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知的財産権等使用料収支の黒字が大幅増~2023年10月の国際収支

※知的財産権等使用料収支の黒字が増えた理由について日本銀行の担当者の方から回答をいただきましたので加筆しました(12/11)

昨日(12/8)、10月の国際収支統計が発表されました。日経は、旅行収支の黒字が最大になったことなどを報じています。サービス収支の黒字が前年同月に比べて増えたのは確かですが、主因はそこではありません。本稿では、季節調整値と原系列の前年同月差に注目しながら中身を確認してていきたいと思います。


サービス収支の黒字化が経常収支黒字の増加につながった

 10月の経常黒字は季節調整値でみると2.6兆円。直近のピークとなった7月(2.6兆円)と並びました。5月から9月までは第一次所得収支のみが黒字でしたが、10月はサービス収支も黒字になったことが主因です(9月:▲3954億円→10月:6190億円)。第一次所得収支は黒字幅を縮小(9月:2兆9137億円→10月:2兆6140億円)、貿易収支の赤字も拡大(9月:▲1306億円→10月:▲2915億円)しており、季節調整値でみてサービス収支が黒字になったことが10月の経常収支の黒字拡大につながっています。
 一方、原数値の前年同月差をみると2.7兆円のプラス。直近のピークであった9月(2.0兆円)を上回りました。貿易収支の前年同月差がプラス幅を縮小させた一方、サービス収支の前年同月差が、9月のゼロから10月は1兆円へと拡大したことが主因です。

サービス収支の前年同月差は最近見ないほどのプラス幅

 サービス収支の前年同月差は、図を見ても明らかなように最近見ないレベルのプラス幅となりました(データを更新したときに間違えたか!と思ったほどです(笑))。
 しかし、その主因は日経の記事が書くように旅行収支ではありません。確かに旅行収支の前年同月差は若干拡大(9月:0.22兆円→10月:0.24兆円)しましたが、主因は知的財産権等使用料収支の前年同月差が大きく増加したことにあります(9月:▲0.12兆円→10月:0.84兆円)。
 
日本銀行のデータベースでより詳しい内訳をみると、知的財産権等使用料の受取の前年同月差がプラス(9月:▲80億円→10月:7406億円)、支払がマイナス(9月:1141億円→10月:▲947億円)になったためのようです。知的財産権等使用料収支は、特許などの産業財産権等使用料収支と著作権等使用料収支に分けられ、前者で黒字を稼ぐ一方、後者は赤字というのが日本の特徴になっています。ただ、前年同月差でみると、産業財産権等使用料収支(9月:▲24億円→10月:7566億円)、著作権等使用料収支(9月:▲1197億円→10月:787億円)と、ともに増加(著作権使用料収支は赤字幅の縮小)しています。どのような要因が背景にあるのか、日本銀行に問い合わせてみたところ、「製薬セクターにおいて、大口の産業財産権等使用料の受取が発生したことが主な要因」とのことでした。日本の技術が海外の製薬会社で使われたということなのか、それとも日本企業の子会社の海外生産の結果なのか。いずれにしても今後も注目していきたいですね。

貿易収支の前年同月差のプラス幅は縮小

 10月の貿易収支の前年同期差は1兆4059億円のプラス。2.2兆円のプラスだった9月から縮小しました。輸出金額の前年同月差が縮小(9月:プラス2256億円→10月:887億円)、輸入金額の前年同月差のマイナス幅も縮小(9月:▲1兆9248億円→10月:▲1兆3170億円)したためです。
 交易条件が追い風から向かい風に変わり、実質輸入も増えていることから、貿易赤字が今後縮小するには実質輸出の伸びが欠かせません。


#日経COMEMO #NIKKEI


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