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2021年の実質GDP成長率が上方修正されましたね…

「コロナ前回復が早まった」は違うけど、2021年度が上方修正されたのは確か

 昨日、2022年7~9月期の国内総生産(2次速報)が公表されました。実質GDP成長率(季節調整済み前期比)は過去に遡って改定され、1次速報では4四半期ぶりのマイナス成長だったのが、2次速報では2022年1~3月期以来、2四半期ぶりのマイナス成長に変わりました。1次速報時点で書いた下記のnoteで指摘したように、ほぼゼロ成長だった2022年1~3月期がマイナス成長になったためです。

 日経新聞はどのように報じてくるのかな?と見てみると、昨日の夕刊ではたんたんと実質GDP成長率は前期比年率0.8%減と上方修正となったと書かれてました。また、今日の朝刊ではコロナ前回復が従来推計(1次速報時点のことでしょうね)より早くなったことを報じてました。

 コロナ前を2019年10~12月期とするのは問題があることは、複数のエコノミストが指摘していており、私も下記のnoteでだいぶ前から指摘させていただいてます。
 日経の記事では、「政府や経済協力開発機構(OECD)などはコロナ前の目安を19年10~12月期として、経済活動の回復水準をみていた」と正当化する一方で、「19年10~12月期は消費増税の影響で日本のGDP水準が低くなっており、コロナ前水準としては19年度全体が適切という考え方もある」と両論併記していました(笑)。

 一方、2021年度の実質GDP成長率が大きく上方修正されたのは事実です。先月の2022年7~9月期(1次速報、以下、改定前と記します)と今回の2次速報の実質GDPの前年同期比(以下、改定後と記します)を比べると、2021年度内だけでなく2020年度内の各四半期で上方修正されているのに対し、2022年度はわずかに下方修正されていることが確認できます。2022年7~9月期は前期比でみれば上方修正でしたが、前年同期比ではむしろ下方修正となっています。

 2021年の実質GDP成長率は改定前に比べて改定後は0.5ポイント上昇しました(1.6%→2.1%)。その内訳をみると、在庫変動(民間+公的)が0.4%、総固定資本形成(民間住宅投資+民間設備投資+公的固定資本形成)が0.5%、政府消費が0.4%とそれぞれ上方修正だったのに対し、民間消費はマイナス0.5%です。総固定資本形成の上方修正は思ったより投資が行われていたという面で朗報でしょうが、民間消費が減って在庫が増えたという姿も確認できます。民間需要と公的需要に分けて観察すると、それぞれ0.2ポイント、0.3ポイントの上昇であり、民需の力強さで上方改定したとは必ずしも言えないようです。

実質GDPと名目GDPで異なる、年次推計の影響

 過去の実質GDP成長率の実績値が上方修正されたのは、年次推計という、より詳しい基礎統計などを用いた推計が行なわれたことが一因です。詳細はやや細かい話なので、本稿の末尾に参考として書かせていただきました。
 実質GDPの変化は、名目GDPの変化と物価(デフレーター)の変化に分けて観察できます。そこで、実質GDPと名目GDPの水準(金額)で見た改定幅を次に確認してみましょう。
 実質GDPの改定の内訳をみると、民間消費は2020年は1.5兆円の上方改定に対して、2021年は1兆円の下方改定となっています。前年が上がり、当年が下がったため、2021年の民間消費の実質GDP成長率への寄与は小さくなったわけです。在庫は、2020年は1.8兆円の下方改定、2021年は0.2兆円の上方改定で、前年が大きく下方改定されたことで2021年の民間消費の実質GDP成長率への寄与が大きくなりました。政府消費は2021年に1.6兆円の上方改定となったこと、総固定資本形成は2020年の上方改定(1.8兆円)より2021年の上方改定(3.6兆円)が大きくなったこと、がそれぞれ実質GDP成長率への寄与の拡大につながりました。

 これに対して、名目GDPの内訳をみると、2020年の在庫変動が下方改定されているのを除くと、すべて上方改定となっています。民間消費も2020年は1.7兆円、2021年は2.1兆円の上方改定で、上方改定幅は2020年より2021年にかけて拡大しています。民間消費以外の需要項目の改定幅の動きは実質GDPと似通っており、民間消費の動きの違いだけが目立ちます。

民間消費デフレーターの上方改定が実質GDPの上方改定幅を小さくした

 名目GDPと実質GDPの改定幅における民間消費の寄与の違いの背景にあるのは、民間消費デフレーターの上方改定です。名目の民間消費の金額には価格の影響が含まれていますが、それを調整し、実質ベースにするのが民間消費デフレーターの役割です。
 この民間消費デフレーターの上昇率は、2019年、2020年ともに改定前と改定後で変化はないのですが、2021年は改定前のマイナス0.9%に対し、改定後はマイナス0.2%まで上方改定されているのです。民間消費デフレーターが大きく上方改定されたため、名目値で民間消費が上方改定されても、実質値では下方改定となったわけです。
 では、なぜ民間消費デフレーターは上方改定されたのでしょうか?詳しくは、下記のリンクの第一生命経済研究所の新家さんのわかりやすい解説に譲りますが、2021年に導入された携帯電話の格安プランの物価への影響を捉えなおしたことが主因のようです。 民間消費デフレーターの推計には消費者物価が用いられていますが、消費者物価において携帯電話の格安プラスの影響を過大に見ていたことを修正したというわけです。
 言い方を変えれば2021年4月以降の実質民間消費の伸びは過大に推計されていたのが修正されたわけです。

2022年入り後の民間消費も下方修正されている

 最後に、2022年に入ってからの実質GDPの前年比の動きについて、名目GDPとデフレーターにわけて確認してみましょう。
 冒頭に示したように、2022年1~3月期以降の実質GDPの前年同期比は、改定前に比べて改定後は0.1~0.3ポイント下方改定されています。寄与度分解すると、民間消費の寄与が低下する一方で、在庫変動の寄与が高まっています。実質GDPの前年同期比は2022年1~3月期からゆるやかに拡大していますが、中身を見ると必ずしも良い姿にはなっていませんね。

 名目GDPの前年同期比をみると、2022年1~3月期(改定前:0.1%→改定後:0.8%)、4~6月期(1.3%→1.4%)、7~9月期(1.3%→1.3%)と上方改定もしくは変化なしとなっています。民間消費の寄与をみると、2022年1~3月期は名目値が上方改定になっている一方で、民間消費デフレーターの上方改定により実質値は下方改定になっている姿が確認できます。一方、携帯電話の格安プランが導入されて1年経過した2022年4~6月期以降は、名目民間消費、実質民間消費ともに下方改定となっています。今後、この民間消費がどう推移するかに注目していきたいと思っています。

(参考)年次推計の影響について

 第1次年次推計以降の推計では、GDPはコモディティ・フロー法という方法を用いて、国内生産されたり輸入されたりした財やサービスを、消費、投資など各需要(原材料などの中間需要も含めて)に配分しています。そして、国内の最終需要から輸入を差し引いたものがGDPになります。
 内閣府が統計発表前に公表した「「2021 年度(令和3年度)国民経済計算年次推計」に係る利用上の注意について」によると、この配分比率は2019年(第3次年次推計)のものを基本的に用いているそうです。しかし、2020年に新型コロナ感染症の感染拡大により行動制限が行なわれた影響もあり、この配分比率は大きく変化している可能性もあります。そこで、業界統計などを活用して配分比率を見直し、2021年の第1次年次推計にも適用しているとのことです。
 このほか、2020年の第2次年次推計には、GDPの推計において重要な「経済センサスー活動調査」の情報も追加しています。これにより、他の基礎統計では得られない事業所・企業の活動状況を把握できるようになっています。
 政府消費の上方改定の背景など、上記の内閣府のリリースではわからない部分については内閣府に質問しております。分かり次第、追記いたしたいと思います。

#日経COMEMO #NIKKEI



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