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季節調整値でみると貿易赤字は拡大~2023年10月の貿易統計

※日銀が実質輸出の内訳を公表したため、加筆しました(11/21)

本日(11月16日)、2023年10月の貿易統計(速報)が公表されました。日経は貿易赤字が前年同月に比べて7割縮小したことに注目しています。ただ、いつものように季節調整値に注目すると、わずかながら、貿易赤字は前月から拡大しています。交易条件が追い風から向かい風になったことが一因です。

輸出金額が輸入金額以上に減少

季節調整値で見ると、に輸出金額、輸入金額ともに前月比で減少しました。輸出金額は前月比1.2%減、輸入金額は前月比0.7%減で、輸出金額が輸入金額以上に減少したため、貿易赤字は前月の0.42兆円から0.46兆円へわずかに拡大しました。

実質輸入がはっきりと増加

 実質輸出は前月比0.8%増。8月の4.4%増に続く2ヵ月連続の増加ですが、2023年7月の水準には及びませんでした。一方、実質輸入は前月比3.1%増。8月の2.4%増に続いて2ヵ月連続ではっきりとした増加になっています。実質輸入の水準(109.3)も2023年1月(109.8)以来の高さとなっています。実質輸出が伸び悩む中で、弱い輸入が貿易赤字の縮小に結び付いてきましたが、そろそろ終わりに近づいているように見えます。今後は実質輸出の回復が続くのかが貿易赤字の動向を左右しそうです。

交易条件は追い風から向かい風に

 金額ベースと実質ベースの輸出入の動きの違いは輸出入物価の動きの違いによります。円ベースでみた輸出物価は前月比0.7%上昇しているのに対し、輸入物価は2.3%上昇し、輸入物価の上昇率が輸出物価の上昇率を2ヵ月連続で上回りました。円安の影響は輸出、輸入物価の両方の押し上げに働きますが、契約通貨ベース(ドル建てなど)の輸入物価の伸び(1.3%上昇)が輸出物価の伸び(0.1%上昇)を上回ったためです。資源価格が下げ止まったことが影響していると思われます。この結果、交易条件(=輸出物価÷輸入物価)は2ヵ月連続で悪化しました。
 先月の本稿で「いよいよ、交易条件改善による貿易赤字縮小という追い風がなくなりました」と書いたのですが、追い風どころか向かい風になりつつあります。実質輸出が実質輸入をはっきりと上回ることがない限り、今後は貿易赤字の縮小が難しくなるかもしれません。

地域別・財別の動向は

 11月21日に公表された財別や地域別の実質輸出の10月分を7~9月平均と比較すると、このところ低迷気味であった中国向けを含めてすべての地域で実質輸出が増加しました。特に伸びが著しいのが米国向けで、10月分は7~9月平均と比べて5.6%増加しています。交易条件が向かい風に変わる中、地域別で実質輸出の底入れが確認できれば、先行きの貿易収支の見通しも変わってくるかもしれませんね。
 財別の実質輸出の10月分を7~9月平均と比較すると、中間財を除いて実質輸出が増加しました。自動車関連は7~9月期平均と比べて3.4%増、携帯電話やパソコン、デジタル家電、精密機械などとそれらの部品が含まれる情報関連は4.0%増です。自動車以外への輸出増の広がりが長続きするか注目したいです。一方で鉄鋼や化学などの中間財は2022年初頭からの低迷が続いています。そういえば、知り合いの化学メーカーの方が業況が厳しいとおっしゃっていました…

#日経COMEMO #NIKKEI

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