。そして返済する。返済できなければ破産。自転車操業。ルイスキャロルが不思議の国のアリスの中で、「その場で留まり続けるには走り続けるしかない」と赤の女王に言わせていましたが、その通りです。今の生活を維持するためには成長し続けるしかない。そんなわけで金利分、毎年経済は成長せざるを得ない。それがだいたい年2~3%。

ぼくにしたって、400万円くらい大学院に進学するのに借ります。これを自己資本で、となるとまー無理です。東京でサラリーマンしてたときを基準に考えると、年間でがんばって50万円貯金できるかなくらいです。いろんなこと我慢するのを×8年…。アラフォーになってしまっているし、そこまで気力続かないでしょう。

そんな悲劇をなくしてくれるのが借金であり、借金すれば8年分先取りすることができるわけですよ。

この、言ってしまえば競争激しい早いモノ勝ちな社会が資本主義だと思うし、それが普通だと思っているので、脱成長経済と言われるとパッとイメージできないし、共産主義と引っ付くと心理的に拒否感が、ぼくは出てしまいます。

それに、借金ができないって、事実上、身分不相応なチャレンジができないってことだと思うので格差の固定につながるのでは?という疑念があります。

本書の中で提案されているのは、ざっと書くと、分業やめましょう。そうすれば人間らしい生活と尊厳を取り戻せます。そしてuberみたいな役に立つサービスは生協みたいな共同で運営できる仕組みにしましょう、これで搾取されなくて済みます。環境に配慮して無駄な生産をやめましょう、それによって余暇ができます、みたいなことなんですが、これはなかなか受け入れ難いです。

なぜ自分が向いてないと思うようなことをやらないといけないんだ、すごいストレス溜まるじゃないか、無駄な生産って何をもって有益と無駄の判断をするんだ、誰がなんの権限でその個人の趣味嗜好の購買活動を否定できるんだ、価値観が画一化されない?とかいろいろ思ってしまいます。なぜ共産主義的な価値観の人は絶対的な人生の解があると信じていてそれを押し付けてくるんだと感じてしまうんですね、生きづらさしか見えないんですよね。自由度が低く感じるんですね、曲がりなりにも資本主義を謳歌してる身としては。

ただ、現実的なところとして、なかなか賃金が上がらない、格差があるという諸条件がある中で、より良い生活をなんとかしようと思うならば必然的に協調が必要で、協調ならば、コープのような協同組合的な活動が活発になるのかなぁという印象を受けました。もちろんそれは共産主義体制下というわけではなく、資本主義下で。

「uberのような社会の役に立つサービスは共同運営で」っていうのはそもそもそういった新しいサービスは誰が開発するんだ、共産主義下でイノベーションが起こるのか?という疑問があるものの、国際開発で行われるBot方式 *1(build, Operate and Transfer)だったら可能性はなくはないのかなと思ったりもしました。

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あと、本書の内容からは話は逸れるけれど、今ニューヨーク市長選に立候補してるアンドリュー・ヤンは前回の大統領選に立候補したときに、成人した国民全員に毎月約10万円のベーシックインカムを支給します!って公約を掲げたんですね。

当然、財源は?っていう話になるんですが、それはアマゾンとかグーグルなどのデジタル産業から税として徴収するから大丈夫!みたいなことを言っていて、その主張はかなりおもしろいんですよね。

いわゆるアメリカの大企業って、恒常的に社内オペレーションの最適化が指向されてて、業務標準化してソフトウェア活用して、最終的には海外に外注するっていうのを繰り返して、人間の仕事をできるだけ減らす、もしくは世界で一番安くできるところに移管してるんですよね。

それが何を生むかというと、株主には割の良い配当株になるんでしょうが、その過程でカットされた人材は新たな良い職に就けていればいいですけど、効率化の影で必要とされなくなった人たちって競争社会で上手くやってる人たちよりはるかに多いと思うので、その人たちがちゃんとセーフティーネットで掬われる仕組みというか、再分配の文脈で見ると興味深いです。

社会主義的な考え方をアメリカも取るのかと注目してみています。

気候変動については、なにかコメントするほどの知識も経験もないのでまた別の機会に、ビルゲイツの本を読んだあとくらいに書いてみたいと思います。

論点の多い良い本でした。


*1 外国企業が相手国から土地を提供してもらい、工場などの施設を建設して一定期間運営・管理し、投資を回収した後に、相手国に施設や設備を委譲する開発方式。新規に債務を生じさせない開発途上諸国への協力方式。また、民間資金を活用したPFI事業で、民間事業者が公共施設等を建設して管理・運営し、事業期間終了後に国や自治体に所有権を委譲する事業方式

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